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蒼き大海へ向かえ:1

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蒼き大海へ向かえ:1
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 草木も眠る丑三つ時――。
「ば、化け物だァァァァ!!」
 ガラガラと大きな音を立てながら、朱雀大路(すざくおおじ)を荷車が走っていた。
 車を引くのは、幾人かの男たちである。
 朱雀通りは、西都の中央通りに当たる。真っ直ぐ進めば御所だが、荷車が向かっているのは正反対の方角だ。
「ま、待ってくれ! 帰っちゃ困る!」
 荷車に並走する中年男が叫んだ。
「知るかよ! それなら一人でやれ!!」
 男たちが、荷車を捨てて逃げ出した。
「そんな……」
 中年男は、呆然とする。荷車には、野菜や魚が山と積んである。一人では動かしようがない。
 中年男は恐る恐る振り返った。
 象ほどの大きさもある猫や入道、炎に包まれた牛車といった化け物が目前に迫っている。
 ばたり、と音を立てて中年男は気絶した。
 化け物たちは中年男には目もくれず、荷車を取り囲み、一飲みにする。
「どうしたのー? お腹減ってるの?」
 不意に声をかけたのは、苺炎・クロイツだ。
「難しはや、行か瀬に庫裏に貯める酒、手酔い足酔い、我し来にけり」
と苺炎は呟きながら、化け物たちに近づいていく。
 玄武大路に化け物が出る、という噂を聞いた苺炎は、それが異人だろう考えていた。いわゆる、妖怪と呼ばれる類だ。
 かつての皇国には、そこかしこに妖怪がいた。人を脅し、こうして食べ物を奪うものも。「置いてけ堀」などがいい例だ。
 だが、
「三日もここに居るんでしょう? そろそろ人も、排除に動くかもしれないよ?」
 度が過ぎれば、退治する話になるのは自然な流れだ。
「私に出来ることがあれば、力を貸すよ?」
 大入道がちらりと振り返り、苺炎を睨んだ。
「大きなお世話だ」
と、響くような声で大入道は言った。
 やはり、知性のある異人らしい。ならば、会話は可能だ。
「ここから、動きたくても動けないとか?」
 再び大入道が睨む。
「度胸のあるチビだな」
 今の苺炎は、小さな少女に見える。
「私、こう見えて異人だからね」
 胸を張った苺炎の言葉をどう受け取ったのか、大入道は大きな目を細めた。
「仲間か。ならば尚更、放っておいてくれ」
「放っておけないよ……やられちゃうかもしれないんだよ?」
「我ら物の怪は、こうして人を脅すのが存在理由。ご一新以来、徐々にその場が減ってきたのを、良い場があると教わった。故に、な。こうしておるのよ」
 時代が変わり、ごく普通の異人だけでなく、彼らのような妖怪の居場所もなくなっているのは確かだ。昔は「よくある話」だった怪談も、今は「昔話」でしか聞くことはない。
「教わったって……誰に?」
「迷惑をかけることになる故、それは言えぬ」
 どうやら説得は不可能らしい。苺炎としても、無理強いするつもりはなかった。
「さあチビすけ、帰れ。我らに構うな。これ以上構うなら、お前を食ってしまうぞ」
 その言葉に、化け猫が大きな口を開けた。そんなことに怖がるような苺炎ではないが、この場は礼儀に従うことにした。
 即ち、
「きゃー。助けてー」
 思い切り棒読みの悲鳴を上げ、逃げ出したのである。
 大入道たちは、その場に残されたある物を見つけ、にやりとした。
「おお、これは良い物じゃ」
 純米吟醸『神殺し』――まったく、自分たちに相応しいと化け物たちは思った。


 瑞穂皇国(みずほこうこく)で行われる皇子の結婚の儀に参加するため、華(か)から、一人の人物が派遣されていた。
 名前は魏 文 (ウェイ・ウェン)。五十をいくつか過ぎた、これといった特徴のない男である。
 文は、最近できたばかりの部署・総理各国事務衙門(そうりかっこくじむがもん)の人間だ。総理各国事務衙門とは分かりやすく言うならば、外務省であり、文は大使である。
 船上で欠伸を噛み殺す文を見つめ、真毬 雨海はいささか心配になった。
 このような重要な役目に就くからには、文もそれなりに出来る人物のはずだ。
 が、この数日、護衛として傍で見てきた限り、文にはそういった才は感じられなかった。言葉は悪いが、「凡人」という単語が最も相応しい。
「あー、お前、そこのお前。名前は何だったかな?」
「真毬雨海と申します」
「そうだったそうだった。真毬」
 自己紹介も、もう三度目である。護衛は十人ほどいるので覚えきれないのかもしれないが、記憶力が心配になってくる。
「酒を頼んできてくれ」
「……間もなく、瑞穂皇国に到着しますが」
「それがどうかしたか?」
「下船の準備もありますし、皇国からの迎えもあります。その――」
「わしは酔っとらんぞ」
 酔っ払い特有のセリフを、酒臭い息と共に吐く。顔も赤い。
 これはまずい。非常にまずい、と雨海は思った。
 文は不機嫌そうな顔をして、「まあ、仕方がないか」と諦めてくれたようだった。
 なぜこんな人物を大使に選んだのだろう、と雨海が疑問に思ったちょうどその時、船が港に入る合図の汽笛を鳴らした。


 そして同じ日、同じ港のもっと端の方で、尹 一刀(イン・イーダオ)と、雷 心玉(レイ・シンユー)の瑞穂皇国に上陸したのだった。
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