第七章 →稼ごう、アルバイト→
「よっと!」
ガスベガスの街の中に点在する塀と壁を軽々と飛び越えていく
ジェノ・サリス。その軽快な動きに観客達が驚きと楽しさの声を上げているのがよくわかる。
……というのも現在、ジェノはアルバイトの真っ只中。持ち前のスキルを活かしてのアルバイトを探していたら、丁度パルクールのパフォーマンスアルバイトの募集があったので、ちょっと応募してみたらすぐに応援として呼ばれたようだ。
カジノ街、港町、裏町との境まで走って飛んで、ついでに街の中に怪しい人物がいないかどうか、街並みはどのように入り組んでいるか等の情報を集めながらアルバイト業務に勤しんでいた。
(とは言っても少し気を緩めると落ちてしまいそうだな……)
住宅の高低差の激しいガスベガスのパルクールは、ちょっとした余所見も命取り。
故にジェノは簡易な情報収集に留め、アルバイトの業務に専念し続けていた。
「お、いい感じに登れそうな所!」
ジェノの目の前には、おおよそ人の力では登るのが難しそうな壁が立ちはだかる。
だが彼は楽しそうな表情を浮かべると、壁と壁を繋ぐ縁を掴んで己の身体を押し上げて壁を登っていった。
これには周りの観客達も大いに驚き、声が漏れる。そんな壁を登るなんて予想もしていなかったからだ。
「すげぇ! あの壁を登るなんて、兄ちゃん何者だ!?」
「えっ、もっかい! もっかいやってみせてくれ!」
大盛況の中、ジェノは観客達に取り囲まれてはもう1度やってほしい! とせがまれる。
おかげでしばらく、アルバイト業務が終わることはなかったそうな。
一方で、歓楽街ではジェノのパフォーマンスを遠目に眺める人々が多い。
そんな人々におつまみやらお酒やら、いろんな食事を運んでいるのが
人見 三美だった。
「おーい、ちょっとおつまみ追加お願いしていいかなー?」
「はっ、はーい! 只今お持ちしますー!」
オークション前だからなのか今日に限って歓楽街は人の出入りが激しく、人手が足りていない状況。
そんなところにやってきた三美の存在はまさしくお店の救世主とも呼べるようで、給料はだいぶ弾むとお店の人に言われていた。
「おまたせしました、追加の焼き鳥になります」
「ん、ありがとう。あ、このお皿下げていいよ」
「はい。それではお下げしますね」
こんなやり取りは今日1日で何回も、何十回も行われた。それだけ人が足りていない。
そのせいか三美にはだいぶ疲れが溜まっており……。
「……あっ……?!」
――ガチャン。
落ちそうになったお皿を何とか抑え込めたかと思ったが、残念ながら1枚のお皿が割れてしまった。
お客に被害が出ることはなかったが、それでも給料に響いてしまった。
ジェノの給料支払い……大盛況効果もあり、30万円
三美の給料支払い……軽微な損害発生のため、10万円