■VS巨大イカ! 空中海獣大決闘!
――突き抜けるような青空。雲一つない青色キャンパスがただただ、今まで無人であった一つの浮島を見つめている。
名前をまだ持たないその浮島。以前は人の気配のない場所であったが、現在は十数人ほどの来訪者たちが島を訪れていた。
観光をするにはまだ何もない。……来訪者である契約者たちは、観光をするための準備として、浮島自慢の一つである内海に住まう二つの脅威に立ち向かおうとしていたのだった。
……浮島内海、東部。海岸からは離れた場所であり、こちら側の岸辺は観光に向かない岩場が多く点在している。
その海域へ、何組かの契約者たちがそれぞれ――空中移動による手段で近づきつつあった。
「――わたくしの出番ですの?」
「そそ。巨大イカってのは美女を見ると捕まえようとするんだよ、お約束的に」
内海東部を根城としているのは、150メートルほどの体長を持つとされる巨大なイカ。同じ内海の西部に棲む巨大タコとは因縁のライバル関係にあるらしい。
そんな巨大イカを誘き出すため、
空音 見透は
レオナイゼ・タクトレーネスへあることないことを言葉巧みに説明し、ある役割をやってもらおうと企んでいた。
「だから、この場で一番の絶世の美少女であるお嬢が居たら巨大イカもオソッテ……クルンジャナイカナー……?」
さすがに通用するかわからないのか、語尾がちょっと弱くなっている見透。……だが、その心配は実に無用であった。
「なるほどなるほど……理にかなっていますわね。皆様のためにも、わたくしの麗しき美貌で巨大イカを誘き出してみせますわ! オーホッホッホ!!」
内海東部上空に響き渡る、レオナイゼの高笑い。――かくして、イカの電球作戦と後に説明される囮作戦が開始される運びとなった。
《空賊王のブーツ》で上空を制しながら、後方にて目標が出てくるのを待つ見透。「レオナお嬢様……」と心配そうに見つめる
ポーティア・ドロップや、他の契約者たちと共に、一行の前方にて戦闘態勢を構えたまま待機しているレオナイゼを見届けていた。
《ブリリアントセイバー》を構え、《スターマーメイド》を身に纏うレオナイゼ。二つの装備の相乗効果によるものだろうか、高貴なる剣が発する光条エネルギーが全身を走り、星輝なるドレスがエネルギーに反応していくつもの光の粒が強く輝きだす。――結果として、その場で待機しているだけにも関わらず、全身が強く発光し……海中遠くにも届く光源となる。本人は囮として動くことの気合い入れに過ぎないのだが、意に介することなくイカ電球としての役割を十二分に発揮している。
「わ、すごい光。ボクたちもサポートしなきゃ!」
「――ロザンナちゃん、タコの眼って性能が良すぎて脳が処理しきれないんだって」
「……タコ知識だよね? それ」
周囲にいても眩しいと認識できる光源をより強めるべく、《小型飛空艇ヘリファルテ》に乗る
ロザンナ・神宮寺が光源周辺を飛びながら、【ダークライド】で周囲を闇へと落としこみ、さらには【光術】でさらにいくつかの小さな光を生み出して、イカ電球作戦のサポートをしていく。ついでに《殺人サメ浮き輪》も浮かべてデコイの一つとして活躍してもらおうとしているようだ。当の浮き輪のサメ頭は水を得た魚ならぬ、水を得たサメみたいな感じになっている。
ロザンナの横を《ウィッシュシーン》を備えた《ヒポグリフ》に乗って海面付近を並走する
騎沙良 詩穂は、イカのいる場所でタコ知識を披露しながらも、討伐対象がいつ来るかと常に待ち構えている。
――それから少しの時間が経っただろうか。闇と光が同時に顕在しているその場所が維持される中、動きのない水面へ意識を集中していく契約者たちであったが……ゆらり、と海面が大きく揺れたのを見逃さなかった!
「――きましたわッ!!」
最前で囮として構えていたレオナイゼがその初動に気づき、全体へ声をかける。……が、その声は同時に他の契約者たちからも時間差があれどそれぞれに響く。
複数での海面のゆらぎ。それと共に、まるで尖った槍のような“何か”が海中から飛び出すように契約者たちへ襲いかかってくる!!
「これは……脚ッ!?」
ナラカのワイバーンの成れの果てである《ゴーストシャーク【屍飛竜】》に騎乗し、上空から敵へ警戒をしていた
松永 焔子へも、鋭い襲撃者――巨大イカの脚が襲いかかる。屍飛竜を巧みに操り、立体的な機動で回避を続けていくと……その動きを阻害しようと、海中から黒い霧――否、黒いイカ墨が契約者たちのいる周辺全体にへと無造作に放出されていく!
焔子だけに止まらず、契約者たち全員へ素早く何度も海中から飛びかかってくる十本のイカの脚。それに加えて、イカ墨による周辺掃射により、徐々に視界が黒く狭まっていく。そんな状況の中でも、契約者たちの実績を伴った確実な回避で、鋭い連撃をいなし続けていた。
「あっ……!?」
ロザンナが声を上げてしまう。……嗅覚を頼りに回避に動き回っていた《殺人サメ浮き輪》がイカの脚攻撃をまともに受けてしまったのだ。
幸い、鋭い突きのほうではなく脚横からの叩きつけによるものだったため、浮き輪部分が割れることはなかったのだが……無残にも叩き上げられ、宙に浮くサメ浮き輪。しかし、イカはその対象の生存を許すことはせず――その巨体を海面からトビウオのように飛び浮き、滑空の態勢を取りながら複数のイカ脚で浮き輪を捉えようとする!
「――お嬢ッ!!」
「わたくしの美貌に釣られて、姿を見せましたわね……!」
ここが転換点、攻撃チャンスと見た契約者――見透、レオナイゼが一気に動き出す!
見透の武器である光条兵器《ブライトディザスター》を、ポーティアが素早く【マッドオルタネーション】で即席魔改造すると、間髪入れずに見透が魔改造による強大な一撃を巨大イカへと撃ちこむ!
爆光の一撃を受け、大きくたじろぐ巨大イカ。――すでにその身を【メガバーストフライ】によって海面から急上昇していたレオナイゼが【上弦の光撃陣】を展開。巨剣を持った光る巨腕がその姿を見せると、一気に急降下。魔改造の影響で使用不可となった《ブライトディザスター》をポイ捨てし(ポーティアがすぐに回収した模様)、続けてポーティアから《プラチナムブレイド》を受け取りながら巨大イカへ突貫――その流れで、見透とレオナイゼが合流を果たした!
「でああああああッ!!!」
「はああああッ!!」
合流と同時に放たれた、見透とレオナイゼの連携攻撃――【ブライトマリアージュ】が、巨大イカの胴体へと直撃する。その痛みからか、大暴れするかのように身体全体を激しく足掻きだした!
「まだまだ元気ですわね……!」
暴れまわる十の脚の動きを抑するようにして、【イージスウィング】で暴脚を回避しきった焔子が、上空から《涅槃子ビームビット》をフル稼働させたビーム砲撃と共に【マルチ・エアレイド】を展開、【光条兵器・燦】――《星鋏アンナトラ》を振るい、巨大イカへ多重多角の連続攻撃を繰り出していく。その攻撃の最中で、イカの脚が数本ほど斬り捨てられていった。
「せぇぇぇぇいッッ!!」
さらにはサメ浮き輪の仇(生きています)とばかりに、ロザンナが日光を浴びて白銀に輝く《覇者の剣》を用いた一撃をお見舞いしていく。――イカ墨を吐き出し、悶え蠢きながらも巨大イカが着水すると、再び海中へ潜ろうと契約者たちをその瞳で睨みつける。
このまま海中に潜られては、一気に形勢が不利になってしまう……そんな考えがよぎったその時、一人の契約者が動いた。
「――怪獣には、海獣をぶつけるのよ」
詩穂がそう言葉にすると、意識を集中させ……力を解放する。瞬間、海面に何かが落ちたような爆音と水飛沫が盛大に立ち上がり――召喚された瞬間に巨大化した一匹の海蛇が、巨大イカを絡めとるようにして攻めかかっていた。巨大イカがしぶとかった時に使うつもりであった最大の反撃手、《召喚獣:リヴァイアサン》を呼び出す召喚術……それこそが詩穂が用意していたものであった。
「さらにはこっちでもサポートを――頑張れ、リヴァイアサン!」
「……そういえば、詩穂ちゃん。タコって数分だけなら地上でも我慢できるから、キャベツとかの畑の作物を盗めるらしいよ」
「それ、タコ知識だよね」
巨大イカが逃げてしまわないよう、【スペルプリズム】で大海獣戦争のリング周囲を囲っていく詩穂。さらには巨大イカの隙を突いて《豊穣の白輝杖》を用いた【我は射す光の閃刃】を放ち、的確なサポートを撃ちこんでいく。
巨大イカと大海獣リヴァイアサン、二つの巨体が海上海中問わずに無法の大ファイトを繰り広げる。残ったイカの脚がリヴァイアサンを叩きつけ、イカの全身を自らの蛇体で締め付けあげる。もはやそこで行われていたのは、古き良き大怪獣映画そのものの様相であった。
……それからしばらく。契約者たちの攻撃サポートも加わったおかげか、巨海蛇側の優勢が続く。そしてあと一歩――巨大イカの疲弊の隙を見逃さなかった焔子が、その上空を取っていた!
「これで――最後ッ!」
焔子の持つ得物に光が迸る。光条兵器としての力を最大限に解放した《星鋏アンナトラ》に二重の激光が輝き、その燐光を携えたまま一気に巨大イカへと突撃を仕掛けた!
【ブライトマリアージュ】としてぶつけられた強烈な二重連撃が、巨大イカへと容赦なく襲いかかる。リヴァイアサンによって動きを封じられていた巨大イカにはなすすべなく――討伐の最後としては十分すぎるほどの攻撃を受け、その意識を手放すこととなる。
……最後の一撃が入り、巨大イカの討伐を契約者たちが確認すると……よし! と、勝利の確信を得ていった。――終わってみれば、全員が薄いイカ墨まみれの黒い勝利に終わったようだ。
「いやーさすがはお嬢。お嬢の美貌あっての討伐だよ」
「オーッホッホッホ! 当然のことですわ!」
「さすがレオナお嬢様……!!」
(本人は気づいていないが)レオナイゼを使ったイカ電球作戦が功を奏したことに喜びの声を上げる見透一行。レオナイゼ本人も自らの美貌が役立ったことに気を良くしている。
「さて、イカはどうしましょうかしら……」
「リヴァイアサンで浜まで運んだほうがいいかも。この人数だと運ぶのも一苦労かな」
「さんせー! イカの寿司、イカのお寿司~♪」
一方で、焔子と詩穂たちは巨大イカの死骸をどうしたものかと相談していた。結果的にはそのままにするよりかは持って帰った方がいいだろうと判断、巨敵を倒したリヴァイアサンに海岸まで運んでもらうことに。高く打ち上げられていたサメ浮き輪も、無事にロザンナの元に戻ってきているようだ。
海域東部から集合場所である海岸まではかなりあるため、一行はのんびりと帰還することにしたのであった……。