Alice and Akira in Beastralia.
「結構しっかり、整備されてるんだな」
アキラ・セイルーンは景色を楽しみながら、テントの背後に広がる緑地を歩いている。
緑地には見通しよく木々や草花が配置されており、どこからでも美しい湖が楽しめる。
「見て! リスがイッパイ!」
アキラの頭の上に乗っかっていた
アリス・ドロワーズが、身を乗り出して木の枝を指差す。
「ハァイ、アリスヨ☆」
アリスはご機嫌で、リスたちに手を振った。
「今度はみんなで来るわネ! 料金とか後でチェックしておきまショ、アキラ」
「ああ、そうだな。……ん? あっち側、ずいぶん広そうだぞ」
緑地は唐突に終わり、2人の眼の前には草や野の花で形成された草原が広がった。
背の高い木々はなくなり、煌めく太陽が、草花を色鮮に照らしている。
「広い草原ネェ」
「よーし! アリス、しっかり捕まってろよ」
アキラはそう言うと、草原を走り出した。
「ナ、ナニ?」
「もっといい景色、見ようぜ!」
アキラはグロリアスマイウェイの光のステップをどんどん駆け上がり、すぐに湖や緑地を見渡せる位置まで登りつめた。
「見テ! 湖、キラキラ!」
「綺麗だなぁ」
「あっ、テントも見えるワ」
湖にせり出したウッドデッキの上に、アキラとアリスのテントが見えた。
2人が滞在するテントは、3つのドームがくっついた形をしている。
中央の大きなドームには、ゆったりした共用スペース。
両脇にあるドームはプライベート空間で、ベッドやバス・トイレが完備。特に片方は、小さなアリスのためにすべてが小ぶりな作りになっている。
「うん。TOPアイドル☆ツアーズ、なかなかいいじゃん」
「ソレにしても、“TOPアイドル☆ツアーズ”って……アキラは何時から
TOPアイドルになったのカシラ?」
「確かに招待状は来たもんな」
「不思議なコトに、宛名も合ってたものネ」
「俺もついに、トップアイドルの仲間入りか~」
アリスと賑やかに空中散歩を楽しんでいたアキラだったが、ふと、歩みが遅くなった。
「なんだろうあそこ。作為的に草木でなにかが隠されてそうな……」
「ドコ?」
「庭のほう、湖のほとりの辺り」
「本当だワ」
「行ってみよう!」
アキラはグロリアスマイウェイで緑地の上を通り抜け、目当ての場所に近づく。枝葉の合間から見えたのは……
「「カヌーだ!!!」」
着地して近づくと、それはやはり間違いなくカヌーで、そばに案内板があった。
”整備済みです。みつけた方はご自由にお楽しみくださいませ。
何とぞ他のお客様のご迷惑にならぬようご配慮のほどお願いします/TOPアイドル☆ツアーズ”
数分後。
湖に着水させたカヌーを、アキラが一生懸命漕いでいる。
「カヌーは前に進ムから、存分に景色を楽しめるワネ!」
頭の上ではアリスがはしゃいでいる。
「はぁ、ふぅ、ひぃ。オレが1人で漕手かよ、ぜぇぜぇ」
「当然デショ。私はレディーなんダカラ、ちゃんとエスコートしてもらわなきゃ。ソレに、いっぱい漕いで疲れても大丈夫! ダッテ次はバーベキューヨ!」
「そうだな! よーし!」
アキラが特性トロピカルドリンクを一気飲みして疲労回復。ひたすらにカヌーを漕いだ。
「ぬをを!」
「アキラ最高! 水上スキーみたいダネ!」
「まだまだ! 落っこちるなよアリス」
こうしてカヌー遊びをたっぷり楽しんだ2人は、とうとうお待ちかねのバーベキュータイム。
アリスは食神降臨でからだを大きく変え、このバーベキューに挑んだ。
スタッフがすでに支度を整えていたため、やることといえば、バーベキューコンロのスイッチを入れ、食材をクーラーボックスから出すことくらいだった。
ボックスには、食材のほかに、スタッフ特製のビーストラリア風フルーツみるくシェイクが用意されていた。
「ん~♪ 美味しいネ!」
「このシェイク。特性トロピカルドリンクとはまた違う趣きだな」
2人はシェイクで乾杯し、もりもり肉や野菜を食べまくった。
そして、真上にいた太陽が、少し傾き始めた頃。
簡単な片付けを終え、アキラはウッドデッキのカウチに寝そべっている。
すでにもとの大きさに戻っているアリスは、アキラの肩あたりで食休み。
「余った食材から考えて、お夕飯はカレーが作れそうネ」
「賛成。せっかくだから、飯盒でご飯を炊くか。ふぁー……眠くなってきちゃった。とりあえず、寝る……」
すぐに寝息を立て始めるアキラ。
「えっ? 本当に寝ちゃったノ? カヌーで疲れたのカシラ」
アリスはアキラの脇にころんと寝そべった。
「お夕飯までまだ時間があるシ、ワタシも一緒にお昼寝しましょうカシラ。……すぅっ」
言っているそばから、アリスもすやすや寝息をたて始める。
そよそよと、心地よい風が湖から吹いて、2人を優しく撫でていく。