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ハーンデルの黄昏

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ハーンデルの黄昏
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 交易都市・ハーンデル。タシガン空峡に面した商業都市を密かに襲う黒い影に対抗するべく、自警団に所属する契約者達は、各所の調査を開始していた。


「さあさあ、どんどん召し上がってくださいね」
 デディカーレである川上 一夫は、このところ港で頻発しているという「荷物が増えている」という怪事件の調査のため、「港湾労働者たちの慰労に」という建前で、荷下ろし場へと潜入していた。
 エレガントティータイムのスキルを使い、パウンドケーキなどの腹持ちする食べ物やコーヒーなど、男性にも喜ばれそうなメニューを中心に、お昼休みの時間帯を狙って広げてやると、美味しそうな匂いに釣られて何人かの労働者がやってきた。
 一夫はしめたとばかり、どうぞどうぞと食べ物や飲み物を差し出しては、いつもお仕事お疲れ様です、と慰労に来たのですよという顔で相手に話しかける。
 暫く世間話の相手をして、相手の興が乗ってきたところで「そう言えば、最近荷物の数が合わないというお話を伺ったのですが、宜しければその荷物、見せて頂くことはできますか」と切り出した。
 若干直球すぎるきらいのあるその問いに、大半の作業員は「なんでそんなこと」というような訝しげな顔をしたが、諦めずに何人かに同様の話を振るうち、一人の男が「ああ、今日もあったな。あれだよ」と視界の端にあるコンテナを指さした。
 ここからではコンテナの外観しか見ることができず、詳細は分からなかった、それでも箱にはでかでかと「インテリア」「取り扱い注意」の荷札が貼ってある事は確認できた。
「でも、なんだってそんなもん見たがるんだ?」
 そう聞かれた一夫は、いやまあ、気になりまして、と適当に言葉を濁す。慰労に来た、という建前上、それ以上突っ込んだ行動は憚られたが、一夫は得られた情報を自警団のメンバーに向けて共有するのだった。



 松本 留五郎杜甫 子美の二人は、自警団を通じて事情を聞くなり、港で働く日雇い労働者達に紛れて荷下ろしの仕事を始めた。
 シェスティンの元へ情報を持ってきたのも下っ端の職員だったと聞いているし、現場に潜り込めば何らかの情報が得られるだろうと思っての行動だった。とはいえ流石に、下っ端とはいえ正規の職員と日雇いの労働者とでは業務分野が違うので、すぐに怪しい荷物の現物を発見、とは行かなかったが、それでも仕事終わりに一杯飲み交わしたりして、何人かの労働者と親しくなる事には成功していた。
 そんな次第で二人は、今日も朝からせっせと荷物を載せ下ろししている。ただ、日雇いの二人に任される仕事のほとんどは、ただ右の物を左に動かす程度の仕事。納品数の照合などは正規の職員の仕事なので、どれが「本来の数より多い」コンテナなのかは判断が付かない――が。
「げぇ、またかよ」
 誰かの嘆く声が辺りに響き、何人かの作業員たちわらわらと集まり始めた。
 留五郎と子美は顔を見合わせて、その野次馬の輪に加わる。あれこれ交わされている会話を聞くに、例の数の合わない荷物らしい。
「また、って事は、最近多いんか?」
 留五郎が、顔なじみになった作業員に問いかける。
「ああ、ここ……半月くらいだか、やけにな。事務方なら書類くらいちゃんと作れッてんだ」
「そりゃ、迷惑な話やな」
 そのうちに、数を勘定していた作業員たちの方は何やら話がまとまったらしく、集まっていた人々もやがて三々五々興味を失って散っていく。
「さて……と」
 数が多かったらしいコンテナは、そのままそこに残されている。それを確認した子美は、人々の目を盗んで、こっそりそのうちのいくつかを、他のコンテナの山の中へと移動させた。


 一方で、影野 陽太邑垣 舞花の二人は、調査の為に港へと訪れていた。港には普段から取引に関わる種々の人達が訪れることもあってか、商会の名前を出して入口を通ってからは、特に見咎められる事も無く、荷下ろし場へとやってくることができた。
「それでは舞花、打ち合わせ通り、お願いします」
「ええ、陽太様」
 陽太の合図で、舞花が荷物を確認して回り始める。シースルーのスキルを使いながら荷物の中身に怪しい物が無いかをチェックするのだが、何分荷物が多い。いくら歴戦の特異者たる舞花とはいえ、すべての荷物を確認するまで気力が保つかどうか。
 ――しかし、ちょうどその時、子美からの情報が自警団が情報の共有に使っているネットワークへと届いた。怪しい荷物をしかじかの場所に隠した、と。

 情報を得た舞花は、陽太を伴い、情報のあった地点の荷物をシースルーで確認した。異世界のスキルであるので、本来の世界で使う時の様に自在にはいかないものの、隠された荷物の中身を確かめる分には十分だ。
「この荷物、どうやら中身は武器の様です。ただ、荷札が「インテリア」ですから、ただのよくできたイミテーションの可能性も、無くはないですわね……」
 舞花はサイコメトリーも使ってみたが、あいにくコンテナの表面からでは大した情報は得られなかった。
 だが、怪しい荷物に武器のようなものが入っている、というのは大きな情報だ。舞花は自警団のネットワークに、その情報を共有する。
 一方で、舞花のお陰で怪しい荷物を特定できた陽太は、その荷物についての情報を得るため、周囲の作業員達への聞き込みを開始した。 
「すみません、ちょっと、探している荷物が見つからなくて。それでお伺いしたいんですが、この辺りの荷物はどこから来てどこへ行く荷物ですか?」
 トークセンスⅡのスキルを使った陽太の聞き込みに、積み下ろしの作業をしていた男は手を止めて、「ツァンダからだよ」と答えてくれた。
「この辺りのは市内行きだな。だが、細かい行き先までは俺らにはわからねえや」
 悪いね、という男に礼を述べると、陽太は舞花の元に戻った。
「この辺りのは全て、市内に行く荷物のようです」
「それでしたら、どこへ行くのか、見届けさせて頂きましょう」
 舞花はそう言うと、機晶の金糸雀を取りだして、荷物の隙間に潜ませた。



 舞花が機晶の金糸雀を隠してから数時間が過ぎたころ、事務所に一本の電話が入った。
 港の事務所に電話番のアルバイトとして潜り込んでいた、留五郎のもう一人のパートナーである南柯 呉春がその電話を取る。と。
「テメェラッザケテンンカアア゛ア゛?」
 受話器越しに、酷い濁声の怒声が響いた。呉春がなんとかかんとか話を聞き出したところによると、つまり、受け取った荷物が予定より少なかった、どうしてくれるんじゃわれ、とのことだ。
「それは申し訳ございませんでした、すぐに対応します。はあ、取りに来られる。かしこまりました、荷物は探しておきますので、はい」
 激高している相手から何とか情報を聞き出した呉春は、事態を上司に報告する前に、自前の通信機を使って留五郎に連絡を取った。
 相手の話によれば、どうやら件の荷物というのは例の、子美がいくつか隠した荷物だったらしい。作戦通りだ。その荷物を出しておいてくれ、と留五郎たちに頼んでから、上司に話を通す。既に現場は探させています、と申し添えるのを忘れない。
 それからものの数十分で、柄の悪い男たちがのっしのっしと港へやってきた。
 留五郎と子美は手筈通り、子美が隠した二つの箱のうち一つだけを台車に乗せて、港の入口へと運んできた。呉春の方は、柄の悪い男との対面を渋る様子の上司から、面倒な仕事を買って出る体で書類を借りだし、男たちを出迎える。
 こちらが連絡を受けた荷物でございます、と呉春が男たちに荷物を差し出すが、男たちは「もう一つあるだろう」と凄んだ。
 しかし呉春は臆せず、ぴらり、と納品書を差し出す。
「納品済みの荷物は三箱と聞いていますので、足りないのは一箱。これで数あってるじゃないですか?」
 しれっと言う呉春に、しかし男たちは、もう一箱あるんだ、送り主から納品書を間違えたと連絡を受けている、と一歩も譲らない。
 一度呉春が上司へ確認を通してみたが、言う通りに探して差し上げろ、というお達し。
「やれやれ、しゃーないやね」
 留五郎は、どっこいしょ、と台車を反転させ、子美と共に探しに向かう。
 その二人の背中に男たちが、急げ、ちんたらするな、と怒声を浴びせる。
「はいはい、仰せのままに…………な」
 子美は、相手に向けた背中を萎縮したように丸めて見せながら、したり顔をする。
 そして、手近なところに用意しておいた二つ目の荷物に手を掛けると、留五郎と二人でその箱をむんずと持ち上げ、男たちへ向かって放り投げる!
 なっ、という表情を浮かべる男たちを尻目に、木製のコンテナは着地と共にガシャンと壊れ、中身がまろび出る――インテリア用とはとても思えない、薄汚れた銃や剣などがわらわらと。
「ありゃ、急ぎってことやったから、急いだんやけどなあ」
「おやおや、中身は”インテリア”のはずじゃがのう?」
 わざとらしい口調で留五郎と子美が言うのに、男たちは顔色を変える。が、ここでドンパチを起こすのは得策ではないと判断したのだろう、顔を真っ赤にしながらも作り笑いを浮かべ、「確かにイミテーションを発注したのだが、どこかで入れ違ったのだろう、その怪しい荷物は返送してくれ」と、なんとか言い切って、引き下がっていった。



 ――という一連の騒ぎを、舞花と陽太は機晶の金糸雀越しに確認していた。
 港湾事務局のお偉方がどのような判断をしたのかまでは分からなかったが、それでも見つかった武器類は、返送のためということで別のコンテナに詰められた。大きく「返送」という荷札が貼り付けられたそのコンテナを、舞花たちが引き続き、根気強く見張った結果。
 深夜、港に覆面で顔を隠した複数の人影が侵入してきた。かと思うと、件のコンテナを台車に乗せて、そのまま持ち去る。
 今は取引相手を突き止めるのが先決と、舞花が金糸雀に後を追わせると、人影は裏通りを抜けて一件の店へと入っていった。
 その店が取引に関わっていることは間違いないだろう。舞花と陽太は、その情報を自警団の面々へと連絡するのだった。


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