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若桜、姥桜。いづれも花。

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若桜、姥桜。いづれも花。
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 柔らかな日が差し込んで、頬を暖める。
 その温もりの中、ゆうるりと大久保 泰輔は目を開いた。
 どうやら天気は良いらしい。
 泰輔は目をしばたたかせる。

(小雨降っとったようなんは、上がったみたい
緑のにおいがする
鳥の声が聞こえるね……)

 ——あ、おなかの音も聞こえた(笑

(そういえばそろそろ食べる物も買い足しに行かななぁ)
 ぼんやりと泰輔がそんなことをつらつらと考えていると、すぐ近くクツクツと小さく笑う声が聞こえた。
「ああ、目を覚ましたか?」
 泰輔を覗き込むように見つめながら、讃岐院 顕仁が言った。
「……夜も短うなってきたの?」
 柔らかな光の中、顕仁は莞爾として笑った。
 また、腹の虫がくうと鳴った。
 まだぼんやりと夢現の泰輔を眺めつつ、ふむ……と暫し顕仁は考える。

「ほむ、出かけるか」

 そうと決まれば、行動は早い。
 グイッと顕仁は泰輔の手を取り、どうしたって未練の残る温もる布団の中から引っ張り出すと出掛ける支度をする。

 そうしてふたりして京の街へと繰り出した。

 明け方に降った雨は然程でもなかったらしい。
 それでも潤いを残す空気に、木々や草花の瑞々しさに、心地よさを感じる。
 春霞も薄れ、空も青い。
 人々の行き交う中、泰輔が美しく咲く花に足を止め見上げる姿を、顕仁は穏やかに見つめる。
「桜……の季節か」
 ひらり、ひらりと、舞う花の。
 散り初めの花の色を。
(この間までは、幹にいっぱいにつやつやと桜色を溜めとったんが
咲くと、色は花びらの方にいっぺんに移ってまう)

「せいぜい、十日かそこらの装いのために……」

 溜め息に混じらせ、泰輔はつぶやく。
 きゅっと口を結ぶと、視線を地面に落とした。
 行く春を惜しむには、まだ早い。
「桜は、盛りのみのものでもあるまい
春は、桜だけでもあるまい」
 顕仁は、そっと泰輔の背に手を当てる。
「行くのだろう、買い物?」
 背中を押しながら顕仁は言った。

 あちらこちらの花に誘われていたせいか、市についた頃には既にめぼしいものは品切れており、まあ最初から寝過ごしていたし出遅れも詮無いことだと諦める。
 互いに苦笑を認めつつ、市を出て町中を歩く。
(花びら?)
 視界の片隅を何かが掠めていく。
 顕仁は足を止めて、その何かを目で追った。
(ああ、夏の華麗な大きな揚羽のみが、蝶というわけでもなかった喃)
 紋白蝶の行方を追っていくと、種子でも溢れていたのか黄色の油菜の花が咲いている。
 菜の花、菜の花。
 菜の花の緑。その葉の上の赤い点は、天道虫。
 葉の緑の下には、月草が見える。菜花と桜が終われば、きっとこの小さな青い花が目を楽しませてくれる。
 大切な人と過ごす、春の日。

 くう……と、腹の虫の鳴く音が聞こえた。

 顰めっ面で腹を押さえる泰輔を、顕仁は振り返る。
「そうか、空腹であったか?」
 市で買い物しそびれたのは、仕方なし。
「今日のこれからのお昼はどないしょ?」
 腹の虫を宥めるように押さえながら、泰輔はぐるりと周囲を見回した。
「あそこで弁当売っとる! 売り切れる前に、早よ行こか!」

 ——互いに手を取り、走り出した。

 
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