第1章「救出」
突然の壁により仮初めの平和と情報を探り合う戦いとなった世界「バイナリア」
黒鋼(
明月 ムゲン)は初めてのミッションに訪れていた。
彼東トリスへ向かっているオオガラスを一体のワイバーンのライカンスロープが見つめている。
「これが他の皆さんへの支援になれば」
黒鋼は注意を引き付けるため建物の上へと登っていく。
「戦闘力には自信がないので、種族を生かし囮になりましょう」
屋上まで到着すると、自身の翼を広げる。そして、建物上空へとはばたき、オオガラスの目の前に出た。
突然、現れた障害物にオオガラスは黒鋼に体当たりしようとする。それに対し、黒鋼はすぐに回避した。
オオガラスの注意を引きながら味方の元へ行くと、待ち構えていたエージェントたちが攻撃を開始する。
黒鋼自身も鱗の生えそろった脚を使い、蹴り技をオオガラスに浴びせた。
法華津 友恵も他のエージェントたちと同様に飛んでいるオオガラスを追いかけていた。
「東トリスに『向かって』いるということは、着いたら恐ろしいことになるのでは・・・・・・」
不安になりながらも友恵は解決方法を考える。
「メナシさん、でしたっけ? 彼はカラスのライカンスロープなんですよね。
あたしの実力では力押しはできないでしょうが・・・・・・」
そのとき、『オプティカルジュエリー』が手元にあったことを思い出した。
取り出すと、周囲の魔素に反応して不規則に明滅している。
「カラスは光るものが好きなんですよね。チカチカしているこの宝石はきっと効くはず!
あたしの行動で進路をコントロール、足止めくらいにはなれば」
友恵は率先してオオガラスの方へ向かっていった。そして、履いていた『スプリングブーツ』に合図を送る。
「跳べッ」
声をかけると、彼女は3メートルほど飛び上がった。それを繰り返しながら建物の屋根まで登る。
「エージェントとして、それどころか特異者として、まじめな仕事は初めて。うまくいくかな・・・・・・」
不安を覚えながらも『オプティカルジュエリー』を頭上に掲げた。不規則な輝きはオオガラスの目を引き、急激に接近してくる。
友恵はすぐに浮遊する光の球を生みだし、目眩まし代わりに利用した。
そして、宝石と明かりを駆使しながたオオガラスの行き先をコントロールしていった。
「何の罪もないヘンリーを助けたいのは山々だ。しかし、まず彼の暴走を止めなければ、罪のない街の人々が死傷する!」
一方、セキセイ(
川上 一夫)は軍人という立場と蓄積されたデータとエージェントとしての経験則を活かし、
オオガラスの攻撃が当たりそうな場所を割り出した。セキセイはその場所へ向かうと、住民に声をかけはじめた。
「ここは危険です。早く避難して下さい!」
彼が知らせると、建物の上に住む住民は下の階へ移動した。
避難したことを確認すると、誰もいなくなった建物からオオガラスをハッキングし始める。
セキセイは機械の制御支配技術の精度を高め、機械の制御権を支配に置いた。
「あとは攻撃をやめさせることができれば」
彼が攻撃を停止するように指示を送れば、オオガラスに装着されている機械から発砲されることはなくなる。
しかし、すぐにまた発砲されはじめた。
「自動で制御権を奪い返そうとしているということですか」
セキセイは咄嗟に2発、弾を放つ。最初の一発はオオガラスの足元にある機械に命中させた。
そして、もう一発はオオガラスの翼に当てる。それにより、攻撃力と機動力が低下する。
「暴走、止めさせていただきます!」
セキセイは小型ヘリコプターである『エーテルチョッパー』に乗り込み、機関銃を向ける。
『スパイグラス』で命中率を上げ、オオガラスの動きが鈍りそうな場所を狙う。そして『【銀弾】イワン』を発射していった。
「このまま人々に目撃されるのは不味いですし、その前に対処しましょう。
とはいえ相手が相手なのでできれば殺さすに済ませたいですね」
Unknown(
綾瀬 智也)はアクロバティックに移動しながら狙撃場所を探していた。
理想の場所を見つけると、着ていた『迷着』で周囲の景色を表面に映し、溶け込んでいく。
さらに元々の特性上、彼は魔素感知されにくかったため、
オオガラスや東トリスの人々に見つからないように問題なく到着できた。
Unknownは消音器付きの『バトラーズアンブレラ』に『【銀弾】イワン』を装填していく。
そして、オオガラスがいる方へ向けて構える。オオガラスは東トリスへは向かっているものの、
方向は定まっておらず建物の陰に隠れることもあった。Unknownは超能力で建物を透視し、オオガラスの動きを追う。
さらに、魔素の流れを読み、数秒後にどこまで到達するかを見定め発射した。弾が翼に当たると徐々に脱力し始める。
高度が下がり始め、建物にかすりそうな位置まで来た。
「この間に他の味方に蹴りをつけてもらいましょう」
Unknownは狙撃体勢から立ち上がると、東トリスの人々に見られないように建物から降りていった。
一方、
永見 玲央の仲間であるマシンチャイルド(
永見 博人)は
オオガラスの元へ向かう前に医療班がいる場所にいた。
「ヘンリーお兄ちゃんを助けたい。だから、あの機械について何か知っていること、分かっていることを教えて欲しい!」
マシンチャイルドで装着されていた機械の情報を集めた。
医療班ゆえ情報量は少なかったものの、機械は壊さずに外すことは不可能で自動で周囲に攻撃するように設定されていたようだ。
さらに、以前地下研究施設で回収したデータの中にオオガラス型のライカンスロープを見つける。
「何かの参考になるかも」
彼はさらにそのデータを見ていくが、そのライカンスロープのデータは古く子どものときに行方不明になっていた。
なんとか使えるデータを拾い集めていくと、オオガラスを追う。
「ヘンリーのお兄ちゃんを奪還するには、あの自動攻撃装備を無力化する必要があるんだよね」
マシンチャイルドは機械を装着したオオガラスを追いかけ、少しでも高い場所に上がっていった。
屋上に出ると、目線の先にはいるような状態だった。
「どっか行ったら調べたことが無駄になっちゃう。せめて、ここで機械だけはなんとかしないと」
彼はその場に『ゴーストコンピュータ』や『リリーフサーバー』などを用意し超高速で処理できる統合PCを作り上げる。
そして、マシンチャイルドはオオガラスの機械へハッキングを試みた。
彼のような行動をすることを予測されていたのか、厳重になっており少しずつ解除していくしかなかった。
「無力化できるまで持ちこたえてくれ。ヘンリーお兄ちゃん」
やがて、最後の一つが解除できると攻撃が止み飛んでいるだけの状態になった。
他のエージェントたちが戦う中、マシンチャイルドは建物を降りていった。
現場に駆けつけてきたJ(
青井 竜一)は『シュヴェルトライテの鎧』を身につけていた。
「ちょっと派手な格好になってしまったな」
真紅の鎧に黄金の翼が生えた姿に彼は苦笑する。
「この装備が有効だと思ったが、少し目立ちすぎるか」
ふと見上げると、ヘンリーが変貌したオオガラスが飛んでいた。Jもそれを追いかけるように黄金の翼を羽ばたかせる。
「ヘンリー君を助け出した人間の一人として、縁のある彼を取り押さえる一助になろう!」
建物を越える高さまで来るとオオガラスに装着されている機械から次々と弾が発射された。
Jは鍵守の力で空間を歪め、攻撃を遮断すると、『DGー1回転式拳銃』をオオガラスに向けた。
「悪いが、少し我慢してくれ!」
引き金を引くと『【銀弾】イリヤー』が放たれる。命中すると、オオガラスが悲鳴にも似た声を上げた。
魔素をかき乱すことで動きを徐々に鈍らせていった。
スピードも遅くなってくると、Jはオオガラスの少し下の方を狙い発砲していく。
弾は建物の壁に跳弾し、オオガラスの足元についている機械にダメージを与えていった。
「さぁ、地上に降りてもらう!」
Jは超能力でオオガラスを食べる空想を生み出す。精神的な負荷をかけつつも、相手の体力を食らうように奪っていく。
すると、オオガラスの高度はさらに下がっていき、翼が建物に当たるような状態になっていた。
蛇行しながら翼の先は建物をかすめるオオガラスはどこか苦しそうにも見えた。
そんな姿に牽牛星(
星川 潤也)も胸を痛める。
「辛そうなのを放っておけるはずないだろう。なんとしても助けるぞ!」
織女星(
アリーチェ・ビブリオテカリオ)も同様だった。
「あたしも一緒にメナシを助けるわ!」
彼女は建物の屋上まで上がると、オオガラスに装着されている機械を指差す。
「あの機械がメナシを暴走させてるのよね。だったらあたしの電撃で、あの機械をぶっ壊してやるわ」
そう言って球状のプラズマを生み出す。
仲間とともに建物の屋上に上がった牽牛星も『パルサーウォッチ』を構え、
オオガラスが自分たちのすぐ目の前まで来るのを待った。
「ほら、潤也。あたしのタイミングを合わせなさい。2人分の電撃で、何としてもメナシの暴走を止めるわよ!」
織女星が合図を出すと、頭上に掲げたプラズマ弾をオオガラスに放った。
「いくぞ、メナシ。絶対に助けてやるから・・・・・・お前も機械なんかに負けるな!」
声を上げると同時に彼も電撃を発射した。電撃はオオガラスに装着されている機械に命中し、ダメージから爆発する。
さらに、オオガラスそのものの全身にも痺れが走る。やがて、機械から弾が発射されなくなった。
それを見て、他のエージェントたちが攻撃していく。
やがて、オオガラスのダメージが蓄積されると、飛んでいる高度が下がっていき、ついに地面に落ちていった。