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“なんにもしない”をしに行こう

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“なんにもしない”をしに行こう
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丘の上の恋人たち

 シルノ・アルフェリエエーリオ・ブランシェットは、散策を楽しんでいた。
 ドーム型テントの背後に広がる緑地を通り抜け、いま、2人の周囲には背の低い草と野の花で形成された草原が広がっている。
 気づかぬ程度の起伏があったようで、いつの間にかなだらかな丘の上に到達しており、きらめく湖面がよく見渡せた。

 ピクニックバスケットを大切そうに持っていたシルノが、立ち止まり、前方を指さした。
「見て、リオ。綺麗な蝶ですよ」
「見たことのない色柄だな。ビーストラリア独自のものか?」
「素敵。アクアマリンみたいな水色……」

 エーリオの傍らにいた星獣(クラリネットネコ)のヴィドが、蝶にじゃれつきひらりとジャンプ。
「あっこら、ヴィド」
 蝶は容易にヴィドのネコパンチをかわし、シルノの髪に飾られている青い蝶の髪飾りの上にふわりと止まった。
「仲間だと思ったのか?」
「そんな物語みたいなこと、あるわけ――」
 軽く笑ったシルノの動きに反応し、蝶は飛び立ち、空高く飛翔していった。
 
 いっとき蝶を見送ると、エーリオが“大樹のヴァイオリン”を手にした。
「嬉しい、リオ。私……久しぶりに聞きたかったのです」
「仕方ないやつだ。教養として習った経験があっただけで、特別上手くもないんだがな」
 しぶしぶっぽく言いつつも、エーリオの瞳は心底優しい。
「謙遜しますけど、私がアバター補正なしに弾いたらグーガーギーですよ」
 シルノの言葉を聞きながらエーリオはヴァイオリンを軽く調整。音色を奏で始める。
 ♪~
 蝶を見失ってつまらなそうにしていたヴィドが、音楽に反応してエーリオの周囲を駆け回った。
「?」
 演奏に聞き入っていたシルノが、ぴくりとした。
「“移る季節を感じながら 丘を登り歌おう”……これ、私の持ち歌では……?」
「そう。“風の丘より”」
 ♪~
(自分の持ち歌だなんて、ちょっと恥ずかしい……でも、)
「嬉しいです、とても」
 頬を染めてシルノが笑う。
 その笑みに応じるように、エーリオはほんの数秒演奏を止め、弓を持ったままの手で器用にシルノの頭を撫でた。
「……っ!」
 シルノの頬がますます赤くなる。
 ♪~
 絶妙のタイミングで、周囲を駆け回っていたヴィドがクラリネットの音色で演奏に参加。
 鮮やかな草花が広がる草原で、シルノのためだけのライブが賑やかに繰り広げられた。

 そしてしばらく後。
 草原に広げたピクニックシートの上に、シルノとエーリオ、そしてヴィドが座っている。
 シートには、シルノが支度したポットやカップ、サンドイッチなどが並んでいる。
「リオ。今日はありがとう」
 ――この旅行につきあってくれて。そして、ヴァイオリンを聞きたいというお願いを聞いてくれて……
 カップにお茶を注ぎ、エーリオに手渡す。
「胃に優しい、ハーブティーですよ。リオは普段、コーヒーをたくさん飲むから……」
 大切な人への優しい気づかいだった。
 いただきますをして、エーリオはお茶に口をつけ、フルーツサンドを1つ手に取った。
「なんだこのみかんは……美味いな」
「“げいのうみかん”ですよ」
「なるほど」
 シルノがわざわざ特別なみかんを使ってくれたことが嬉しくて、エーリオの口元が緩む。
「リオ……湖がキラキラしてる」
「ああ、綺麗だな」
「あんなに透明で綺麗な水。潜ったらどんな感じなんでしょう……」
「お――泳ぎたいのか?」
 エーリオが一瞬、ほんの一瞬息を飲んだ。『実は泳げない』という事実を、彼は未だにシルノに話してない。
 そんなエーリオの秘密と葛藤(?)に気づいているのかいないのか、いや、しっかり気づいているけれど知らないふりをしているであろういシルノが、微笑んだ。
「私は泳がなくてもいいです。ヴィドも猫ちゃんだから、全然興味ないですよね」
 声をかけられたヴィドは、ふわぁとあくびをしてとことことシルノの膝の上に乗っかった。
「あら。おねむですか?」
 シルノの膝におさまると、ヴィドはあっという間に寝息をたて始めた。
「おいヴィド。猫だからって、それはあまりにもズルくないか」
 エーリオの拗ねた声が可愛くて、シルノが声を立てて笑う。

 丘の上。楽しく話す2人の間を、風が優しく吹き抜けていく。
「リオ。晩ごはんは、どうしましょう」
「ヴァイシャリー湖のレストランの名物料理――あれでも作ってみるか?」
「いいですね。あっ、そういえばお庭にハーブが生えてました。ハーブを使った料理もどうです?」
「それは楽しみだ」

 互いを大切に思いやる2人の愛しい時間は、まだまだ優しく続いていく。
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