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【怪異狩りの(グリームハンター)アリス】その頁(しんじつ)の名は

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【怪異狩りの(グリームハンター)アリス】その頁(しんじつ)の名は
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■“歪んだ童話集(フェアリーライム)”
 ――もうすぐ夕暮れ時が終わり、夜を迎えんとしているパラミタ。そのパラミタに存在する、古王国期より大地を見つめてきた火山――“アトラスの傷痕”。契約者たちはその火山の麓にある、ラビィの一族の住まう土地“獣隠れの里”へとやってきていた。

「ふむ……様子がおかしいですね」

 一行が里の出入り口に着くなり、ロイドが全員の歩みを止めて、警戒を促していく。
 強い悪寒に苛まれたままのラビィも顔をのぞかせる形で里の中を確認すると……そこにあったのは、無人の空間であった。

「みなさん、いないですね……確かにこれはおかしいです」

 ラビィもこの無人な状況には違和感しか感じられていないようだ。ロイドへ視線を送ると、すぐさま部下の二人へ指示を出していく。

「上空からの偵察、並びにラビィ君の護衛の強化を。こちらも全員と共に里の調査に向かいますので」

 指示を受け、秘術科飛行部隊は《魔法の砲機》に乗って上空偵察へ、新米兵卒はラビィの護衛に集中し始める。そして、契約者たち一行は人気のない里の中へと足を踏み入れていった。
 ――獣隠れの里は、十八棟ほどの古き良き住宅が無造作に並ぶ、村ともいえる場所だ。数少なくなってきているものの、一族が身を寄せて鉱石掘りなどで生計を立てて暮らしている……とはラビィの弁。
 一行は住民の憩いの場であるらしい中央広場へと向かいつつ……ロイドが住宅の扉をノックし、「ごめんください」とひと声かけて住民の有無を確認。……やはり、返事はない上に扉の鍵は掛けられておらず、あまりにも不用心なその様子にラビィは首を傾げるばかりであった。
 中に入り、慎重に住宅内を調べるロイド。だが中には誰かの気配はまるでなく、そこには先ほどまで生活していたかのような痕跡が見受けられた。

(生活痕跡はあっても人の気配はない――まるで、何かで見た小説のような……)

 視線を下に落とし、思考を巡らせるロイド。その視線の先には、小さなアリ1匹がいた。


 ――住宅の調査を後にし、再び移動を開始する契約者一行。ほどなくして、目的地である里の中央広場へとやってきたのだが……そこにもまた、異様な光景が待ち受けていた。

「ケーキと紅茶……?」
「ですね……」

 謎い光景、と苺炎とエシラが思わず首を傾げてしまうのも無理はない。中央広場の中心部にはまるで待ち構えているかのようにして、大きなテーブルに乗せられたこれまた大きいホールケーキと、いくつかの飲みかけが残されている紅茶とそのポットが置いてあったのだ。
 どういうことかと苺炎がちらりとラビィの方を見ると……あまりにも強い悪寒に襲われているのか、プルプルと震えていた。

「大丈夫?」
「……な、なんとか……でも、あまりにも、危ない気が……!」

 ラビィの視線はホールケーキのほうに向けられており、それに対しての悪寒だと直感する契約者たち。周辺へ強い警戒を示しながら、ラビィの護衛をアキラとアリスでさらに固め、一行は調査を行っていく。振舞われれば食べようかなとアリスは思っていたようだが、明らかな警戒にさすがにパクパク食べられそうになさそうだ……。
 ……見れば、テーブルの下には数匹ほどのアリが。住宅方面へも何匹かゆっくりと向かっている様子であり、踏まないように注意しながら周囲にも気を配っていく。
 と、そこへロイドの持つ《機晶無線機》からコール音が鳴り響く。どうやら、上空から偵察をしていた秘術科飛行部隊から連絡が入った模様で、その結果は――里周囲に人影まったく無し、とのことだった。
 住民が避難した様子がないことに怪訝な表情を浮かべるロイドとは別に、毎炎はケーキ周辺をより綿密に調査していた。【レイヤーオブアバターズ】で感覚強化をしたのち、【野生の勘】を走らせ、アリのいる奇妙さを予感のままに調べていく。

「長老も見当たらないし、どうしよ――ッ!?」

 それを言い終わる前に、気づいてしまった。思わず言葉が途切れてしまう。
 【シックスセンス】によってその事実に気づいた苺炎は、その場から動かずに契約者たちへ急ぎ大きく声をかける。

「――みんな、“アリ”は絶対に踏まないで!」
「苺炎さん、それはどういう……!?」

 急な声かけに、エシラも戸惑いながら理由を尋ねる。……そしてその返答は、すぐに返ってきた。

「このアリたちが――“この里の人たち”! みんな、小さくされてる!!」

 告げられた事実に、その場からじっとしていたラビィ、アキラ、アリスはすぐさま周囲を動かずに確認して被害がないかを調べ、周辺調査をしていたロイドやエシラも足を止めて周囲確認。……エシラのあと数㎝、左に足がずれていたら踏んでしまう位置にアリ――もとい、小さくされた住民がいた。

「ま、マジかよ……」
「これは趣味が悪いワネ……」

 冷や汗をかくほどには、驚愕な状態に二人も言葉が出てしまう。――そして、事実が看破されたその瞬間に……“それ”はやってきた。

「あーららら、気づかれちゃったかぁ。思ってたよりはやるようだねぇ、あんたら」
「――ッ!?!?!?!?!?」

 その声に、ラビィは瞳孔を開き戦慄し、今日――否、今まで生きてきた中で最大の悪寒を感じ取る。そして次に――契約者たちへ慌てた様子で叫んだ。

「みなさん、すぐこちらへ!!」

 急ぎ、足元に注意しながらラビィの元へ集まる契約者たち。その間にも、ラビィの視線の先には――どす黒い、諸悪の根源が形作ろうとしていた。

「第3話にして黒幕の顔出し登場だ――まぁ、ちょっと登場が早い気もするけどなぁ?」

 契約者たちやラビィ、エシラの耳にもはや強いノイズとしか言いようのない、聞き取るのも無理な赤い声。どうやら、{この声はこの世界に生きる者たちには聞き取れない、壁を越えたかのような絶対的な声のようだ!

「――やはりお前だったか……“歪んだ童話集(フェアリーライム)”!!!」
「歪んだ童話集……!?」

 諸悪の根源は、一冊の本の形をしていた。その本を核として、見えない何かで子供の外殻を作り纏い、敵対する相手と言葉を交わそうとする形態をとっていく。
 そして、ラビィは叫ぶ。その諸悪の名を――歪んだ童話集(フェアリーライム)、と。

「ラビちゃん、あれを知ってるの?」
「ええ……あいつを探し出すこと、それが私たちが旅をしていた目的の一つです!」
「はい、私も話を聞いてからアリスを探す目的と一緒にしていた目的――なぜ、今になって思いだしたのでしょう」

 ラビィとエシラ、それぞれが童話集へ強い視線を向けながら……確固たる意志を見せる。だが、そのことは先ほどまで忘れていたらしく……二人とも、なぜ思い出せたのかわからずにいた。

「くへへへへ、街の細工も解けちまったから思い出したか。とりあえず、思い出せたならいい事さ。――で、俺を求めてたのはなんなんだい? 俺の本質に基づいた――“願いをかなえること”かい?」
「願いを、かなえる……?」

 童話集より口にされたその言葉に訝しげな顔を見せるロイドであったが、ラビィは気圧すかのように甘言を一掃した。

「そんなわけあるはずないでしょう! お前の本質は確かに“願望器”としての能力。だが、その魔力が変性して歪んでしまった結果、“願いを最大限に曲解して叶える”という思考を持ってしまった!」
「説明台詞ご苦労様、エシラのほうは俺の本来の能力に薄々感づいてる顔だなぁこれは」

 再びの、契約者たちの耳をつんざくような赤いノイズ。何かを発してるのはわかっているのだが、理解はまるでできそうにない。

「おっと失礼、くへへへ。で、俺をどうしたいんだウサ公。願望器として使う気ないなら、奴隷にでもしようってのかぁ?」
「そんなのは決まってます、お前を――歪んだ童話集を封印します!」

 ラビィがビシリ、と童話集へ探していた目的――封印の執行を宣言する。しかし、その宣言を聞いて……童話集は大きく腹を抱えて笑ってしまった。

「くへへへへへへへへ!!! お前が? 戦闘能力も持たない、おびえるだけのお前が!? くへへへへへ、冗談は寝てから言いやがれ!!」
「冗談を言っているのは――そちらのほうかと」

 瞬間、《比式自動歩槍》を構えていたロイドが《エイムショット》で童話集の核となっている本そのものを射撃する。……しかし、放たれた銃弾は外殻に触れたまま、動きを止めてしまった。

「なっ……!?」
「おおっと、互いを理解せずに射撃をしてくるなんて危ない奴じゃあないか。これでも、穏便に事を進めようとしてるんだぜぇ?」
「こんなところで倒されても、つまらん物語がさらにつまらなくなるだろ? 散る時はせいぜい大舞台でだよなぁ?」
「くっ……ラビィ君を侮辱したんです、我々の敵として認知するのは当然のこと!」

 三度響く、赤い雑音。契約者たちはそれを聞き流しながら、ラビィの敵を再認識し――自らの敵へと情報を更新する。

「おおこわいこわい……ま、お前らは俺に攻撃をした、俺はお前らにやられるわけにはいかない。これで十分に交渉決裂だ」
「――なぁラビィ。あいつと俺、同じフェアリーと思いたくないんだが」
「名前がフェアリー付いてるだけなので……種族がフェアリーではないと思いたいです」

 自身のアバターの名前が付いている敵に露骨に嫌な表情を浮かべるアキラ。ラビィも童話集の種族が違うことを願うばかりであった。

「そういうのは俺の名付け親に言いな。……交渉決裂した今、俺はお前らの敵だ。これからも怪異を産み出してやるし、捕まえたままのお前たちの『先生』も返さんし、奴の願いの仕上げ用にアリス――そこのちっこいの、お前じゃねぇからな……をもっと強くしてやらんといけないからなぁ、くへへへへへ」

 明らかな敵意を見せた童話集が、まるで犯行予告のように自身の行った悪行をひけらかせていく。その様子はまさに自分だけが楽しければいい――そんな行動理念を体現したかのような、嫌悪溢れるものであった。

「!? アリスをどうする気ですか……!」

 周囲からでもわかる、エシラの怒気。自らの武器を構えるのと同時に、契約者たちが倒せないのなら捕まえてやろうの考えで童話集の捕獲をするため一斉に飛びかかる!

「エシラ、お前にも役立ってもらわないとなぁ! だがそれは今じゃない、せいぜいアリスと一緒に強くなるんだな――!」

 だが、童話集はその言葉を最後に――まさにアメリカのアニメのような逃げ方で、契約者たちの捕獲行動を回避し……姿を消した。
 そして同時に、中央広場にあった大きなテーブルとケーキと紅茶――これもまた怪異の一つ、『大きくなあれ、小さくなあれ』であった……が、音もなく煙のように消えてしまう。それを機として、小さくなっていた住民が徐々にその元の大きさへと戻っていくのであった――。


◆◆◆



 ――里に平穏が戻り、一行は怪我人等がいないか一通り調べていく。特に大きな怪我などはなかったようで、本当にただ小さくされていただけのようだ。

「……つまり、長老が自分たちの危険をラビィ君に伝える念を送っていた、と?」
「長老の言葉を信じるなら、そうらしいです。……確かに昔は予言の民と言われてはいましたけど、そんな力はないような……」

 長老からのSOSの念が本当かどうかわからず、難しそうな顔をするラビィ。そんなラビィは先に長老からの占いを受けており、元々の目的である『先生』――ルイス・カーロンの居場所を聞いてみたところ、“おのずと助けられるであろう”とだけ言われたらしい。ついでに童話集の行方も聞いてみたが、そちらは無理だったとのこと。
 童話集の行方はまたしてもわからなくなってしまったが、ひとまずの目的達成にふぅと一息つくラビィ。ロイドとその部下たちもその様子を見ながら、ラビィたちが無事なことに安堵をしているようであった。
 ちらりと長老の方へと視線を向けると、アキラとアリスがそれぞれ長老と対面を果たしていた。……ヨークシャーテリアの老犬なゆる族の長老はアリスから差し入れられた有名店のチョコレートにご満悦の様子で、アキラの占いをしている。
 ……内容は、いかにすれば自身の伝説を確固なものにできるのか、というもの。少しばかりの瞑想をしたのち――長老は語る。

「――伝説、それ即ち打ち立てた者の歩みそのもの。自らの信じた道を進めば、おのずと伝説へと昇華されよう。……自分の道を進めばわかるさ、たとえ回り道になろうとな」

 チョコレートの影響か、ラビィの時より長い語り口で占いの結果を伝えていく長老。掴み所のないそれはまさに占いのそれである。
 アキラの占いが終わった後は苺炎の番に。長老の占いに興味のある苺炎は、そのことで長老と話を始めていく。長老自身は若い女の子との会話が楽しいのか、嬉しそうな様子で受け答えをしていた。
 ……楽しい会話もそこそこに、次はエシラの番となる。元々はラビィの護衛として来てただけであったが、童話集の逃げ際に発していた言葉が気になっていたのだ。
 長老へ今後の占いを頼み、長い瞑想が始まる。――ラビィやアキラの時より長い瞑想を経て、ゆっくりを目を開く長老。そして……老犬のゆる族は、エシラたちへ一つの占い――“予言”を告げたのであった。


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