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「れっつイースター!」
テンション高く楽しげな様子で高らかに言ってエッグハントを始めたのは
シャーロット・フルールだ。
開始の合図と共に、人獣一心で心を通わせた相棒であるサーカスアニマル神狼ユキに境屋お手製アニマルフードを与え、手分けして卵を探し始める。
「よしよし」
分かれる前に撫でてやるシャーロットにユキが尻尾を振っていた。
シャーロットはミミの性格から、方向音痴でおっちょこちょいなら色々な場所に卵が隠されたと推理している。
ミミはウサギだから足も早そうだ。
広範囲を探すため、疾風迅雷で走り回る。
一旦ユキと合流し、見付けた卵を合わせて数えてみる。
さらにミミが隠しそうな場所を考え、近眼で穴掘りが好きならアトラクションの隙間や狭い場所も良いかもしれない、と今度はユキと一緒に探し始める。
埋めているかもしれないので地面の近く、低いところを中心に。
シースルーで透視をし、暗い場所ではドリームライトで照らし、狭くて手が届かないところでは影より伸びる手で引っ張り出してと、とにかく色々試して卵を集めていく。
今日のエッグハントには色々な理由での参加者がいたが、
法華津 友恵の参加理由はディテクティブ修行の一貫だった。
ミミの心理を推理しながら卵を探す、というのが実にそれっぽい、ということだ。
友恵はまず、ミミの性格や特徴から行動パターンを推理した。
嗅覚と聴覚が優れるミミならば、あまり臭いが強い場所や人が多すぎて騒がしい場所は好まないのではないか、と推測。
その他の穴掘りや狭い場所が好き、そして寂しがり屋で気が小さいという性格から、静かでありつつ人が行き交う場所から離れてはいないような場所を探索対象と決めた。
とは言え、隠すものは本物の卵である。
いくらカラフルにペイントしてあっても、食べ物は食べ物。
ゴミ捨て場やトイレのような場所には隠さないのでは、と後回しにして他の場所をサイコトーチで照らしつつ探し始める。
友恵の推理は当たっていたようで、順調に卵が見付かり増えていく。
それでも途中、条件に合っているのに卵がないこともあり、そこではダメ元でサイコメトリーしてみた。
お陰でミミが穴を深めに掘って埋めた卵を見付けることができた。
ふとインスピレーションも試してみたところ、エリア内のイースターらしい飾り付けの中にも紛れ込んでいるかもと思いつき、探してみるといくつか見つかった。
会場のあちこちで、今もエッグハント参加者達は卵を探し続けている。
が、時間が経つのは早いもの。
楽しい時間は特に早く感じられる。
今日のお祭りも少しずつ少しずつ、終わりの時間が近付いてきていた。
イアンなどはバラをくわえ、風が髪を撫でるに任せて西を向き何やらたそがれ始めた。
「夕方でアール。祭りの終わりが近付くこの何とも言えない空気…ワタクシは嫌いではないのでアール」
たそがれながらの呟きなので、意外と深いことを言うかもしれないと近くにいた運営スタッフなどは期待したようだが、やはりそんなに大したことは言っていなかった。
そんなイアンをよそに、ライブも終わりが近付いてきており、最後から何番目かという頃に登場したのが
苺炎・クロイツと
イゾルデ・シュミットだ。
アイドルと花屋という組み合わせだが、2人はクレギオン世界で共に花を愛で、平和を夢見た間柄である。
歌うのは苺炎で、花屋のイゾルデは主に演奏と演出を担当する。
曲目は春への賛美歌、春爛漫の花たまご。
イースターにふさわしい選曲だろう。
「夢の世界ノスタルジアから、春のお祝いライブに来たよー!」
ステージに上がった苺炎が観客席に向かって明るく言う。
その声は幸せを与えるVボイス。
苺炎の声かけに上がった歓声が落ち着き、静かになってから数秒。
イゾルデが演奏を始める。
入りはとても静かで、ショルダーキーボード型シーケンサーの≪S≫エルケーニッヒのエフェクターで荘厳さを出し、取り入れた1/fのゆらぎによって観客や共演者に深いリラックス効果を与えつつ春を賛美する。
ハルイチバンがシーケンサーの演奏に呼応してステージ上に暖かい風と花びらを舞わせ、観客達を一気に花咲く春の世界へと誘う。
そうして苺炎が優雅に花咲く喜びを、幸せなメロディを歌い上げていく。
苺炎のドレスが春風を含んで優雅に舞い、イゾルデのとんとんとんと数フレーズ、観客の心の準備を整えるようなベースサウンドにサムノーツを合わせる。
苺炎がこのライブで花が綻ぶように、幸せに卵を割った時のように皆を驚かせたいと望んだ通りになろうとしていた。
イゾルデのファジーチップで最後のワンフレーズに付与された僅かな歪みと闇がトラックの変わる合図となり、次への布石として苺炎がデザイアスフィアで作り出した夢の詰まった大きな風船を観客席の方へ。
「卵は落とさないで! 卵を割らないで!」
苺炎はこの風船を卵に見立てているようだ。
観客達がそれに触れる度、託された夢や希望によって風船がゆっくり跳ねながら大きくなっていく。
トラックが切り替わるとイゾルデが音の明暗差で巧みに本命を目立たせる。
明転したところで苺炎がお祝いの気持ちをビッグクラッカーで表現。
そこにイゾルデがヴァーチャルイコライザーを展開し、イメージの力によって波形のエフェクトを円形に丸め、さらにこれをポップに開く花のように見せる。
苺炎に花を添え、歌声を繋ぐ。
花屋のイゾルデらしい演出だ。
それもただの花屋ではない、まさに花と癒しと場を支配する女王──トラックメイカーにふさわしい。
「はっぴーすぷりーんぐ!」
リドリーミングによって苺炎の体とその周辺にはカラフルな光のエフェクトが発生し、それがイースター用ドレスとうさ耳に変わってまさに早着替えだ。
イースターバニーが象徴する多産と豊穣で、最高の楽しさがたくさん生まれるように。
いずれこの時が花の散るように忘れられてしまっても、高揚の余韻だけでも残せれば。
そんな気持ちで場を盛り上げるため春を歌う苺炎。
苺炎に応えるように観客達は盛り上がり、最高潮に達したところでデザイアスフィアの風船が割れ、無数の小さな極彩色の星が飛び散っていく。
と同時に苺炎とイゾルデが締め、ライブが終わり観客達からは大きな歓声と拍手が贈られた。
「割れちゃったー! ありがとうございました! まだもう少しお祭りはつづきます! 楽しもうねー!」
そう言ってステージを下りる苺炎とイゾルデの姿が見えなくなるまで、観客達の歓声と拍手は続いていた。