第一章 →怪しい荷物はお引取り→
ギャンブラーたちにとっては絢爛豪華な楽園――賭博都市ガスベガス。
裕福と貧困を一瞬にして味わう事ができる都市の裏側は、真っ黒な闇が広がっている。
それを示すのが、隣接している裏町。ボロボロにくたびれた街並みはまさに目視しているとおりの様相で、犯罪の温床。
「……すごい、な」
そんな場所へ訪れている
ラティス・レベリーは現在、カジノへの疑惑を胸に裏町へと訪れていた。
先立って聞いていた情報を元に弾き出したラティスの考えは、カジノから人が消えたのはフロア全体に何かしらの仕掛けが施されているからではないか、というもの。
客が全員消えたのはその仕掛けによってフロアから消えたように見せかけられ、人質として取られているかもしれない……。
(だと、したら。ブローカーとの、取引が、重要……?)
純白のスーツとサングラスを現地で購入し、いかにも金を持っているように見せかけたラティスはカジノへ向かう前にブローカーを探す。
もし、ブローカーさえも敵であれば抑え込む。その気概を持って接触を開始した。
「おや、お兄さん何かお探しかな?」
裏町を数分も歩けば、顔をマスクで覆った人物がラティスに話しかけてくる。
どうやら彼が件のブローカーのようで、ラティスが彼に探していたことを伝えるとちょいちょいと手招きすると誰もいない裏通りへと連れてきた。
「で、何がほしい?」
「そうだな……大至急で、携帯が欲しい。流石に、身元が割れると、まずい」
「なるほどね。……ふむ、仕方ないな。身元が割れるのがダメってなら、コイツでいいだろう」
そう言うとブローカーは携帯を渡す。通話のみが可能なタイプの携帯で、これなら身元が割れることはほぼあり得ないと豪語する品だそうだ。
ありがとう、と礼を述べたラティスは足早に携帯を片手に裏町を渡り歩き……。
「あとは、調べてもらうだけだな」
裏町にこっそりと作られていたゲートを通り、ホライゾンへと戻るラティス。
一瞬のうちに訪れる闇と無重力感がラティスを包み、次に光が戻ったときに彼は気づく。
――その手に握られていた携帯が、無くなっていることに。