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<スカイドレイク外伝>元・大カーンの多忙な外遊録

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<スカイドレイク外伝>元・大カーンの多忙な外遊録
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~ 再び、フワーリズムにて ~

 バアトルは主島ボルハン島から西へと旅し、至るところで諸民族の解放の英断を果たした人物としての歓迎と、それ以上のかつての抑圧者への憎悪の感情を向けられた。
 それでも彼がその歩みを止めなかったのは……それが良きにせよ悪しきにせよ、自らの決断の結果を彼自身の目で見るという、支配者としての責務を果たすためであったに違いない。

「力と意志ある者が勝利する。それを間違いだと思ったことはない」
 バアトルは五島連合より訪れた記者の質問に、淀みなくそう言いきった。
 そして、同時にこうもつけ加えてみせる。
「ただ……あなた方の力と意志は、我らを凌ぐものだった。私はそのことに敬意を表し、ゆえにこうして野に下るのだ」
 敗北し、国を失って、今なお彼は覇王であった。そうでなければハン国がさほどの混乱もなく連邦制へと移行できることはなかっただろうし、諸外国もそれを以って手打ちとするだけでは収まらなかっただろう。
 だが、その態度が彼に奪われた者たちにとっても納得できるものであったかは、また別の問題だ。国際政治をある程度以上理解する者であれば、毅然と敗北を認める態度こそ紛争の軟着陸に重要だと割りきれただろう。ただ同じことを、大切なものを、家族を失った者たちに求めるのは酷というほかはない。
 ――とはいえ。

「同じサラーム戦線として肩を並べて戦った同志らが、どうしてこのような中途半端な幕引きで満足してみせるのか! ジャラールッディーン殿下を亡くしたはずのダーウード陛下も、結局は我らの苦しみなど理解してはおられなかったのだ……その陛下、いやダーウードの意向とやらを汲んで敵の撤退と賠償ごとき満足する現知事(アミール)も、今となってはオルド人どもと同罪である! 我らの指導者として相応しくなどない!
 諸君、もはや他のいかなる島の者らも信頼には足らぬであろう。ゆえに我ら自身こそ、今日は大悪人バアトルの不用意に我らが島に踏みいった罪を裁き、明日は恥ずかしげもなくその罪を黙認せし現政府に天誅を下す者である!
 今こそ、フワーリズム人のためのフワーリズム島を奪還せん! サラーム戦線……否、新生サラーム戦線の戦いは、その日まで終わることはない!!」

 そこまで過激な演説が行なわれているともなれば、さしもの弥久 ウォークスといえども、黙認などしてはいられなかった。
「すっかり正義のテロリスト気取りの連中め。テロなんてされたら、折角うちのラーニャがアイユーブに宛てて書いた手紙や仕送りやお歳暮とかが届かなくなるじゃないか!」
「どうやら、お灸を据えてあげないといけなさそうですね……元はアイユーブさんに買われた奴隷だったあの子にだって、感謝すべきことと切りわけることくらいはできていますのに」
 弥久 佳宵の抱く哀しみも、古の魔力となって全身を覆う。さあ、ゆきましょうウォークスさん。あれほど強大だったオルド・ハン国が別の力に敗れたように、力で通さんとする意志は力によって折れるものだと知っていただきましょう!

「うおおおお! 力による支配を求める者がいるのはどこだ!!」
 上空から急降下してきた怪人魚――というか上半身だけ強化服で肥大化しているのに下から出ている尻尾だけがそのままのせいで怪人カブトガニと形容するほうが近いかもしれない――は、重力加速度を乗せた両手からのビームを新生サラーム戦線の集会のすぐ脇へとぶちかましていった。
「なんだアレは!?」
「もしや……以前も現れたという伝説の怪人魚!?」
「馬鹿言うな! あんなのが人魚のわけがないだろ!!」
 当然のように大混乱に陥る新生サラーム戦線は、先ほどまでの威勢はどこへやら、ただただ逃げ惑うばかり。幾らかのメンバーが我に返って大戦時に得た後も使いつづけているギア・ガンを撃ちはするものの、そんな散発的な反撃では到底倒せそうにない。
「この程度の敵に怯むな同志たち! かのバアトルを打倒せんとする我らは、斯様な障害など容易く退けねばならない!」
 演説するリーダーの一喝により、ようやく統制をとり戻した新生サラーム戦線の兵士たち。
「撃てーっ!」
 照準は今度こそウォークスを捕捉して、一喝とともに一斉に放たれる銃弾は……しかし、標的に届くより前にかき消える。

「本気を出したバアトルさんと戦っていたら、今のが銃弾ではなく皆さん相手に向けられるのに近いことが起こってもおかしくはなかったかもしれませんよ?」
 パーソナルスカイシップ上に仁王立ちになって辺りを見おろしていた佳宵の纏う古の魔力は、全ての銃弾を巻きこんで蒸発させたマナ嵐を今なお活性化させつづけていた。もしも彼女の気まぐれにより、あの嵐が自分たちの上へと降りかかったならば……それを想像した兵士たちには、もう、リーダーの言葉も聞こえてはいない。
 ただ……彼らの想像どおりの未来は起こらなかった。マナ嵐を維持する佳宵の怒りが、彼女の足元に触れた暖かな感覚により霧散したからだ。
「こんなところに……子猫!? ……いいえ、あなたラーニャよね?」
 佳宵が何事かと足元に目を遣ったなら、ウォークスと佳宵の相談を耳に挟んでしまって、心配で仕方なくなって子猫の姿になってこっそりスカイシップに潜りこんだ弥久 ラーニャが、ごめんなさい、と言いたげに潤んだ瞳を佳宵に向けていた。
「マナ嵐で驚かせてしまったんですね……大丈夫ですよ、あなたに怒っているわけではありませんから」
 しゃがみ込んだ佳宵がスカイシップ上で何をしていたのかは新生サラーム戦線たちからは全く見えず、ただ、彼女の怒りが突然鎮まったことだけは見てとれている。

 にもかかわらず新生サラーム戦線は、もう、すっかり毒気を抜かれてしまった。リーダーが何を言おうとも、少なくともほとぼりが冷めるまでの間は、彼らが二度と武器を取ることはないだろう――……。



「あれは一体、何者だったんだ……? オルドの連中だとも思えない。飛空船に乗っていたなら五島連合なのかもしれないが、あれは機械仕掛けと言うよりは魔法……そうか。もしやあれは、星導技術を導入したワーハ政府の差し金か――」
「――そんなこと、どうでもいいではありませんか」
 どうしても着いてこようとしない配下たちを見限って、物陰に身を潜めたリーダーの首に。いつの間にか、ぎらつく刃が当てられていた。
「何者だ――」
 問えば、冷たい声が返ってくる。
「――私は通りすがりの、幼女が好きで少女を愛するだけの人間ですよ。まあ、基本は脳みそが戦闘特化したコミュ障なので、“交渉事”となるとこういう形でしかできませんけどね」
「一体、俺に何が望みだ」
「ようやく辛うじて形になった平和を、罪なき血まで流させて台無しにしないでほしいだけです。意味は……お解りくださいますね?」
 いかに水野 愛須といえども、誰かを傷つけたくて刀を振るっているわけでもなかった。ただ、その刃を向けねばまだ見ぬどこかの無辜の美少女が傷つくならば、決してそれを厭わない――そういえば、とあたかも世間話でもするかのように、愛須はリーダーにこんな話をしてみせた。
「長いこと忘れてましたが、私も『超巨大ジン殺し』と呼ばれる女でして。まあ、この国ではその程度珍しくも何ともないかもしれませんがね」
 もしも折角手に入れた平和をあなた自身が乱すことになるのなら、かつてジンに向けられた雷鳴が、今度はあなた方に響きわたることでしょう。そう囁いてリーダーを解放してやった愛須は……道端で二人が何をしていたのかも解らずこちらを見つめていた幼女に手を振りながら、上機嫌にこの場を去っていた。
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