いつもなら、誰もいない静かな真夜中の神社。ですが、今日、この日はたくさんの人が集まり賑やかな話し声も聞こえてきます。
もうすぐ、新しい年を迎えるこの日。一年の感謝と共に神楽殿では地元民による舞が奉納され、続く歌の奉納への期待も高まっています。
今日の神社は心なしかいつもより輝いて見えます。
そんな神楽殿を見ながら
クラリッサ・シンレスはこれから始まるライブの最終確認をして行きます。クラリッサの出番は年末を締めくくる、カウントダウン前のライブ。
そこで歌うのは和風ハードロックにアレンジしたクラリッサオリジナル曲『S.D.R』。
(オリジナルそのままだと場所の雰囲気に合わないし……中々難しかったがトリッキーフェイクの応用でリハーサルでは上手くいった。後は本番で失敗しなければいい……)
「あれ、クラリッサちゃん! 久しぶり~☆」
「シャーロットさん、それにルルティーナさんも。お久しぶりです」
「ディスカディアではお疲れさまでした」
以前ディーヴァ誘拐事件の時に共に戦った
シャーロット・フルールと
ルルティーナ・アウスレーゼがクラリッサを見つけて声を掛けてきました。
「クラリッサちゃん、こわ~い顔になってるよ? 緊張してる?」
「え? あ……思っていたよりも緊張していたみたいだ。本番前に気付けてよかった、ありがとうシャーロットさん」
「クラリッサさん、良い笑顔です♪ お歌、楽しみにしてますね」
「ふふ、頑張るよ。ありがとう、ルルティーナさん」
(本番で失敗しなければいい? いや、違う。失敗を恐れ小さくまとまるよりも、失敗しても熱いライブをするのが私のロックンロールだ!)
空を見上げたクラリッサは白い息を吐き出して気合を入れなおしました。
「今年ももうすぐ終わりか……そう言えば、シャーロットさんの執事さんは来てないのかい?」
「あ~、ルミマル姿にしたのがいけなかったのか、なんか拗ねちゃって」
てへっと舌を出すシャーロットに何の話か分からないクラリッサは首を傾げました。その時、クラリッサの出番を知らせる声が掛かります。
「ん……出番が来たな。一年の締めくくりに相応しい熱い、熱いライブを魅せようか!」
両頬を叩いて神楽殿に向かうクラリッサの背中を二人の声援がかけられ、クラリッサは舞台へ上がります。
「さぁ! 新年への餞(はなむけ)だ! 行くぜ、ストレンジ・デイス・ロックンロール!」
もうすぐ新年が迎えられる喜びを旧年になる今年に起きた三千世界での自分の日常、非日常の経験を感性の赴くままに詩に刻み和風ハードロックで熱く歌いあげます。
「いよいよ新年! 皆、用意は良いか~っ!」
沸き起こる歓声。クラリッサの合図で年始のライブを行う面々も舞台に上がり、共にカウントダウンを始めます。
「スリー! ツー! ワンッ! ……ロックンロオォール!!」
クラリッサの和風ハードロック調のS.D.Rが鳴り響き、元気いっぱいな
空花 凛菜の声が会場に届きます。
「明けましておめでとうございます! 新しい年の始まり、とてもワクワクしますね。新年もよろしくお願いします!」
華やかな黄金の絹を靡かせて可愛らしくも気品のある凛菜の後に続くのは、厳かな空気を纏った巫女服の
八重崎 サクラと白の衣装の
ジル・コーネリアス。
「過ぎ行く年に、感謝を」
「迎える新年に、願いを」
二人は同時に両手を空に掲げると、ひらりひらりと光の羽根が舞い落ちて来ました。
人々は視線を奪われ空を見上げます。そこに一筋の強い光。光は雷となり黄金の羽根を纏う雷が舞台に大きな音を立てて落ち、会場は光に包まれました。