クリエイティブRPG

カルディネア

氷の宮殿 -Château Blanc-

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氷の宮殿 -Château Blanc-
【!】このシナリオは同世界以外の装備が制限されたシナリオです。
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 Ⅰ.AM8:30 フィーダーの姉・中腹

「……こっちだ。このまましばらく、崖に突き当たるところまで真っ直ぐだな」
 実際に目の当たりにしたフィーダーの姉は、確かにこの季節では考えられない、一分の隙も無い見事な雪化粧をしていた。ただ、出発当日は幸い朝から好天に恵まれ、冒険者たちは天候が変わらないうちにと朝食もそこそこに出発した。行坂 貫は先達の地図を手に、冒険者たちの一団を先導して山道を歩いていた。
(9月なのにどうして猛吹雪、嵐なのかな。フィーダーの……お姉さん。Septemberはなにかrememberして悲しいのかも。妹と比べると……人を拒むみたいに)
 ルチア・ヨーレンはそんなことを考えながら、同じく先達の地図を持って先頭を歩いていた。持参したモルゲンシュテルンに炎を宿らせ、雪を除去しつつ左右に押し固めている。(トンネルにできれば、遭難して行方不明になってる人たちを回収するのにもいいし……どちらにしてもしっかりした道は、戦う足場にもいいよね)
「急ぐ必要は無い。ゆっくり、足元に注意しながら登るんだ。転ばないのは勿論だが、高度を上げすぎると空気の薄さでやられるぞ」
 名和 長喜は冒険者達を振り返って確認しながら、地勢把握で危険な箇所が無いかも目を光らせていた。引き連れたポニーに薪や水、野営道具を積み込み、凍着を避けるために各種装備は可能な限り金属以外の物でまとめている。
「んー……植物の分布は妹さんと変わらんようでありますなあ……しかし……」
 キクカ・ヒライズミは植知を駆使して周辺の植物を調べていた。「何かあったか? ヒライズミ」「これであります」キクカは長喜に駆け寄り、手に取ったものを見せる。
「……椛、か?」
「妙であります。この雪が異常気象なら、この椛は紅葉であるべきであります。ところが、これは」
「……どういうことだ」
 キクカの差し出した椛の葉は、色を失い、痩せこけていた。盛りを過ぎて散り落ちた、冬枯れの葉のように。
「困難な自然環境に挑む! コレは冒険家として滾るねえ!」
 トスタノ・クニベルティは狩人としての野外行動能力で、軽快に雪山を踏破していた。仲間の情報を統合して最も安全なルートを進み、雪溜まりなどの障害物は「ラッセルといこうか! ドラゴンルーンよ!」息吹鎧のドラゴンルーンで力場を張り、掻き分けて平坦な道を作りながら進んでいる。「最短! 安全! 平坦! こんなところで体力を消耗するわけにはいかないからねえ」
「――お、来たか」
 貫がふと立ち止まり、空を見上げる。その肩に小さな雪片がかかる。降り始めた。しかし貫が見ているのは雪ではない。雪舞う空の向こう、微かに聞こえる甲高い声とともに近づいてくる影。「さて、やるかね――」貫は鉤爪ロープをくるくると回し、降下してくるストームクロウに投げた。命中。鉤爪を受けたストームクロウは大きくバランスを崩し、
「そら!」
 貫が大きくロープを引き、ストームクロウを地面に引き倒す。雪煙を上げて墜落したストームクロウに貫はダガーを構え、その場で振り抜いた。追撃する剣風。剣圧が衝撃波となってストームクロウの身体を斬り裂く。(あいつ、まあまあ肉付きが良いな……食えないかな?)考えながら、そのストームクロウに慎重に近づく。完全に仕留めたか確認するためだ。一応。
「おやおや、早速おでましだねえ! それでは行こうか!」
 言って、トスタノは軽業師の足捌きで高々と空に舞い上がった。ストームクロウの一匹と空中で交錯する形になる。零距離。獅子魂。ハーケンクローを身に着けたトスタノの拳が連続で振るわれる。雪煙を上げてトスタノが着地し、後方に細切れになったストームクロウが墜落した。
「来たか――ヒライズミ、カバーを」
「いぇっさー!」
「二番隊は後方へ! 宮殿までは一番隊に任せろ!」
 地壁列。応えたキクカが印を切り、彼らの眼前に巨大な土の壁が突き上がる。(恐らく異常気象と魔物の出現は因果関係があるだろう。真相が分かれば解決に繋がる筈だ)長喜はクロスボウにボルトを装填し、放った。命中。こちらに向かってきていたストームクロウの一体、その胴体に命中する。ボルトを受けたストームクロウは奇声を上げて高度を大きく落としたが、また体勢を立て直して向かってきた。
「ヒライズミ!」
「いぇっさー! フラグアウト!」
 イルミナロッド。キクカの杖が凄まじい閃光を発し、ストームクロウの視力を奪う。「火を」「はいはい」炎賦。長喜のクロスボウに炎が宿り、長喜がストームクロウに向けて引鉄を引く。命中。炎の矢を受けたストームクロウが激しい炎と奇声を上げ、爆発した。長喜は壁に隠れて爆風をやり過ごし、新しいボルトをクロスボウに番える。
「やるしかないかな……」
 ルチアは呟き、誘火玉を生成して宙に飛ばした。気づいたストームクロウが向かってくる。ふらふらと飛ぶ誘火玉を難なく躱し、ルチアに迫る。牽制だ。誘火玉は術者の意思で誘導できる。当てないことには意味がある。凍結呪。眼前に迫ったストームクロウをルチアは魔法で凍結させた。動きの止まったストームクロウに、炎賦を宿らせたモルゲンシュテルンを振り上げる。
「ごめんね」
 破砕。振り下ろした棘鉄球がストームクロウを破砕した。
「どうやら、いったん今ので全部だな。何とか切り抜けたか」
「では、進軍再開といこう! このぐらいの敵なら、いい運動になるし歓迎だね!」
 貫の言葉にトスタノが応える。「しかし、体力は消耗する。できれば一度どこかで休憩を取りたいところだな」「そうだね……襲撃が一度とは限らないし」長喜が言い、ルチアもそれに同意した。
「……んー……」
 キクカは倒れたストームクロウの一匹に近寄り、簡単に傷の手当てをした。さらに大樹のタリスマンをその足に結わえてやる。「何か理由があるのだろうけど、もう人を襲っちゃいけないのですよ?」ストームクロウがキクカを見る。視線の意味は分からない。まして言葉を喋るわけでもない。キクカは笑い、踵を返して仲間達を追う。
「さあさあ参りましょう! ゆき~の進軍氷を踏んで♪ どこが河やら道さえ知れず♪」
「天が我らを見放しそうな歌はやめろぉ!」
 その後、進軍を再開した一行は徐々に勾配の厳しい道に差し掛かった。「あー……そろそろやばいな。途中で滑るとえらいことになる」貫が鉤爪ロープを前方の木に投げた。ロープが木に巻き付き、引っ張って強度を確認する。「よし。皆つかまれ。転ばないようにな」
 さらに一行は進み、やがて勾配は少しづつ緩やかになったが――今度は一行の眼前に、壁かと思うような急斜面が現れた。
「……ちょっと待ってくれ。えーと、この壁の反対側ぐらいなんだが……」
「地図の順路通りならこの壁を右折だね。……大回りして半日かかるけど」
「半日山歩きは厳しいねえ! 登ろう! 僕がザイルを用意するよ!」
 言って、トスタノはハーケンを壁に突き立てて山壁を登り始めた。肩には登攀用のザイルを巻き付けてある。
「ポニーはここまでだな。地形もある程度平坦だし、雪を防ぐ木も充分ある。ここで一度休憩にしよう。ヒライズミ、荷下ろしだ」
「あいさー!」
 言って、長喜とキクカはポニーに積んでいた荷物を開けてキャンプの準備を始めた。火を熾し、折り畳みのテーブルセットを並べ、水と食料を用意する。
「お! いいねえ! 丁度お腹が空いてたところさ!」
 食事の用意が出来た頃にトスタノも壁から降りてきた。自分の席に座り、随行していた手荒い女僧侶から火精のランタンを借りて火を入れ、テーブルに置く。
 やがて一行は食事を終え、山壁の登攀に取り掛かった。時刻は午前十一時前後。先程から降り始めた雪は、勢いこそそのままだが止む気配は無く、空は灰色の雲に覆われつつある。まだどうなるかは分からないが、冒険者達は気持ち足早に山壁を登った。
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