第五章 →ブルースフィアの噂→
時同じくして、別の酒場では
焔生 セナリアがお酒を注文して休憩中の船員達と話をしていた。
主にブルースフィアの話を続けていたのだが、船員達は特段興味を見せる様子はない。
というのも、その来歴の中に恐ろしい逸話があるからだと言う。
「逸話、ね……どういう話?」
これはお礼に、と言うようにバーボンウイスキーを開けてグラスに注いだセナリアは、ブルースフィアの来歴について情報を得ることが出来た。
曰く、ブルースフィアが出来た経緯などはわかっていない。
わかっていることはこのブルースフィアはもともとは隣国オルダランドの国宝だったのだそうだ。
600年前にオルダランド王族から流行病の解決に奮闘したとある貴族に贈られ、その後は家宝として大切にされたという。
「ん? それだけなら、別に恐ろしくもないわよね?」
「いやいや、恐ろしいのはここからさ」
「ああ、100年前のあの話だろ? あれは完全に、呪いだよなぁ」
船員達が語る、恐ろしい逸話の始まりは100年前の事故。
家宝として大切にされていたブルースフィアだったが、貴族の家が危機に瀕したからか外国へ売りさばかれようとしていた。
その時に船で持ち出そうとしていたのだが、大嵐に出会い船諸共一家全滅。ブルースフィアも海の底へと落ちたそうだ。
「その後は何度も何度も引き上げては海の底へ、を繰り返していてよ。1年前にようやくダムド国が引き上げて、所有物になったんだ」
「ああ、でもさ。確かオルダランドが所有権主張してなかったか?」
「そういやそういう話もあったよなぁ。今回のオークションで買い取るかもなあ」
船員達の憶測がいくつも飛び交う。ダムド側、オルダランド側、どちらに所属しているわけでもない船員達の憶測はいつしか酒場獣に広がっていった。
「なるほど……。いや、貴重な話をありがとう。これは追加のお礼よ」
セナリアは最初に話してくれた船員達にバーボンウイスキーの代金に加え、追加で1万円ほど握らせた。ここまで話をしてくれたお礼だと。
すると船員達はセナリアの情報料の値段に驚きを隠せず、その情報以外にもと追加の情報を教えてくれた。
「盗賊団が動いている、という噂がある。……流石に噂だけだから、本当に来ているかまではわからないが……」
「盗賊団、ね。覚えておくわ」
支払いを済ませ、セナリアは酒場を後にする。
今夜行われるオークション、その会場で起きるのは果たして――……。