チャカギの茶々の、”なにもしない日”
「チャ~カ~ギ~の~う~た~が~♪ き~こ~え~て~く~る~の~♪」
テントの裏手の整備された緑地を、かわいいチャカギがてくてく歩いている。
佐藤 一たちの元を離れ、ひとり旅を楽しみに来た
鈴鍵 茶々だ。
ところどころ植えられた木の枝にはリスや小鳥がおり、興味津々で茶々を見つめている。
「みんな! よろしくね~♪」
緑地の小動物たちに手をふる茶々の背後から、色とりどりの蝶の群れがやって来た。
「ちょうちょだ!」
蝶たちを追いかけると、こぢんまりとした芝生の広場に行きついた。
可憐な花々をつけた低木の前には、かわいい看板が立っている。
”ひなたぼっこひろば(お昼寝にもおすすめ)/TOPアイドル☆ツアーズ”
「わーい!」
芝生の上に寝そべった茶々は、すぐにうとうとし始め、
「お日様ポカポカ、ちょうちょがぱたぱた、風に舞う花びらも、ふーわふわ。そんでもって僕は、すーやすや……」
あっという間にとろんと目を閉じた。
ぐ~
響いたのは、お昼寝のいびきではなく、お腹の音だ。
「……ん~。今日は”なにもしない日”だから、おナカの音も黙っててよぅ」
茶々はころんと寝返る。
ぐぐ~
「ゔ~」
鳴り止まないお腹をおさえ、茶々は起き上がった。
「ゴハンの準備、する~」
テントに戻ると茶々は、庭の竈に薪をセットし、備え付けの飯盒に水を張った。そして、
「ぷちドラちゃ~ん」
茶々の声に応じて小さなドラゴン――ぷちドラが飛んで来て、火の玉を吐いて薪に火をつけた。
「ゴッハン~♪ ゴッハン~♪」
茶々はバックパックからレトルトカレーとレトルトご飯を取り出し、湯が沸き始めた飯盒にどぽんと落とした。
「今日は”なにもしない日”だから、レトルトなの」
それから茶々は、テーブルに飛び乗り、食卓の支度を始める。
小さなチャカギなので、こうして支度するのが一番都合良かった。ぷちドラはぱたぱた飛びながら、そんな茶々を手伝った。
数分後……
テーブルには湯気をたてたカレーライスが2皿、出来上がっている。
「ぷちドラちゃんにもおすそ分けなの~」
「!」
歓喜に湧きながら、ぷちドラがカレーの皿に近づいた。
「ちょっと待って、ぷちドラちゃん。大事な仕上げを忘れてたよ」
茶々はバックパックからソーセージの缶詰を取り出し開栓。カレーの上に1つ1つ落としていく。
「こうすると
ふつうのカレーが、
ソーセージカレーになっちゃうよ~♪ バージョン、アーップ!!!」
「!!!」
興奮しすぎたぷちドラが、思わず火の玉を吐く。
するとソーセージにいい具合の焦げ目がつき、素晴らしい香りが立ち込めた。
「うわぁぁぁっ! すごいよ、ぷちドラちゃん」
想定外の展開に茶々が目を輝かせた。
指示もないのに火を吹いてしまい申し訳無さそうだったぷちドラだが、茶々の様子を見て元気を取り戻す。
「さあ、食べよう? いっただっきま~す」
そして茶々とぷちドラは、ソーセージカレーを楽しんだ。
「デザートはパイン缶だよ~。甘くておいしいシロップ、ごくごくしちゃうもんね」
テーブルの上にのせたパイン缶を見ながら、茶々がふと、懐かしそうに話しだす。
「……僕がブランクにいた頃、チャカギのみんなで缶詰を見つけたけど、開け方、分からなかったんだよね。みんなで無い知恵絞って、結局大岩で缶を潰して……飛び散った破片をぺろぺろするしか出来なかったっけ」
大勢のチャカギがぺろぺろしている様子を想像したぷちドラが、ちょっとだけ震え上がった。
茶々はそんなぷちドラには気づかず、にこにこしながらカレーを頬張っている。
(みんな、元気かな~? 今度持ってってあげよっと)
先ほどからふたりに興味津々だった小鳥やリスが、テーブルの上にやって来た。
小鳥たちは歌い出し、リスたちはぷちドラの背中に飛び乗ろうとはしゃぎ回っている。
「いいよ? お友達になろう? じゃあ、食べ終わったらなにしようかな~。今日はなにもしない日だけど、歌ったり遊んだりするのはいいよね?」
こうして茶々は、小さな仲間たちと”なにもしない日”を存分に楽しんだ。
その夜。秘密基地のようなテントの中でぐっすり眠った茶々は、チャカギのみんなや小鳥やリス、ぷちドラを交えての『缶詰大パーティー』の夢を見たとか見なかったとか★