オフを満喫! 遊覧飛行と絶品カレーと……
「あの木の枝、リスがいますよ!」
「大きさからして親子でしょうか? かわいいですね」
従姉妹同士の
邑垣 舞花と
空花 凛菜は、ドーム型テントの裏手の緑地を歩いている。
いつも通り気品に溢れた2人だが、オフだからだろう、いつもより少しはしゃいでいるように見受けられる。
「さて舞花お姉様! そろそろ出発しましょう♪」
「えっ? 今ここから……ですか?」
「大丈夫です。怖いことなんて一つもありませんよ?」
「それはわかってますけれど……」
周囲を飛翔していた鳥型の幼生神獣
ミグラテールが、2人の前に舞い降りた。
「ミグラテールも準備万端ですって」
「わかりました。よろしくお願いします。凜菜さん、ミグラテール」
「ええ。舞花お姉様」
凛菜はうなずき、神獣極光を奏でた。
美しいオーロラの出現と共にミグラテールは馬ほどの大きさに変身。2人を背に乗せると、翼を広げて飛翔した。
「”ミグラテールと凛菜の遊覧飛行”へようこそ! ノスタルジアでのお仕事のときは忙しくて、舞花お姉様にこのアトラクションを楽しんで頂くことができなかったので、今日はとても嬉しいです」
「ありがとう凛菜さん、ミグラテール。とても楽しくて気持ちいいです!」
2人は微笑みを交わし、その笑顔のまま眼下の景色を眺める。
「湖、とても綺麗ですね。空と雲が映り込んで、まるで地面に空があるみたい……」
「緑地の外側に、草原が広がっているんですね。お花がいっぱいです!」
「あとで探検に行きましょう」
「ええ、もちろんです!」
会話を弾ませていた2人は、声をあげて笑う。
「あぁ……本当に今日は、オフなんですね」
「私も今、そう思いました」
予定も目的もなく、好きなように好きなことをする――オフならではの気ままな振る舞いを、2人は存分に楽しんでいた。しばらくすると、
「~♪」
鳴き声をあげ、ミグラテールが旋回した。
「そろそろこのアトラクションも終わりのようです。本日はご搭乗頂きまして、ありがとうございました」
おどけてアナウンスする凛菜が、なにかに気づき眼下を指さした。
「舞花お姉様! あそこ、果物がたくさんなってます!」
「まあ! 全然気づきませんでした。テントからそう遠くありませんね」
「ミグラテール! あの辺りに降りてください!」
それからしばらく、時が流れて――
ウッドデッキには、カレーの匂いが立ち込めている。
オープンキッチンの鍋には、舞花のスペシャリテ“懐かしい味のカレーライス”。
「凜菜さんがお手伝いしてくれたから、いつもより早くできましたよ。ご飯もこの通り……美味しそうに炊けてます」
湖を一望できるテーブルには、バナナの葉を利用したランチョンマットや、食器、カトラリーが綺麗に並べられている。
テーブルの上には庭で摘んできた色とりどりの野の花が飾られており、まるでおしゃれなカフェのようだ。
調理の合間に2人で知恵を出し合って作り上げた空間だった。
「さあ、いただきましょう」
舞花と凛菜、そしてミグラテールは、仲良く『いただきます』をすると、カレーライスを口に運ぶ。
「やっぱり舞花お姉様のカレーは最高です!」
カレーを食べ終わると、キラキラ光る湖面を眺めながら凛菜がつぶやいた。
「なんてのんびりしてて、楽しいのでしょう」
「ええ。私たち、オフを満喫してますね」
笑う2人の髪や頬を、湖から流れ込む心地よい風が優しく撫でる。
「♪~」
伸び伸びとした楽しい気持ちが溢れ出て、凛菜は自然に歌い出していた。
それは自身の持ち歌、胸躍らせる元気ソング『空は快晴☆元気一杯!』
すぐにミグラテールが共鳴。
舞花はふたりの歌声を、ゆったり楽しそうに聞いている。
「そういえば凛菜さん。あとで、さっき採ってきた果物でフルーツパフェを作りましょうか」
「素敵ですね、舞花お姉様! あっ……フルーツサンドはどうですか?」
「パンも用意してあるようなので、できますよ? あとは、フローズンドリンクとか、ジェラードとか……」
「素敵です!! あぁ……たった一泊だけなんて、お腹がいくつあっても足りません!」
「まあ、凛菜さんってば」
弾けるように笑う2人を、湖が優しく見守っている。
2人のオフは、まだ始まったばかり。
これから訪れる夕暮れや夜、さらには明日の朝、かわいいミグラテールと共に、楽しい時間を存分に過ごすことだろう――