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つき の ながめ

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つき の ながめ
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   【夜干玉之 其夜乃月夜 至于今日】


 日が傾いて、間も無く夜——。
 川上 一夫は大路の片隅ではあるが、人通りも多く目に留まりやすい場所で小さな露店を開いた。
 売り物はもちろん『月見団子』である。
 一夫は己の持つ【料理上手】と【調理知識:和】を駆使し、渾身の月見団子を作成する。
 ここ、京のあたりの月見団子は里芋を模した形をしているのが定番らしいが、好みにより馴染みのある丸いものも作ってみた。
 味も飽きないように、餡子、きな粉それにみたらしの三種を用意する。
 それらを売るのは、一夫の妻の川上 実麗だ。
 二人には大学生を初めに学齢期の子供が四人いて、学費が嵩むのだ。
 だからこそ、一夫はここで一儲けするべく、気合を入れた。

「お月見団子、如何ですか〜?」

 道行く人に実麗は声をかけた。
「良い月夜にぴったりの、お月見団子は如何ですか〜?」
 だんだんと夕闇が落ちてきて、間も無く月も昇る。
 この残りわずかな時間が勝負であると、実麗は確信している。

 ——明るい声に、柔らかな笑顔を浮かべて。

 実麗の売り声に、幾人かが足を止める。
「そっちのもお月見団子かいな?」
 見慣れぬ丸い団子に首を傾げつつも、男がひとり、月見団子を買い求めた。
「ええ、そうでございますよ。他所では月を模した丸いものを供えるところもございますし、こういった形のものを懐かしく思いお買い上げいただくこともございます」
 笑みを浮かべたまま、実麗はそう答える。
 男は京の生まれらしく、見慣れた方の餡子の団子を買って行った。なんでも供えた後、家族と一緒にお下がりを頂くのだと言う。
 今から帰って団子を作るのも大変だったので助かったと、そう最後に付け加えて男は包みを大事そうに抱えながら帰って行った。
「あのぅ〜……」
 そっと様子を伺っていた女が、おずおずと進み出て団子を指差す。
「その丸い方のをください」
 京にゆかりを持たない言葉遣いでそう言うと、そのまま黙り込んだ。
「餡ときな粉、甘塩っぱいタレもございますよ。こちらの方に団子に絡めてあるものもございますが、別にお付けすることも出来ます。如何でしょう?」
「じゃあ、あの、きな粉を別にお願いします……」
「承知しました」
 テキパキと実麗は、一夫の用意したきな粉の小さな包みを団子に添えて包むと、「お待たせ致しました」と手渡した。
「……母が作る団子が丸いものだったので、懐かしくて」
 そう言うと、大事そうに団子の包みを抱えて去っていった。その後ろ姿は、随分と軽やかに見えた。
 一つ二つ売れると、それに続いてぽつぽつと購入者が露店を立ち寄るようになり、月が東の空に登る頃には大方の団子は売れていた。
「もうそろそろ店仕舞いでよろしいかしら?」
 実麗は団子を少し取り分けてさっと隠すと、残った団子を何食わぬ顔で売り捌き、一夫に声を掛けた。
「売り切れたようですし、時間的にもちょうど良い頃合いでしょう」
 一夫も同意して荷物をまとめると、二人は大路を立ち去った。

 月は、昇る。

 帰る道すがら、一夫が誰もが休憩できるようにと設られた長椅子を見つけ、少し休憩することにする。
「今日はお疲れ様でした」
 椅子に並んで腰掛け、ホッと息をつくと月を見上げた。
 昇り始めたばかりの月は、未だ明るさの残る色合いの東の空に白く輝く。
「しばらくお月見でもしてから帰りましょうか」
 言いながら一夫は、取っておいた月見団子を実麗に差し出した。
「あら……」
 実麗は目を瞠る。
「わたくしたち、同じコトを考えておりましたのね」
 はにかむように微笑みながら、実麗はそっと隠しておいた団子を取り出した。

 月の下で。
 互いに労いながら食べる団子は、疲れを癒してくれた。


 
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