第1章『ノラブキを捕まえる』
人間の姿を模した兵器たちが人々を守るために戦う世界「アーモリー」
いつもは青い空と海が広がる場所だったが、今日は大雨が降り海も荒れていた。
「ノラブキの噂は聞いていたが、よりによって会議に使うものに手を出されるとは」
「たぶん。本当にお腹がすいて困っていたんだよ」
入り江の姫令部の教導官であるコウタ・シンプウと所属している武姫であるキャリーが雨の中を進んでいく。
「うーん、ここに来るのは久しぶりだね」
アイン・ハートビーツもまた天候が悪く、雨が降りしきる中を飛んでいた。
身につけていた『【空】無線傍受機』を使い、ノラブキたちの無線を聞こうとする。
『・・・・・・コンテナ、奪ったけどどうする?』
『どうするって、とりあえず逃げるしかないでしょ!』
アインが聞く限り、指揮するような武姫もおらず統率が取れていないようだった。
「スイーツを盗むくらいだからきっと食糧事情も良くないはず」
アインはそこから現在の進路と退路を予想し予め先回りする。
ノラブキたちがこれから向かうであろう場所へ到着すると『枕双視』で監視した。
「捕まえたらどう説得しようか」
マトリクスを展開した『枕双視』で様子を見ていると、さっそくノラブキたちを見つけた。
彼女たちはこちらの教導官から逃げている真っ最中だった。
アインはノラブキの退路を塞ぐように正面に出ると、威嚇として『【空】キャットの機銃×2』を撃ち始める。
ノラブキたちもアインの登場に驚き、それぞれ散り散りになって逃げようとした。
「いつまでも野良なんかで居るより、こちらに降伏した方が良いと思うんだけどな」
そして、彼女は同行していたツヴァイ(
空/アルバトロスD.II)に指示を出す。
「味方の武姫もいるけど、目標だけを狙って」
「分かったわ!」
ツヴァイはマトリクスに干渉し、強制的にエネルギーを解放すると敵の艦姫に攻撃をした。
すると、アインにノラブキが飛んでくる。
アインは海面に対して水平に飛びながらノラブキへ接近する。
そして、霊力を集中させ翼を巨大な刃にしてノラブキを切り刻んだ。
負傷したノラブキが海に浮かぶ中、アインが問いかける。
「仲間になれば盗まなくてもスイーツ食べ放題だと思うんだけど、どうかな?」
その頃
キョウ・イアハートはおじさん(
空/九七式艦上攻撃機)と
ニシキ(
超空/二式飛行艇)とともに荒れた空を飛んでいた。
「ここの姫令部の実態にゃあかるくないが、スイーツが絡む案件だ、ってんなら俺も動かなきゃ嘘だろうよ」
彼らは皆『【空】FuG202U+照準器』を装備している。
「別に命まで奪えっつー話でもねえなら包囲して相手の霊兵装の無力化を図り、
スイーツの奪還をする、っつー感じでやろうかと思うんだがどうだろうか」
ふとキョウが武姫たちに提案する。
「確かにおじさんも命を奪うのはあまり好きじゃないんでね」
おじさんが言うとニシキも納得するように頷いた。
「作戦としては対飛機の戦闘経験も少なくねえし、陣形は臨機応変にシフトするぜ」
キョウたちが進んでいくと、ノラブキたちの姿が見えてくる。
「ここでは“空より吹き落ちる風”なんて名を背負っちゃいるがその実スイーツ大好きなおにいさんだからな。
ノラブキ共がなんだってスイーツを狙うのかも気になるしな・・・・・・」
さっそくキョウが指示を出すと、武姫たちはそれぞれ別の高さで飛ぶ。それを行うことにより、ノラブキたちの照準を散らした。
そして、おじさんは敵の霊兵装に向けて攻撃を開始した。弾が霊兵装に当たれば腐食毒が作用し始め、ダメージを与える。
キョウも『【空】FuG202U+照準器』で照準を合わせると、重機関銃である『【超空】フィフティーキャル』を構えた。
303ブリティッシュ弾を装填し発射すれば波状の軌道で飛んでいく。
敵に当たればおじさん以上に腐食毒でダメージを与えていき、さらに腕や脚を痺れさせた。
「この私が指揮官のフォローにまわる」
ニシキはノラブキの移動速度や距離から着弾点を予想し弾を放てば吸い込まれるように命中する。
やがて、ノラブキたちも対抗するべきではないと判断したのか、逃げる態勢に入った。
「逃がさないぜ!」
キョウは高度を維持したまま、横方向に機体を回転移動させノラブキたちの目を惑わせる。
その隙に接近すると、霊兵装部分に再び弾を放つ。要の部分を破壊されるとノラブキたちは海へと落ちていった。
「結局、元の陣営には戻らずに無所属になった者たちか。俺は先の戦いで、ダニエルや奴らの思想を完全に否定した。
そうである以上、何かを言う資格などないだろう」
別の方面では
黄泉ヶ丘 蔵人はハルナ(
海/戦艦“榛名”)と
イロハ(
空/“彩雲”)とともにノラブキがいるであろう海へ向かった。
「悪天候な上に相手は回避に長けている。狙いはいつも以上に正確にしなければならんな」
「そこであたしの出番だよ!」
イロハは観測手としてマトリクススコープで周囲の様子を見ながら情報を共有していく。
その情報を聞いた蔵人は『【超陸】アンスティス』の命中精度を上げるため武姫の知識も頼りに狙いを定める。
さらに特殊装甲『【超陸】アングリフ・スフェスト』を展開し反動を大きく減らし、身体を支えた。
「ノラブキ、見つけたよ!」
「行きましょう。私は教導官の盾、足となります」
イロハの言葉で蔵人を乗せたハルナが動く。
ノラブキたちもこちらの存在に気づいたのか、スピードを上げつつ回り込み威嚇として弾を放ってくる。
「回避します」
ハルナはダズル迷彩を利用し、弾を避けた。
「生き様を否定し、それでもこちらの都合で生きていて欲しいと願うのだ。恨まれるのは至極当然」
蔵人は『【陸】フレシェット弾』を戦車砲に装填してく。そして、ノラブキへ向けて発射すると、弾は引力を発生させた。
同時に重量も増加させノラブキの動きが鈍る。その一瞬の隙に弾が当たり、ノラブキが沈んでいく。
「寧ろ、その恨みを糧に生きる活力が沸くというのなら存分に恨め。そう・・・・・・俺はそもそも闇に生きる者。
そういう汚れ役こそが、似合いなのだ」
「よりによって本部の会議用のスイーツですか。どうあっても返していただきますわ」
エスメラルダ・エステバンはネイ(
海/重巡“利根”)とともに荒れた海を進んでいた。
エスメラルダは『【海】SGレーダー』を使い、ノラブキたちを探す。
「入り江の姫令部の皆様は数々の出来事を乗り越えてきました。今回のような騒動が続けば皆様の努力が水の泡に。
そうならないためにも、強奪されたスイーツを取り戻しますわ」
しばらくして、レーダーに反応がありエスメラルダたちがそこへ向かえば、逃げていくノラブキがいた。
「お菓子返さないなら、わしの砲撃も食らう覚悟あるんだろうな!」
さっそくネイが口調荒く砲撃を開始する。その爆音にノラブキも必死に逃げようとした。その光景にエスメラルダは苦笑する。
「ネイったら、ハロウィンみたいなことをおっしゃって」
『球状艦首のハイヒール』により速くなり、彼女はスケートを滑るように追いかける。そして、魚雷を発射し足止めを狙った。
エスメラルダが複数魚雷を同時に射出すると、ノラブキのすぐ後ろで爆発する。
その波に飲まれかけている間に彼女はマトリクス製の打刀である『【超海】紫桜』を振るい、霊兵装を斬り裂いた。
斬られたノラブキは不安定な状態から海に沈みそうになった。
一方、
葵 司はノラブキたちの様子を見ながら、首を傾げていた。
「ダニエルがいない状態でも行動してるのが自発的なものなのかただの惰性なのか気にはなるけど、何にせよ放置は出来ないか」
彼の足場としてプリン(
超海/プリンツ・オイゲン)もそばにいる。
「自発的なものならネームドがいてもおかしくなさそうなんだけどな。ともかく飛姫の対処は任せてくれ」
コウタに言うと、司はノラブキの捕縛へと動き出した。その一方で
ノーネーム・ノーフェイスが問いかける。
「アタシは武姫じゃなければコウタの部下でもない。つまりアンタの意向を無条件に受け入れる必要はない。
それでもプリンを戦場に出すなというなら納得いく理由を説明しな!」
彼女の煽りにコウタは答えた。
「ノラブキたちは先の大戦でほったらかされた武姫たちの一部だ。
ダニエルっていう唯一の教導官がいなくなってどうしたらいいか分からなくなっているはずだ。
コンテナを盗んだのも生きるため仕方なくだと思うし」
「それがどう繋がってくるんだ?」
コウタの言い分にノーネームは問いかける。
「つまり今回はどちらかというと保護する感覚に近い。
だから、相手も武器を持っている以上多少は戦ってもらうかもしれないが、本気で倒す必要性はない」
彼が一通り説明し終えると、ノーネームはなるほど、と呟き出撃した。
一方、司の方はなる(
海/戦艦“榛名”)たちとともにノラブキへの攻撃を始める。
「回避には自信があるみたいだが、色々組み合わせたらどうなるかな?」
司は機銃『【超陸】シャーゲン』を連射し、広範囲に弾を放っていった。
弾には引力が付与され、ノラブキを引き寄せようとする。
「確実に戦力を削がせてもらう!」
さらに、司は『【陸】焼夷弾』を放ちノラブキに命中すると、その霊兵装が一気に爆発し燃え上がった。
「あ、熱い!」
当たったノラブキは自分から海に落ちていく。
なるも荒れる海に働きかけると、ノラブキをなんとか引き寄せ、一気に薙ぎ払った。
徐々に数が減っていくと、今度はマトリクスを身に纏いノラブキに見つからないように海へ潜水し、奇襲をかける。
一方、ノーネームもノラブキの前に立ち塞がった。
「荒れた海に向こうは速度重視、ブルーアドミラルとしての腕が鳴るね」
彼女は敵からの攻撃に対し、潮目や波の動きを読みつつ利用して回避をすると『【海】三式通常弾』を発射する。
「威力はともかく範囲をカバーしたいからね」
放った弾は破裂し、内包されていた弾子を大量に放出された。
ノーネームが攻撃している間に士郎(
超海/戦艦“山城”)がノラブキたちの元へ斬り込んでいく。
「超弩級軍艦の剛力、甘く見ないでいただきたい」
彼がマトリクス製太刀を振るうと、ノラブキたちも反撃に出る。すると、司は反射神経と精度の高い狙撃で敵の砲撃を相殺した。
「反応できるか微妙なとこだったが、つぶせていりゃ文句なしだな」
やがて、司の元にノーネームと武姫たちが集合する。
「よし、この勢いのままノラブキを弱らせて捕まえるぞ!」
司が号令をかけると、皆一斉に陣形を展開し進み始めた。
キャリーたちが向かっていると、
星川 潤也たちと合流する。
潤也の後ろには
アリーチェ・ビブリオテカリオと3姫の武姫たちもいた。
「なあ、コウタ。もしノラブキたちが、人から奪わないとスイーツを食べられないような生活を送ってるんだったら、
入り江の姫令部で面倒を見てあげられないか?」
潤也の提案にコウタが頷く。
「確かに、どこの陣営だったかに関わらず武姫の保護は自分たち教導官の仕事だしな」
「それに、ノラブキたちにも思う存分スイーツを食べさせてあげられるかなって思ったんだけど。
武姫が略奪なんかしないように正しく導いてやるのも、俺たち教導官の務めだしな」
まもなく潤也たちはノラブキたちの元へ到着した。彼女らは他の教導官や武姫たちと交戦中だった。
「何にしても、まずはノラブキの鹵獲だ。行くぞ!」
潤也の言葉を合図に
海/重巡“利根”と
海/重巡“古鷹”が砲身を構える。
「わしに任せろ、教導官。撃って打って打ちまくってやるぞ、ハーーーーハッハッハ!!」
利根が主砲を撃ちまくる一方で小鷹は丁寧に目標を狙っていく。
「ボクは確実に当てていくよ。狙った相手は外さないからね!」
「みんな、やりすぎないように注意してくれ。もしノラブキたちが降参したら、すぐに攻撃を止めるんだぞ」
潤也自身は『【海】8インチ三連装砲Ⅸ』を使い、直線を描きながら『【海】三式通常弾』を放とうとする。
しかし、ノラブキたちも対抗するために攻撃をし始めた。
すると、咄嗟に
海/重巡“ドイッチュラント”が割って入り霊兵装のエネルギーをバリアとして展開する。
「私のセントエルモで、みんなを守るわ・・・・・・絶対に傷つけさせないから・・・・・・」
「今だ! 行け!」
ドイッチュラントが防御している間に潤也は武姫たちと総攻撃を仕掛けた。攻撃が当たるとノラブキは海に落ちていく。
やがて、逃げようとしていたノラブキたちの霊兵装などを破壊し海に落としていった。すると今度はアリーチェが動く。
「戦闘は潤也たちに任せておけば大丈夫よ、キャリー。それより、あたしたちはノラブキたちを保護しましょ」
彼女はキャリーとともに『水上オートバイ』に乗って荒波を進んでいた。
そして、ノラブキたちの前に停めたのは『バナナボート』だった。
「さぁ、バナナボートに乗せるわよ。キャリーも手伝って」
アリーチェはさっそく海に浮かんでいるノラブキを引き上げると、バナナボートに乗せていく。キャリーも同様に乗せていく。
「な、なんでこんなことを?」
ノラブキの一人が問いかけると、アリーチェは怒るように言った。
「そんなの助けたいからに決まっているじゃない! じゃ、みんな乗ったわね」
彼女は『水上オートバイ』に戻ると、エンジンをかける。そして、アクセルを踏み荒れた海を走り出した。
「しっかり捕まってなさいよ!」
「な、なにこれ? アトラクションかなにか」
振り落とされそうな勢いにノラブキたちが戸惑う。やがて、そのスピードのまま入り江の姫令部まで到着した。
「さぁ思う存分スイーツを食べさせてあげるから、あんたたち、もうスイーツの略奪なんてするんじゃないわよ」