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ヒロイックソングス!

“なんにもしない”をしに行こう

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“なんにもしない”をしに行こう
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ぽわぽわTIME

 ここは複数のドームが連結した、大人数用テント。
 ひときわ広くゆったりとしたウッドデッキには、大きなバーベキューコンロが設えられている。
 すでにコンロには炭火がセットされ、いい具合に赤く染まっており――

 デッキの上のカウチに横たわり、エヴァリア・リオージェーリビスが伸びをしている。
「良い場所だな。水に緑に大気……我が故郷と同等かそれ以上。暇を過ごすのには確かに丁度よさそうだ」
 野菜やら肉が乗った大皿をテーブルに置くと、アーヴェント・S・エルデノヴァはにこやかに頷いた。
「ああ。本当に素敵な場所だ。皆と集まれてよかったよ」
 そしてアーヴェントは、まるで芸器や剣を持っているかのような神妙な顔つきでトングを手にした。
「さて、焼き始めようか」
「えっ? 勝手に始めていいのかよ!」
 桜葉 愛がいきり立つ。
「いやいや、そうじゃなくて……」
 一緒に過ごす予定の妻とその同行者は、仕事でトラブルが起き、少しだけ到着が遅れているのだ。
「この“丸ごと玉ねぎのホイル焼き“は時間がかかるから、最初から隅っこに乗せておくものなのだ」
 キリっと真顔で言うと、アーヴェントはホイルにくるまれた玉ねぎをトングで掴んだ。
「ああ、なるほどね」

「ここまで支度ができたか。順調だな」
 どたどた元気な音を立てながら、アウロラ・メタモルフォーゼスがウッドデッキに上がってきた。
 頭には水泳用のゴーグル、首からは縄跳びをさげ、右手には虫かご、左手にはお菓子の袋を持っている。
「まおーさま、貪欲だね。やりたいことが大渋滞だ」
 生ぬるく笑う愛をスルーして、アウロラはビシっと言い放った。
「ゆーしゃよ、トングは複数用意するのだ。ナマ肉用、野菜用、焼き上がった肉用――最低でもこの3本は必要だぞ」
「あぁ、そうだった。食材の準備に夢中で忘れてたよ。ヴルスト用のトングも用意しようかな……」
「それから小娘! 貴様はそろそろサラダを盛り付けるのだ。しっかり手を洗うんだぞ」
「へいへい」
 その時。カウチの上から外の様子を伺っていたエヴァリアが、キラリと瞳を光らせた。
「おい、来たようだぞ」
「「「えっ、来た!?」」」 
 みな、一斉に外へ駆け出していた。
 
「遅れてすみませんでした」
「仕事は大事だから気にしてはならぬ。さあさあ、こちらだ」
 アウロラは、頭をさげる風華・S・エルデノヴァと、都祥 かをりの背中を押してウッドデッキを登っていく。
「ああ、荷物は私が」
 エヴァリアは2人の手から荷物をもらい受ける。そのとき、エヴァリアは風華の耳元でそっと囁いた。
「可憐な花のヒト、お前がアーヴェントの番いか。挨拶は後ほど改めて――」
「つ、つが!? つがい……?」
 真っ赤になった風華の横に、愛がやって来る。
「さあ、じゃんじゃん座って!」
 愛は2人分の椅子をひき、どうぞと手で示した。

「まずは冷たい飲み物をどうだい。何がいい? 全員揃ったことだし、なんなら乾杯でもするか?」
「あっ……ヴェントさん。……私たちまず皆様とご挨拶を……」
「その通り! まずは俺たちを紹介しれくれよ」
「そうだったな」
 アーヴェントが頷き、愛とエヴァリア、風華とかをりが改めて向き合った。

「はじめまして、風華と申します。皆様にお会いでき、とても嬉しく思います」
 結婚指輪にそっと触れながら風華は、風華らしさに満ちた振る舞いで挨拶をする。
「お初にお目にかかります。都祥かをりと申します」
「私は盾の竜エヴァリア・リオージェーリビス。会いたかったよ、風華。かをりも初めまして」
「俺は桜葉 愛。勇者とは同郷で腐れ縁。ま、よろしくな」
 後に続いた3人も、それぞれ“らしさ”が相手に伝わる素敵な挨拶だった。
 これで終わりかと思いきや、アウロラが飛び出した。
「我も聖女一行に改めて名乗りをしようぞ!」
 身体に刻まれたいくつかの禍々しい刻印を見せつけながら、アウロラは超カッコいいポーズで高笑いする。
「混沌を抱きし機械仕掛けの支配者、魔王アウロラとは我のことなり!」
「ふ。ローランドの魔王とは趣の違う、可愛らしい魔王だな」
「まおーさま! 我らしもべに宴の始まりをお告げくださいませ~」
「いよいよ乾杯、ですね……!」

「もしよろしければ、これからの時間、こちらのフィルムカメラで撮らせて頂けますか?」
 かをりの提案にその場の全員が快く同意した。

「よし。じゃあみんな、ドリンクを用意しよう」
 アーヴェントはビールで、風華はジンジャエール。
 かをりは氷砂糖たっぷりのフルーツシロップで作ったソーダ水。
 エヴァリアは甘酒で、愛とアウロラは、甘い炭酸ジュース。
 皆、好きな飲物を手にした。
「宴の開始である、皆のもの我に続け! 『乾盃!』」
「かんぱい!」
 こうして、楽しいバーベキュー大会が始まった。

 * * * 

 ビールを何杯も飲んでいるはずのアーヴェントだが、まったく酔った素振りを見せない。
「ドイツ人のさがだろうか。炭酸も苦味も苦手だが、これは何故かいけるんだ」
 口調も雰囲気も変わらず、そのままだ。
 2人の向かいには愛がおり、甘い炭酸ジュースをがぶがぶ飲んでいる。
「つまみのご加護じゃないかね~。聖女さんの愛が、ビールから勇者を守ってるんだよ♪」
 テーブルには、アーヴェントと愛の故郷(ドイツ)の食べ物“ヴルスト”が置かれている。
 バーベキューは初めてだった風華が、アーヴェントから扱い方を教わり、調理したのだ。
「つまみの、加護か」
 アーヴェントはヴルストを口に運ぶ。
「うん。本当に上手に出来ている。美味しいよ、ふうか」
「ヴェントさん……」
 見つめ合う2人の手には、お揃いの結婚指輪が輝いている――
「っかぁ~! お熱いねぇ! お二人さん、のろけ話とか聴かせてくれよ。お互いのどんなところが好きなんだ? あぁ、『全部です』てのは許さないぜ!」
 年齢的にも状況的にもジュースを飲んでいたはずなのに、愛は酔っぱらいのように大騒ぎしている。
「「ええっ!!!」」
「よーし! じゃあ聖女さんから」
 楽しいひとときを写真におさめていたかをりが、このやりとりに気づき、そっと2人にフィルムカメラを向ける。
 カメラに気づかぬまま風華は、頬を真っ赤に染めつつも、はっきりと口にした。
「……意志強く優しくおありに、そのための研鑽に余念がない所や。それに、今日のような遊び心に……」
 新妻が一生懸命言ったので、アーヴェントも頑張って後に続く。(これはもはや、愛に聞かせるというよりは、風華への返歌のようなものだ)
「優しい歌声や、所作が綺麗なところとか……あぁ、都祥頼む、こんなところを撮影しないでくれ……」
「えっ? 撮影!? か、かをりさん!」
「すみません。感動してしまって……」
 ダン! とジュースのジョッキをおいて、愛がアーヴェントを睨んだ。
「おい勇者! 声が小さすぎて、最後聞こえなかったぞ! しょうがないな、俺が歌おう!」
「愛、文脈がおかしいぞ」
 アーヴェントの正しい指摘をまったく無視して、愛はギターをかき撫で歌う。
「まおーさまに、捧げます」
「うんっ? 我にかっ?」

 ♪ 疼く右手に真実隠し まがまが まがしい まおーさま
 ♪ すべての闇を従えて すべての悪を無に変えて
 ♪ いつか世界を征服するぞ 縄跳び2級も合格するぞ!

 めちゃくちゃながら、歌になっている。
 愛がアイドルとして華々しく活躍する日も、近いかも知れない。

「ふふーんっ! なんとも素晴らしいではないか、小娘よ。なんなら眷属にしてやろう!」
 アウロラは、ご機嫌でテーブルの上のお菓子を食べ漁っている。

 皆が肉や野菜にじゃっかん飽きて来たころ、かをりは串に刺したもちふわマシュマロを準備した。
「お口直しに甘いものはいかがでしょう」
「……む? 甘いもの?」
 皆の話を楽しそうに聞いていたエヴァリアが、『甘いもの』という言葉に反応した。
「はい。マシュマロと言います。どうぞ」
「どれ、1つ」
 皆がマシュマロを求めて、ぞろぞろと炭火に集まる。
「……! おいしい」
「リオージェーリビス様は甘いものがお好きなのですね? さあもう1ついかがですか?」
「いただこう」
「さあどうぞ。あ、アウロラさんのも、そろそろ食べ頃ですよ」
「うむ……。おお! これは美味! チョコレートをかけたらなおいいのではないか?」
「俺も賛成だぜ、まおーさま」
「ふふ。チョコレートもありますよ」
「「うわーい♪」」
 愛とアウロラが小躍りする。
「私も……」
 皆の真似をしてぱくっと元気にマシュマロに食らいついた風華。
「あつっ……」
「大丈夫か、ふうか。冷たい氷水を口に含むといい。待ってて――」
「あ、ヴェントさんっ……私、自分で……」
「勇者というよりナイトだな! ヒューヒュー!」
 炭火の周りには、幸せで楽しい雰囲気が充満している。

「皆さんのマシュマロ写真、撮ってもよろしいですか?」
 カメラを構えたかをりに、エヴァリアが手を差し出した。
「どれ、私がとってやろう。かをりもたまには、とってもらう側になるといい」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」

 使い方をレクチャーされたエヴァリアが、フィルムカメラのファインダーを覗く。

 きらきらと煌めく湖を背に――
 チョコレートを口の周りにつけたアウロラと愛。
 この場の雰囲気をこころから楽しんで、夢見るように瞳を輝かせているかをり。
 そして、風華に冷たい水を差し出すアーヴェントと、感謝の笑みでそれを受け取る風華。
 
 ファインダーを覗いたまま、エヴァリアはしみじみと噛みしめる。
(彼等が離れることのないよう、私も盾として精進せねばな)

 誰からも見えないとわかったアーヴェントが、こっそりと自身の手を風華の手に重ねた。
「……!!!」
 真っ赤になった風華と、キリリとした顔のアーヴェントは、そのままの姿勢でカメラを見つめる。

「ええと、なにか合図を言うんだったな。それではいくぞ。“バーベキューは楽しいか”?」
「楽しい!!!」
 全員がいい笑顔になった。
 ぱしゃっ!
 つられて笑顔を浮かべながら、エヴァリアがシャッターを押した。
 
 * * * 

 バーベキューの宴は、ゲームやかくし芸を挟みながら延々と続き、やがて終宴。
 夕暮れと共に静かなひとときが訪れ、みな、思い思い気に入った場所でうたた寝を始めている。
 1人1人にねむねむの加護を祈りながらブランケットをかけていた風華が、庭のハンモックで眠りこけているアウロラに気づく。
「素敵な場所を見つけましたね……」
 ブランケットを手にそっと庭に降りると、湖の岸辺に座っていたアーヴェントがこちらを振り返ってきた。
「ヴェントさんもいらしたんですね」
 あのときからずっと、ぽわぽわとあたたかかった風華の手が、一気に熱を帯びる。
「ふうか、おいで。もうすぐ湖に陽が沈む。一緒に見よう」
 手招きされた風華は、微笑みうなずき、彼のほうへ駆け寄った。
 そっと指輪に触れながら。
 ぎゅうっと幸せを噛みしめながら。
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