Ⅱ.PM12:00 白氷宮・城主の間
(《フィーダーの姉》でいったい何が起きているのでしょうか? 可能ならば遭難者も救出したいところですが……手遅れでも必ずや元凶を突き止め、魔物の仕業であるのなら討ち果たしましょう)
松永 焔子は考えながら、宮殿の通路を走っていた。周囲は床も壁も天井も白一色で、体感温度もさほど外と変わらない。まるで雪の中にいるような錯覚も覚える。
やがて通路は大広間へと繋がった。やはり一面白一色で、ともすればどこまでが床でどこまでが壁か分からなくなる。広さを測るにもよく目を凝らす必要があった。
そして、その大広間の奥で――何か、巨大なものが動いた。いくつか散ったように見えるのは雪――いや、羽だろうか。その中央で、紅く光る双眸。
「これが、事件の元凶の魔物……!?」
奇声を上げて、その巨大な白い烏が飛んだ。低空飛行で焔子に向かってくる。
と思われた瞬間、烏は一つ羽ばたいて横に飛んだ。鞘走りの音がそれを追う。
「あらら~。外れました~」
一気に踏み込んで無塵閃を放った
フレイア・フォルセティは、残念そうに呟いた。「頭目さえ倒してしまえば、後はどうとでもなりますからね~。飛雲舞天流の先の剣聖様方に近づくためにも、ここは頑張りましょう~」言って、フレイアは翠刃の居合刀を鞘に納めた。居合の構え。烏はフレイアを睨み、滞空して口を大きく開いた。フリジング・ブレス。凍気が広範囲に広がり、「あ、あら? あらあら」フレイアは思わず周囲を見回した。避けようにも範囲が広すぎる。凍らされる――?
「任せろ」
ラティス・レベリーがカイトシールドを構えてフレイアの前に立った。(行方不明者を助けたい。よくあるパターンだと、氷ついて氷像にでもされていそうだが……)周囲を見回すが、それらしいものは無い。
「とりあえずあの白い鳥を倒さねーとここら一帯は――俺の弓矢で仕留めてやるぜ!」
言って、
迅雷 敦也は狩人の弓に矢を番えた。鋭牙のドラゴンルーン。
「火夜、火だ!」
「はいは~い! エンチャント・ファイア~!」
迅雷 火夜が敦也の弓に炎を宿らせる。「小さな矢でも、何発も何発も刺されば少しは痛てぇだろ?!」三矢撃ち。三本の矢が敦也の弓から放たれる。烏は接近する炎の気配に寸前で気づき、回避した。二発は外れ、一発は命中する。烏は苦し気な奇声を上げた。魔法による強化と炎を得た矢は、烏に充分なダメージを与えたようだった。「綺麗な宮殿だね〜♪ 素敵ー! あれ、氷の女王様が悪〜い魔法使いに呪いかけられたのかな〜? 早くやっつけて楽にしてあげよ〜!」「そうだな! 火を!」
「遭難者が無事だといいんだが……あの化物を倒さないと、俺たちも生きて帰れそうにないな。やるぞアリーチェ!」
「ええ!」
星川 潤也の大剣に
アリーチェ・ビブリオテカリオが炎を灯す。潤也は滅竜の大剣を振りかざして烏に斬りかかる。烏はそれを躱して飛び上がり、急降下して爪を繰り出す。受け流し。潤也は大剣でガードして堪えた。
(この異常気象……原因があの魔物か? どちらにしろ、アレを倒さねば生きて帰れんのなら戦うしかあるまい)
降下してきた烏に
ジェノ・サリスが踏み込んだ。急襲突。軽業師の足捌きで踏み込み、精霊銀の剣での刺突を繰り出す。烏はこれも跳躍して躱し、空中から再び凍気を放った。「……軽いな」フィルメリアの首飾り。氷雪の魔法は首飾りの加護によって、その大半がジェノには届かなかった。
「参ります……!」
焔子がアイアンメイスに炎賦を灯し、烏に殴りかかる。烏はこれも跳躍して躱し、急降下して爪を繰り出す。「今!」叫竜波。竜の腕輪で強化されたシャウトが烏の動きを止める。「はあああっ!」横薙ぎのメイスが烏の頭を打ち据えた。烏の巨体が堪らず吹き飛び、倒れる。
「手応え、あり……!」