第2章「最強の生物兵器『デュラン』」
一方、エージェントリーダーであるガブリエラ・アンダーソンは『デュラン』を追いかけていた。
『デュラン』は腕のマシンガンや大砲で周囲を攻撃をしながら東トリスの中心へ向かっていた。
「故事に倣って曰くー『壁に耳ありメイドのメアリー』ー。めいどさんにー不可能の二字はありませんーのですよーご主人さまー」
メイド服を着た
取間 小鈴が登場し、飛び回るように移動していった。
それでは『3文字』になるのでは、とガブリエラが首を傾げる中、
小鈴は『デュラン』からの攻撃を『極厚手帳』を盾代わりにして身を守りつつ、加速していった。
「こっちですのよー」
彼女は囮として『デュラン』の前まで来ると、周囲を跳ね回ってみせる。
『デュラン』の注意を引いている間に他のエージェントたちが攻撃をしていった。
その間に、小鈴は回復役として治療が必要なエージェントがいないか、飛び回って捜した。
「現在、巨大なライカンスロープが東トリスに接近中。私は他のエージェントとともに目標を食い止める」
ガブリエラ・アンダーソンは東トリスに向かう『デュラン』に接近しつつ本部であるA機関と連絡をとっていた。
そこに灰色探偵(
ジェイク・ギデス)が合流する。
「何か作戦はあるか?」
「いや、まだだ。研究施設の調査で見つかったデータはあったが、コクピットについての記載はなかった。
他にも違う箇所があるかもしれない・・・・・・父のことだからな」
「あの男、親父さんなのか?」
ガブリエラの呟いた一言に灰色探偵が驚く。
「仕事中心で私が子どもの頃に出て行ってしまったから思い出はほぼない。だが、まさかこんなものを造っていたとは・・・・・・
私はなんとしてでも父を止めたい」
「俺はただの調査員で戦闘は専門外だ。とはいえ目の前にいる人間を死なせるわけにもいかねえ」
そして、灰色探偵は戦いに向かうエージェントの後ろにつく。
「色々分からない事だらけだしな。俺が代わりの目になるぜ」
彼は『アーシャの事件簿』で自身の能力を高め、『丸眼鏡』のズーム機能を使い、『デュラン』を観察した。
さらにバイナリアの伝説や伝承と照らしあわせてみる。
「速さや跳躍力はあるが、操作しているのは人間。反応速度とかは通常のライカンスロープよりずっと遅いな」
さらに、超能力で内部構造を透視する。銃火器部分は旧式のもので、
あまり手入れされておらず強引に『デュラン』に接合されているようだった。
「あれだけの巨体に機械をぶち込んだ上、戦車を超える速度を出せるって事だ。速い戦車で時速100kmは出せる。
それを超えるってんなら体の何処かに負荷がかかっている可能性があるはず」
灰色探偵は観察結果から巨体と銃火器の負荷がかかる脚と接合部分である肩、
操作している白衣の男がいるコクピットが弱点といえると推測する。
「脚と肩、コックピットだ。そこを狙え」
ガブリエラに伝えると、周囲の魔素に干渉し広範囲に猛烈な吹雪を巻き起こした。
『デュラン』は冷気に包まれ、少しずつだが動きが鈍った。
「一つだけ最初から分かる事があった。大天才である“A”ならこんな非効率な物は絶対に作らねえってな」
「市街で暴れ回ったら被害は大きいだろうな」
一方、先に東トリスへ到着していた雛(
春夏秋冬 日向)は巨大な狼男型のライカンスロープを一瞥すると、
市民に呼びかける。
「ここを攻撃されるかもしれない! 東トリスの中央へ」
雛が言うと、市民は建物から出ると壁の方へ移動していった。
真っ先に被害が及ぶ場所にいる市民の避難誘導を終えると、雛は『デュラン』がいる方へ向かう。
その間に『仕込傘』の刃と弾丸に『【銀弾】エルマーク』の薬剤を塗った。
そして、『ハスターガントレット』で『サイモービル』を自動操縦しながら敵へ接近した。
雛は異能が発動されないように相手の魔素干渉を阻害しつつ、閉じた『仕込傘』で狙撃していく。
「運転中に仕込傘を開いたら傘さし運転で捕まるしな」
『デュラン』も対抗しマシンガンで攻撃してきた。雛も始めは『サイモービル』で回避していく。
しかし、大砲が発射すると『サイモービル』を降り、『仕込み傘』を開き砲弾を防いだ。
「・・・・・・確かサイボーグでもあって操縦されているんだよな」
雛はメカニックとしての能力を生かし、コクピット内の機械を自らの支配下に置き換える。
彼が攻撃を停止させる一方、白衣の男は戻そうと操作した。
「短時間だけでもいい。今のうちに」
雛が言うと、他のエージェントたちが攻撃をした。
飛燕(
アイン・ハートビーツ)の方は『内蔵型エーテルスラスター』を起動させる。
「ヘンリー相手だと殺してしまいかねないからね。一切手加減をせずに殲滅できる方が気が楽だよ」
そして、パルクールのように屋上を宙返りしながら飛び越えていく。
「相手は全長20m、ちょうど小型ビルくらいの大きさだから、地上からの攻撃じゃ足の一部にしか届かない。
でも飛び移りながら攻撃するのには、もってこいだね」
彼女は『バトラーズアンブレラ』と『エーテルブーストガン』を構えながら敵に近づいていった。
『クローキングジャケット』で周囲に溶け込みながら目の前まで来ると、様子を窺う。
標的である『デュラン』はマシンガンや大砲で攻撃し周囲のものを破壊していった。
この状態のまま、東トリスに入れば被害は免れない。
「戦車2台分の威力がある相手、まともに食らってはいられないね」
飛燕は攻撃がやんだ一瞬を狙い、発砲していく。初速の速い弾が『デュラン』の肩の関節部分に命中した。
しかし、すぐに敵は彼女の方に銃口を向ける。マシンガンを撃ってくると、
飛燕は『バトラーズアンブレラ』を開き、その盾で防御しながら攻撃を躱していった。
『デュラン』を攪乱すると、再び狙いを定め反撃を開始した。
「あれだけの巨体で暴れられれば、街が壊れてしまいます! 一刻も早く止めなくては!」
一方、ミケ(
人見 三美)も『デュラン』を接近していた。
「真っ向から戦うのは厳しそうですし、操作をしている人を止めに動きましょう。
あれだけの巨躯に兵装、間合いが開いている方が怖いです」
敵がマシンガンや大砲を撃つ中、彼女は『ダッシュボード』で攻撃を掻い潜っていった。
そして、すぐ目の前まで来ると、飛び上がると同時に瞬間移動し、『デュラン』の腰辺りに捕まる。
「やはり一度ではコクピットまで到達は難しいみたいですね」
ミケは『スパイダーグローブ』で張り付きつつ、タイミングを見て再び瞬間移動していった。
しかし、精神的負担も大きく、進む距離に反して疲労が溜まっていく。
やがて、右肩のコクピットまで到達すると、透視で内部を確認した。
コックピット内は白衣の男が機械を操作しているような状態で機械そのものも古典的なものだった。
ミケは球状のプラズマを生み出すと、コックピットにぶつける。中は大きく揺れ、白衣の男は彼女の存在に気づくと、
『デュラン』に身体を振らせ、振り下ろそうとした。さらに彼女を目がけマシンガンを発射する。
「敵を倒すために自身を撃つなんて。それだけ頑丈なのか、それとも・・・・・・」
回避するためにも瞬間移動しているうちに疲労からその場から動けなくなってしまった。
ミケは『エーテルファイバーコート』にあらかじめ仕込んでいた瞬間移動で近くの高い建物へ移動した。
「これで少しは相手へのダメージになったはずです」
一方、七つ星(
邑垣 舞花)は『サイモービル』に乗り、
今までの経験や情報、土地鑑を頼りに「街に被害を出さずに遠距離狙撃が可能なポイント」を探していた。
颯爽と走らせる姿にどこか気品も漂わせている。
「現状では、巨大な狼男型のライカンスロープに遠距離攻撃を行えば東トリス市街に被害が及ぶでしょう。
それを見過ごすわけにはいきません」
しばらくして、七つ星は直線上に標的である狼男型ライカンスロープ『デュラン』と並ぶであろう建物を見つける。
彼女は建物脇に『サイモービル』を停めると、『DG-3対物狙撃銃』を持ち階段を上がっていった。
彼女の狙いである右肩のコックピットは5階の高さに相当し、そこまで一気に駆け上がっていく。
標的が見える高さの部屋まで来ると、窓の陰に隠れながら『スパイグラス』で様子を窺った。
「恐らく狙撃が可能なのは、狙撃を警戒されていない初撃だけです」
七つ星は慎重にコクピットのある右肩に狙いを定める。『デュラン』本体は東トリス方向を見ており、彼女には気づいていない。
そして、一瞬七つ星がいる方を見たそのとき、『DG-3対物狙撃銃』の引き金を引く。
弾はコックピットの正面に当たり、大きくヒビが入った。
東トリスの境にある地区、そこには未だ巨大な狼型ライカンスロープ『デュラン』がいた。
攻撃をある程度受けたものの、腕からマシンガンや大砲を放てば、近くの建物を破壊していく。
さらに遠吠えを上げると、改造部分の重さを感じさせないほどに飛び上がり東トリスへ接近していった。
「素晴らしい! この力を街の中心で使ったらと思うと」
白衣の男が高笑いする中、紅目の猫(
ダークロイド・ラビリンス)も口元が上がっていた。
「いつも以上に、壊し甲斐がある敵だなぁ・・・・・・! 今から楽しみだ・・・・・・」
彼女が装着した『シザーグローブ』と『ストライクブロー』には『【銀弾】エルマーク』が塗られている。
「はぁ・・・・・・何時も事だがら半分諦めているが、無茶な事はするんじゃねぇぞ」
ジャック(
卯月 神夜)は『【銀弾】エルマーク』を塗り込んだ『バスターソード』を持ち、ため息をつく。
そして、ライカンスロープとしての血を呼び出すと、翼の生えたハイイロオオカミの姿に変身した。
『デュラン』はさっそくエージェントたちを見つけると、攻撃を開始する。
紅目の猫は回避と同時に体内の魔素を循環させ、潜在能力を覚醒させる。
姿は人間サイズの化け猫となり、威嚇するように声を上げた。
そして、飛んでくる弾をその手で弾いていく。ジャックは紅目の猫が『デュラン』に正面から立ち向かう間、
その隙を埋めるように斬撃を放つ。その斬撃は敵に当たると、破裂して鎌鼬となった。
紅目の猫やジャックが敵の周囲で戦う中、
仲間であるプリズン(
マリン・ムーンリース)は近くの建物から銃を構えていた。
「私が皆さんを命に変えても守りますので、安心して戦って下さい」
彼女は仲間や自分の衣服が『デュラン』の気を引き付けている間に、死角に入り込む。
特に衣服は周囲の魔素が揺さぶられ、分身と誤認させた。
プリズンは『DGー1回転式拳銃』に『【銀弾】イリヤー』を装填すると、弱点ともいえる肩部分を攻撃していく。
銀弾により治癒能力が低下し、仲間からの攻撃がより入りやすくなる。
『デュラン』も対抗するようにマシンガンや大砲を放ってきた。プリズンは踊るように軽くしなやかに回避する。
そして、『エーテルブーストガン』に銀弾を装填しなおすと、初速のスピードを上げ発射した。
「これで皆さんの助けとなりましたでしょうか」
その頃、紅目の猫は『デュラン』の隙をつくと『ストライクブロー』の拳部分を飛ばし、右肩のコックピットを横切らせた。
それで気を逸らしている間に、紅目の猫は『デュラン』に飛びかかる。
ジャックの放つ攻撃が彼女にも当たったが、それ以上に戦闘に夢中になっていた。
「全く戦闘狂ってやつは」
楽しそうに戦う紅目の猫にジャックは呆れる。『デュラン』も自分の腕のダメージを覚悟の上でマシンガンを腕に向けた。
彼女が敵に狙われていると気づくと、ジャックは自分の翼で防御する。
「少しぐらいは自分で防御してくれよ、全く・・・・・・今のうちに行け!」
その間に彼女は敵の頭まで駆け上がると、『シザーグローブ』で頭の装甲ごと切り裂いた。
「これでしまいだ!」
そして、身体を爆弾化させ飛びかかると、『デュラン』の目の前で爆発する。
爆風が舞う中、トドメに斬撃を浴びせ内部にある脳に攻撃した。
時は少し遡り、飛少年(
迅雷 敦也)たちも『デュラン』の前に到着していた。
「デカイ、速い、高火力・・・・・・だが、退くわけにはいかねーよな! 俺達でアイツを止めるぜ!」
ヒショーは巨大な敵を前に意気込んだ。幼狼(
夢風 小ノ葉)も様子を窺っていると、
突然ネバーバード(
ルティア・テイント)がスカートをめくってくる。
そして、表情が一切変えること無く、その中を凝視し始めた。
「・・・・・・水色と白色の縞パン・・・・・・こんなお子様パンツ履いてたら女子力落ちるよ、幼狼」
彼女が言うと、幼狼は頬を膨らませて怒った。
「・・・・・・なに覗いてるのさネバーバード! ・・・・・・余計なお世話だよ!」
彼女がスカートを押さえ、ネバーバードから離れる。それに対し、彼女は自身の衣服をめくった。
「ほら、ネバーバードのパンツは大人パンツ・・・・・・任務でもおしゃれを気にするネバーバード女子力高い・・・・・・」
「女子力高いならパンツ見られるの気にするでしょ!」
思わず幼狼はツッコミを入れる。まるでコメディ番組のような話を展開させていると、
巨大なライカンスロープである『デュラン』が迫ってくる。幼狼は同じライカンスロープとして対抗心を持っていた。
「よーし、アレ止めて伝説のライカンスロープになるよー!」
彼女は変身と同時に『アクセルロリポップ』と『ギガントビルダー』を口に入れる。
すると、狼人間に変貌し一回り大きくなった。
「わおーん!」
彼女が遠吠えを上げると、その声は周囲の建物に反射するように響く。
「敵から見たらまだ小さいかなー・・・・・・小さくて弱そうとか馬鹿にしてそうだよねー」
確かに『デュラン』よりは依然小柄だったが、それで敵を睨み付けて威嚇する。
その殺気立った視線と狼人間に敵がマシンガンを撃ってきた。彼女は咄嗟に翼を生やし、回避していく。
幼狼が威嚇や回避をしている間にヒショーは高い思考力で機転を利かし、敵がどのように動くか考える。
「これだけデカイとなると・・・・・・やっぱアイツを操ってる本体狙うしかねーな」
すると、『デュラン』が今度は大砲を発射する。幼狼は翼を自分の前面に出し、弾を防御した。
「ボクを馬鹿にしてると痛い目みるんだから!」
幼狼たちが立ち向かう中、ネバーバードは様子を窺う。
「ライカンスロープとサイボーグのハイブリッド・・・・・・じゃあネバーバードはサイボーグの部分攻めてく・・・・・・」
『ムーンウォーカー』と『スプリングブーツ』の跳躍力を使い『デュラン』へ登っていった。
さらに『アンカーショット』を引っかけ腕の部分まで到着する。
「・・・・・・ネバーバードならきっとできる・・・・・・」
彼女は直接自分の手を銃火器に繋げた。手に付けた『ハスラーガントレット』も生かし、腕の機能を使えないようにしていく。
ひらめきを頼りにハッキングしていくうちに銃火器の様子が変わり徐々に動かなくなっていった。
一方、ヒショーは『ムーンウォーカー』と『スプリングブーツ』の跳躍力を生かし、右肩のコックピットまで上がっていく。
「お前の悪事もこれまでだ!」
彼は『【神格】シウコアトル』を稲妻へと変化させると、コックピットに落とした。
稲妻は内部の操作する機械ごと破壊し、
他のエージェントの攻撃もあってコックピットの上部がなくなっているような状態となった。
「こっちも決めるわよ!」
幼狼は翼にダメージを食らったが、最後の力で『デュラン』の頭上まで来ると、急降下で落ちていく。
タックルの要領でぶつかろうとした瞬間、自身の身体を爆発物にして大爆発した。
他のエージェントとの攻撃に『デュラン』が倒れる。
その爆発に白衣の男が困惑している間にヒショーは腕を首に回し締め上げる。
「・・・・・・ハイおしまい!」
彼が手を離せば、男は抵抗するもまもなく気絶した。