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ハーンデルの黎明

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ハーンデルの黎明
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「おうおうなんじゃこのジジイ!」
「俺らとやろうってか、アア?」
 交易都市・ハーンデル――その商店街、の、ちょっと一本入った先、うら寂れた通りにある、あまりお行儀の良いとは言えない雰囲気の酒場は、にわかに喧噪に包まれていた。
「ちょいとお客さんがた!」
 店の親父の迷惑そうな声が響くが、酔客達はそんなことはお構いなしに取っ組み合いの大立ち回り。
「喧嘩をふっかけたつもりはないんやけどなぁ」
 その、大立ち回りの中心で、酔客達をちぎっては投げちぎっては投げしているのは、松本 留五郎――これでもシャンバラ教導団に所属する契約者だ。
「なんかわしら、ハーンデル来てから、やたらモノぶん投げてる気ぃするなぁ」
 何人目かの酔っ払いを殴り飛ばしながら、留五郎がごちる。隣では留五郎のパートナーである杜甫 子美もまた、一緒になって暴れている。
 日雇い労働者を装って酒場を訪れた留五郎たちは、ひとしきり酒を飲み、酒場に集まっている、あまりお上品とは言えない連中達と一緒に盛り上がり――いつの間にかどちらからとも無く因縁をつけあい、今に至る。
 当然そんなことをしていれば。
「こらお前ら、憲兵隊だっ! 何の騒ぎだ!」
 ――憲兵隊がやってきて、留五郎たちはお縄に付いた。

 ……というのはもちろん、留五郎の作戦である。「憲兵隊に捕まった連中が、すぐに釈放されてしまう」という現象の真実を探る為、一騒ぎ起こして、留置場の中から実体を探ろうという魂胆だ。
「――ま、成功じゃな」
 留五郎と共に暴れていた子美が、留五郎と二人放り込まれた留置場の檻の中、やれやれと冷たい石壁に凭れながら呟く。
「地球でもトラ箱の世話にはちょいちょいなっとったさかい、慣れとるんよ」
 不本意そうな顔の子美とは対照的に、言葉通り慣れた様子の留五郎である。
 憲兵隊の詰め所の奥に設置された留置場には、大小の房が並んでおり、そのいくつかにはふて腐れた様な顔の男女が何人か収監されていた。
 檻越しに見渡した限り、確かに留置場はそれほど広いわけではなく、「留置場が狭いから、ちょっと悪さしたくらいの奴はすぐ釈放しないとパンクしてしまう」というのもあながち嘘ではなさそうだった。……が、治安組織としてそれでいいのかという疑問は大いに残るところだ。
「……お前ら、見ない顔だな?」
 二人して辺りの様子を見渡していると、斜め向かいの房に囚われている四十がらみの男が、鋭い眼光を向けてきた。禿頭に大きな傷がある。
「いやあ、最近この街で仕事貰うようになってなあ」
 留五郎が、胡散臭い雰囲気を醸し出しながら答える。男は、はん、と鼻で笑った。
「そりゃ、しばらくは臭いメシだな。ご愁傷様だ」
「……なんや、臭い飯のご厄介にならなくて良い方法でもあるような言い方やなあ?」
「ま、賢いやり方ってのがあんだよ。お前が『誠意』を見せてくれるっつーなら、オレから『あの方』に話付けてやってもいいんだがな……?」
「止めとけ止めとけ、ろくな目に遭わねぇぞ」
 ニヤニヤと笑う男が取引をちらつかせようとしたところで、留五郎達の隣の独房から、別の男の声が聞こえてきた。壁に阻まれて姿は見えないが、声からするに、眼前のごろつきと大差ない年格好なのだろう。
「余所者が急にでかい顔しやがって、今に旦那が叩き潰すからな、覚悟してろよ――ってことで、あいつらに付いたって得はねぇ、付くならレルヒェの旦那の方さ」
 壁の向こうから聞こえる声の前半は禿頭の男に向かって、後半は留五郎達に向けられていた。なるほどのう、と子美が呟く。
「ここに捕まってもすぐ釈放してもらえる、という噂はそっちの、余所者さんのお仲間が裏で何かやってるから、ってことのようじゃのう」
「チッ……」
 レルヒェ側の人間らしい隣の房の男が、つまらなそうに舌打ちする。
「その、レルヒェさん? 言うのは、そういうことしてくれへんの?」
「……あいつらが大きい顔し出す前は、憲兵隊の連中にも旦那の睨みが利いたんだがな。奴らめ、相当でかい後ろ盾があるらしい……気に入らねぇ」
 あくまでもこの街の裏社会の情勢は知りませんよという体で問いかける留五郎に、壁の向こうの男は腹立たしげに吐き捨てた。
「今でも旦那の顔色気にしてくれる隊員もいるから、何のコネもなくぶち込まれるよりゃ待遇がいいが。チッ、忌々しい」
「はん、今更あっちに付いたって落ちぶれるだけだぜ。今なら……おっと、残念、時間切れみてぇだな」
 禿頭の男はそこで言葉を切る。と同時にドアの軋む音がして、留置場の入口から憲兵隊の隊員らしき男が一人、コツコツと石の床を鳴らしながらやってきた。そして、禿頭の男の房を開け、もう出て良いそうだ、と告げる。男は「ありがとよ」とニタニタと笑いながら言うと、留五郎と、その隣の房へ向けて鼻をひとつ鳴らし、そのまま留置場を出て行った。
「――と、言う訳だそうじゃよ」
 と、子美が何やら呟く。その声に、憲兵隊の隊員がチラリとこちらを振り向いたが、留五郎が「酔っ払いの独り言や、おぅい二郎やん、うるさいそうやで、ちと黙りい」と声を上げると、隊員はため息ひとつ残して去って行った。

 一方その頃、留五郎のもう一人のパートナーである南柯 呉春は、憲兵隊詰め所の外、十分に離れたところで、子美からの通信を受け取っていた。呉春の担当は、留置場の外で内部からの情報を受信し、安全かつ迅速に自警団と共有すること、そして、留五郎達の身元引受人として留置場からの退出を手助けすることだ。
 子美が老眼鏡と偽って留置場へ持ち込んだサングラス型通信機から送られてくる内部の情報を、文章にまとめて自警団の鈴木 円真らへと送信する。
「さて……情報はまずまず揃ったというところでしょうか」
 留置場の中で、両勢力の人間から話を聞けたことは僥倖だった。呉春は立ち上がると、留置場の中の二人を迎えにいくために憲兵隊詰め所へと歩き始めた。



「と! いうわけで、憲兵隊に突撃インタビューでーす!」
「どういうわけだ、どういう」
 「ノコノコと」という形容詞が実に似合う足取りで、堂々と正面から憲兵隊詰め所へとやってきたのは、サクラ・ウイングと、そのパートナーであるムーン・ムゥの二人。
 詰め所の入口をくぐり、「何か御用ですか」と、受付に居た若い隊員が声を掛けてきてくれた次の瞬間、ムーンの第一声が、それである。対応していた隊員は呆気にとられたか、敬語もすっ飛んだツッコミをくれた。
 しかしムーンは全く気にせず、ニコニコと良い子のオーラを振りまきまくる。その屈託のなさの前には、対応していた隊員も、直球で無下に「帰れ」とまでは言い出せないらしい。
「インタビューって言われてもな、こっちは忙しいんだよ」
 なんとか遠回しに帰って欲しいムードを出してくるが、サクラたちはこれでも自警団の一員として、憲兵隊の内偵にやってきたのである。帰れと言われて、ハイそうですかと帰る訳にはいかない。
「お願い、お話聞かせてくれないかな」
「そう言われてもね……」
「どうした? ……あれ、そっちの二人は」
 受付のところで押し問答をしていると、もめ事の気配を察したか、奥から別の青年がやってきた。シェーネス・ヴェッター――若き憲兵隊員にして、自警団の協力者でもある。その繋がりで、サクラとムーンとも面識がある。
「あっ、シェーネスさん」
「突撃インタビューなんだよ、お話聞かせて!」
 二人に詰め寄られ、ついでに、受付で対応していた同僚からは「知り合いか、なら後は任せた」と二人を押しつけられ、シェーネスは二人を詰め所のロビーの片隅、ちょっとした応対スペースへと案内した。そして、「何が聞きたいんだ?」と話の先を促す。
「じゃあまず、隊長さんのお名前は?」
「隊長の?」
 シェーネスは「なんで今更そんなことを」という顔で聞き返すが、サクラは「僕たち、実は隊長さんのこと全然聞いたことなくて」とさらに押す。
「ああ、確かに、ちっと出不精だからな隊長……外向きの行事とか全部副隊長に任せっぱだし。ああ、名前? シュット……えーっと……ああそうだ、シュット・アプラーデだよ」
 さらりと答えるシェーネスの言葉を、今日も探偵風ファッションでばっちり決めているサクラが、探偵気分でしっかりと手帳に書き留める。
「隊長さんってどんな人?」
 その一方でムーンが、屈託ない笑顔でぽやぽやと質問すると、裏表なさそうなその真っ直ぐな問いかけに、シェーネスは無警戒な表情でそうだなぁとぼやく。
「口ひげ蓄えた、五十かそこらくらいの、まー、こういう仕事の割には小柄なオジサンだよ。隊長になるくらいだから仕事はできるんだけど、ちっと影薄いんだよな。その割に、気付くと全部決まってる、みたいなとこあって、俺達こっそり『黒幕』って呼んで……あ、いや、今の秘密」
「へえ、すごい人なんだねぇ。じゃあ、隊長命令は絶対だったり?」
「ああ……まあ、そりゃな。つか、俺らなんかもう気付いたときには全部決まってるから口挟めない、みたいな」
「そっかー、じゃあ、みんなは隊長さんに不満があったりしちゃうんじゃない?」
「不満ねぇ……まあ、そうだな、ちっと最近、捕まえた連中の釈放が妙に早いことがあって、俺とか、何人かは変だなって思ってる。あ、これオフレコな。クビにはなりたくないから。でも、隊全体としてはそこまで強烈に嫌われてるってこともない。何せ、影薄いからな」
 声を潜めてそう言ってから、シェーネスはははっ、と笑った。
「憲兵隊って、町長さんが作ったんでしょ? 隊長さんと町長さんも仲良しなの?」
「ん? いや、別に町長が作った訳じゃないぜ。憲兵隊自体は昔ッからあるんだ。つっても今は町長の直轄組織だし、町長と隊長が対立してるって話は聞かないから、ま、仲良しなんじゃないか?」
「なるほど、よくわかったよ、ありがとう」
 ひとしきりシェーネスから話を聞き出すと、サクラはぱたんと手帳を閉じる。それを合図にして、二人は立ち上がった。そして、シェーネスにお礼を言うと、憲兵隊の詰め所を後にした。
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