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“なんにもしない”をしに行こう

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“なんにもしない”をしに行こう
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行坂さんちの4きょうだい

 ウッドデッキの入り口に、荷物を持った4人の若い男女――行坂ファミリーが到着した。
「なんだこのおしゃれ空間は」
 長男の行坂 貫が目をみはる。
「すごい……。テントなのに、中にベッドが4つも入ってますよ、兄さん」
 次男の行坂 真怜がテントの窓(透明部分)から中をのぞきこみ、感心している。
 貫を「兄さん」と呼ぶ真怜だが、不思議なことに見た目は明らかに貫より明らかに年上だ。

「で? 今日はどういった目的なんだ? 本当に、ただの仲良し家族旅行なのか?」
 いつも通り、毒舌気味な貫に、
「俺が説明する!」
 4人の中で一番幼いローティーンの少年、三男の行坂 真預が挙手をした。
「兄ちゃんは忙しくて忘れてるやろうけど、今は5月。つ・ま・り、母の日やんな!」
 ふんぬ! と言い切った感を漂わせる真預に、貫がずっこけた。
「えっ? それで終わりか? まったく説明になってない気が……」

「私もよく分からないけど、まあ『季節も良いので“きょうだい”でお出かけ』って事で良いのかな?」

 紅一点のレン・行坂がフォローすると、真預がきっぱりと首を横にふった。
「それだけやあれへん。今日はオレらで兄ちゃんをおもてなしすんねんからな。レンも真怜も、日ごろの感謝を兄ちゃんに伝えるんや」
「待て真預……姉さんの事を呼び捨てにするのはどうかと思うが?」
 大人しく真預の言動を見守っていた真怜が、静かに、しかしぴしゃりと言い放った。
「あーもう五月蠅いなあ真怜は。ええやん、別にホンマの兄弟やないからこその距離感とかあるやん」
「それでも失礼だよ。兄さんも姉さんも真預より年上なんだから」
「まあまあ 別に私は気にして無いから 真怜もそんな小言言わずに……」
「そうやって姉さんが甘やかすから、真預は誰にでもタメ口きいたりするんです」
「けど兄ちゃんかって割とタメ口やん」
「兄さんはちゃんと場を弁えてる」

 収集がつかなくなってきたところで、業を煮やした貫が割って入った。

「と・り・あ・え・ず! お前の気持ちはわかった、真預。だが俺は男だし、兄代わりはともかく母親代わりを引き受けた覚えはないぞ」
「せやけど」
「はぁぁっ。お前らが元気でいてくれれば、俺は他に何もいらないんだがな」
 なんの気なしに呟いた貫に、真預がつっこんだ。
「ほら! やっぱりおかんやん!」

 ホンマの兄弟やない――さっき真預が言った通り、端的に言えば、4人は“きょうだい”ではなかった。
 一番年上に見える真怜が、自分より年下の貫やレンを「兄さん」「姉さんと」呼んだり、真預だけイントネーションがまったく違っていたり……その理由はここにある。
 かといって赤の他人かというと、そうでもない。
 貫を軸として、それぞれが“きょうだい”と呼ぶべき大切な理由とエピソードを持っているのだ。

 そんなこんなで、しばらく後……

 ウッドデッキのキッチン台では、レンと真預がせっせと作業している。
 手頃な大きさにカットした野菜や肉を、串に刺しているのだ。
 バーベキューコンロには、炭火がすでに準備されている。
 もくもくと串刺し作業を行う真預を見ながら、レンが口元を緩めた。
「気合入ってるわね。美味しく仕上げて、貫に褒められたいんだよね」
「バレとったか」
「後は“はい、あーん”とかもしたいのかな?」
 そんなレンの言葉に、素直に笑みを返す真預。
「せやから、まあ具材は串に刺して食べやすい大きさにしょーかなって」
「真預の貫大好き、気付いて無いの貫くらいだからね」
「割とアピールしてるつもりやねんけどなぁ」
「まあ、弟から恋愛感情向けられるとは考えないだろうからね」
「レンはその辺気にせーへんよな」
「はふ! 今さらりと流したけど、や、やっぱりそうなの?
 このところ腐女子なお年頃なレンが、目を輝かせる。
 しかし、好奇心いっぱいの表情はすぐに消え、親身になって真預を見つめた。
「誰が誰を好きになろうが、個人の自由よ? でも、無理やりはダメだよ。一線超えない限りは応援しといてあげる、真預」
 軽くレンに礼を言うと、真預は小さく呟いた。
「まあ、兄ちゃんだけじゃなく、レンも真怜の気持に気付いてへんみたいやけどな」
「ん? 何か言った?」
「別に? さーて、ぼちぼち焼いていこ!」
 
 その頃。テントの中では、真怜が貫にマッサージを施していた。
 
「はい。僕からの母の日のおもてなしは以上です。貫母さん」
「あー、何か体が軽くなったような気がする。肩こりとか、感じたことないんだが……」
「疲れがたまってましたよ」
「そうなのか?」
「コレでも医学生ですし、整体やマッサージの知識はあるので」
「サンキュー、真怜」
「どういたしまして……」
「おっ、いい匂いがしてきたな」
「食事の準備が出来たんでしょうか」
「そうかもな なんか嬉しそうに走ってきてるし」

 テントの窓に、駆け寄って来る真預が見えた。

「僕は姉さんの手伝いに行くので、兄さんは真預と来て下さい」
「おーおー相変わらずシスコンだなあお前は。というか、真怜の場合はもはや愛か」
「兄~ちゃん、肉焼けてきたで」
 テントの出入り口からひょっこり真預が顔を見せ、真怜とすれ違いになった。
「あーっ! 兄ちゃん、いつのまにベッドの場所決めてん!」
「え? あ、なんとなく……」
「オレはここ! 兄ちゃんの隣や!」
 真預がどさり、貫の横のベッドに乗っかった。
「真怜はレンと、そっちで寝たってな」
「え? 姉さんの横?」
 一瞬フリーズした真怜が、じゃっかん取り乱し、首を横に振った。
「いやいや、姉さんはうら若き乙女です。他のスペースで寝ていただきましょう。この部屋の定員は5名。そこのソファがエキストラベッドになるんじゃないかな?」
「なんやって? もっと夢を持てや!」
「はぁ? お前らどーしたんだ? そんなこと、あとで直接レンに聞きゃいいだろ? とりあえず俺は腹が減ったぞ」

 “きょうだい”たちのこころ模様には至って鈍感な貫が、バーベキューの匂いに吸い寄せられてウッドデッキへ出た。

「待って! 兄ちゃ~ん!」
 走って追いついた真預が、ぴとっと貫の腕に捕まる。
「なんだ? 動きにくいぞ?」
「ええやん」
「いや、動きにくいだろ」
 思い切り懐きたい真預が、ぷうっとほっぺを膨らませた。
「はいはい、むくれるなって」
 貫がぽんぽんと真預の頭を撫でる。
「へへっ」

 そんな2人をおいて、一足先にレンのもとへ到着した真怜。
「姉さん 手伝いますよ」
「あ、真怜。じゃあ飲み物お願いして良いかな? 皆の好み、把握してるでしょ」
「ええ。簡単なことです……それはそうと、その……今夜寝る場所のことなんですが……」
「なに? なんか問題あった? 大きな虫がいたとか? 実はダブルベッドが2つだったとか? ふふふふふ」
「いえ。どうしても僕ら男と同じ部屋に寝ることになりそうなのですが、大丈夫……でしょうか」
「楽しそう! 枕投げ大会やろうよ。真預はどうせ貫の横がいいって言うだろうから、私は真怜の横だね?」
 あっけらかんと笑い、レンが即答した。

「ああー、うまく出来てるじゃないか」
 貫の腕からひらりと離れ、真預が炭火に近づいた。
「兄ちゃん。オレの作った串食うて、はい、あーん」
「しょうがないなぁ、ほれ、あーん」
「はわぁ! (やるじゃない、真預!)」
 レンが内心ガッツポーズを作りながら、真預に促されるがままに口を開ける貫を見る。
「姉さん?」
「あぁ……楽しいねぇ、真怜」
 深いため息と共にしみじみ呟くレンが、
「ほら、食べなよ。もしかして、真怜もあーんしてほしいの?」
「えっ? そんなはしたないこと、姉さんにさせるわけにはいかないです!」
「いいからいいから、ほら、あーん」
「あ……あーん……」
 それを見ていた真預が小さく笑う。
「ふふふ(頑張れや、真怜)」

 行坂ファミリーの楽しいオフは、まだ始まったばかり。
 この後の夕暮れどきや、夜の時間、そして翌日――数々の、想像もつかない波乱と笑いと感動が4人を待ち受けている。
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