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“なんにもしない”をしに行こう

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“なんにもしない”をしに行こう
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星空の誓い☆ニューメロウズ

 広々としたドーム型テントから地続きのウッドデッキへ出てきたのは、雰囲気の異なる4人の少女――アイドルユニット『ニューメロウズ』の4人だ。
 4人は夕涼みを兼ねて、星空を楽しむつもりで外に出て来ている。
「昼間とは全然雰囲気が違いますけれど、どちらにしても本当に良い場所でございますわね」
 カラビンカ・ギーターはゆったりと星空を見上げ、今にも歌いだしそうな口調で呟いた。

 テント周りのウッドデッキや庭には、大小さまざまなランタンやソーラーライトが設置され、優しいたまご色の光を放っている。
 環境に考慮した控えめな灯りなので、星空の邪魔にはならない。

「せっかく ですから、あかりを ぜんぶ けして みたら どうでしょう」
 ユニット内ではプロデューサー的な立ち回りが多い数多彩 茉由良の提案に、メンバーたちがうなずいた。
「そうだね。そのほうが絶対キレイだよっ」
 ベネディクティオ・アートマが元気にテントから飛び出し、1つ1つの灯りを消していく。
「グランピングというだけあって、大抵のものは揃っていますわね」
 アシュトリィ・エィラスシードは、テントや照明、ウッドデッキなどを見回しながら感心している。
 確かに4人はここに到着してからずっと、どこかの別荘にでもいるような感覚で、食事を作ったりくつろいだりという時間を過ごしている。
 このあとの予定――ゆっくりお風呂に入ったり、フルーツをつまみながらパジャマパーティーを楽しんだり――も、なに1つ不自由ないだろう。

「全・消・灯!」
 テントの周囲を駆け回り、すべての灯りを消し終えたベネディクティオがウッドデッキに戻った。
「照明は真っ暗なのに……明るいですわ」
「なんでなんで? お月さまはまだどこにも見えないのに!」
「ほしあかり ですね」
 湖には他のアイドルたちも宿泊しているはずなのに、そういった灯りもまったく漏れてこない。
 裏手の緑地には、ソーラーライトが適宣設置されている。しかし4人がいるウッドデッキからは、緑地を見ることはできない。
 本当にいま、4人の頭上にあるのは、星の明かりだけだった。

「さて。そろそろ ちがう スタイルで、ほしを たのしみましょう」
 茉由良が星明かりを頼りにウッドデッキを降り、庭先に広がる湖の岸辺に立つ。
 他のメンバーは楽しそうに茉由良の後に続いた。

 * * * 

 岸辺に立った茉由良が、真っ黒い湖の上に、輝く方舟を出現させる。――方舟の凱旋だ。
「よーし! 私たちだけの、星空コンサートのスタートだよ。みんな、乗船しよう?」
 元気なVボイスで声を張りながら、ベネディクティオが歩き出す。
 足元にはブレイジングアイリスの虹が現れ、彼女の歩いた道のりは徐々に陸地から方舟へと続く虹色のタラップになっていった。
 ベネディクティオに続いて全員が方舟に乗り込むと――
「しゅっぱつ しましょう」
 方舟の操縦者である茉由良が、デッキの先端に立って大きな旗を振った。
 船は透明感のある輝きを放ちながら、ゆっくりと進み始めた。
 茉由良が手にしている旗は、ガンダルヴァの指揮器だ。夜風にたなびかせながら優しく振れば、マーチングバンドのアンサンブル楽団が現れ、この場にふさわしい穏やかな曲を奏でてくれた。
「やはり、良い場所でございますわね……」
 カラビンカがしみじみ呟き、シーケンサーを軽く奏でる。
 その音色は魔弦樂團を作り出し、アンサンブルの演奏に、オーケストラの音色を添えた。
 さらになにかしようとしたカラビンカだったが、ほんのすこし躊躇し、やがて諦めたように微笑んだ。
「カラビンカ、どうかした?」
「まだ余裕がありましたので『1/fのゆらぎを使ってこの場にふさわしい環境音でも……』と思ったのですが、すでに完璧すぎて、もうなにも必要ない気がしましたの」
 4人は押し黙り、そっとその場の音に集中する。
 アイドルのちからで作り上げたBGM(演奏)に、湖上をそよぐ夜風と、さざ波の音。
 より耳をすませば、周囲の草木から、夜に鳴く鳥や虫の声も聞こえてくる。
「確かに……」
「完璧ですわね」
 こうして4人はしばらくの間、自然の音と音楽に耳を傾け、過ごした。
 
 しばらくすると――
「そういえばビーストラリアって、どんな星座があるんだろ?」
 ベネディクティオが興味津々、改めて空を見上げた。
「あら。見てないんですの? ベッドサイドにビーストラリアの基本的情報がのったガイド本がありましたわよ?」
 ほかの3人は、うんうんとうなずき合っている。
「え……気づかなかった」
「あら、あんなにベッドでぴょんぴょんしてのに?」
「だってふかふかなんだもん」
「わたし もって きた。たぶん あそこが 南のねこ十字 それから あれが 南極ぺんぎん座 ですね」
 ガイド本を片手に、茉由良が空を指差す。
「茉由良さん、ナイスですわ!」
「ほかにはどのような星座がありますの?」
 皆がガイド本を見ようと、茉由良の周りに集まった。
「あそこの向かいあってる逆三角形。あれ、おさかな座ですわよね?」
「いいえアシュトリィ様。あれははちゅーるい座ですわよ」
「さすがビーストラリアって感じの、動物っぽい星座ばっかり!」
 
 星座さがしもひと段落。方舟もそろそろ消失するだろうという頃。
 岸辺にぽつぽつと青いような黄色いような不思議な光が灯り出し、あちこちをゆっくり浮遊し始めた。
「もしかして……ほたる???」
「きっと、産卵の季節なのですわね」
「きれい です」
「ちょっと、客席のサイリウムみたいですわね」
「うんうん。確かに……」
「あぁ……わたくしたちもいつか、この湖のような大きなステージで、単独ライブを――」

 なにげなく口にしたカラビンカの言葉に、4人は瞳を輝かせる。
 ニューメロウズの4人は、これまでアイドルのちからを使い、数々の事件や調査に関わりそれなりに活躍してきている。
 が、商業的な観点から言うと、4人は実は、デビュー前の『アイドル候補生』なのだった。

「たんどく ライブ……すてき」
「ぜひ実現してみせましょう」
「あら。わたくしは路上ライブでも構いませんわよ?」
「みんな!! 単独ライブなんてちっちゃいよ!」
 ベネディクティオがジャンプして、星が瞬く空を指さした。
「目指すは、アイドルの星! ”ニューメロウズ、世界ドームツアー!”」
「あいどるの ほし??」
「あらあら、本気ですの?」
「えぇぇ! そうしたらわたくし、”世界の歌姫”の仲間入りですわね」

 方舟の上。
 4人は楽しそうに笑い、そして誰からともなく、手に手を重ねた。

「まずは、デビューですわよ」
「その とおり です」
「私達、いつまでも『アイドル候補生』じゃないもんね!」
「わたくし、窮屈なのは苦手ですが、アイドルとして成功するのはとても素敵なことのように感じますわ」
 
 岸辺では、4人を応援する客席のサイリウムのような、蛍の光が瞬いている。
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