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<スカイドレイク外伝>元・大カーンの多忙な外遊録

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<スカイドレイク外伝>元・大カーンの多忙な外遊録
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~ 多忙な彼女 ~

 ただ……戻ってくる日常もあった一方で、フワーリズム生まれのはずの女性マルヤムの姿は、彼女の生まれ故郷には見あたらなかった。優・コーデュロイの未来視の力が、様変わりした故郷の姿に痛むマルヤムの心を幻視する。でも、だからって彼女が現実に敗れ、勇気を失ったのではないことも知る。何故なら彼女は苦しみ以上に、満ち足りた使命感に対する歓びに溢れていたようだったから。

 ワーハ宮殿は君主(シャー)ダーウード・スライマーン・スルターンの居城であり、後宮であり、地方豪族らの子弟が生活する場でもあるのと同時、迎賓館であり、役所でもある巨大な建造物だ。かつてこの宮殿の外交機能といえばフワーリズム島をはじめとした領内各島間の利害調整を主に行なうものであったが、世界がスカイドレイク連盟という形でひとつになった――そして最大国家たるオルド連邦の発言力がその負い目のため国家規模に見合う大きさになってはおらず、必然として次点のワハート・ジャディーダ国がメインプレイヤーとして戦後世界を主導する役割を持つようになった今、ワーハ宮殿外交部は西方の五島連合から極東の新空島までの情報収集を一手にひき受ける、巨大な組織となることを要求された。
 いかに商売事には長けたワハート・ジャディーダ国といえども、突然これまでの版図の数倍もの、文化も技術水準も全く異なる国々との折衝が必要ともなると、多くの苦労が偲ばれた。宮殿は交易商をはじめとした民間の識者を広く求めて……そこに応募した中に、優とともにフワーリズム島の対ハン国レジスタンス組織サラーム戦線新龍のレジスタンス組織朱門を繋いでいた経歴を提げた、辛い思い出を想起させてくる故郷を離れてかつ故郷のために働ける場を求めるマルヤムも含まれていた。

 彼女が外交部員として忙しい毎日を送っていたことは、優にもよく視えていた。古希を迎え、後進に道を譲ることを考えはじめた老シャーが、何やら最後の心残りを解決しようと各方面に働きかけていたようだったからだ。
 だから……彼女に余裕ができるまで、優とルージュ・コーデュロイはしばしデートの時間だ。
「そういえば以前このバザールに来たときは、必要なものを探すばかりでゆっくりと見てまわることはしなかったわね」
「そうですね……こうして猥雑な通りで砂埃の香を嗅ぐことも、並ぶ露店の切れ目から覗くオアシスの輝きに目を細めることも、初めてするような気がします」
「猥雑で悪かったねぇそこの美人さんお二人!」
 足元からしゃがれ声が聞こえてふり向けば、口では悪態を吐きながら目尻は微笑ましそうに垂れ下がる老婆が、真っ赤になるまで熟れたマンゴーを2つ、こちらにさし出していた。
「あら、商売上手な方もいるものね、おいくらかしら?」
 いくらルージュが貴族生まれだからといっても、こんな場所ではおだてられても泣き落とされても、兎に角限界まで値切るものだということくらいは知っている。でも……それは解ったうえで、敢えて言い値そのままで買い上げてみる。
「その代わり、この国に伝わるおとぎ話や昔話を幾つか教えてくれないかしら? 私、興味があって集めてるのよ」



 こうして老婆が語った昔話のひとつ。それがこの世界で星霊玉と呼ばれる、石龍の心臓とされる強力な星霊石にまつわる物語だった。

 全ては正直者のウマルサブルという2人の兄弟が、一族とともにワハート・ジャディーダ国西部のヌーバ島を追われたことから始まった。当時のヌーバは悪徳な知事(アミール)によって支配されており、兄弟たちは彼の欲深い手から逃れるだけでも何夜もの物語になるほどの冒険をくり広げたという。
 仕方なく、彼らは不毛の小石龍島群の広がる、未開の南方へと逃げのびた。知事はそれを知ってあざ笑う……逃げ道を塞いでいたのは他ならぬ知事だ。南方も本来なら塞いであったはずではあるのだが、警戒の目が緩かったところを突破されてしまった――まあ、問題なんてあるまい。油断したのは、逃げても野垂れ死ぬ運命しかない道だったからなのだから。

 ところが、天は正直者に味方した。碌な星霊力もない島々の上で一族が身を寄せあっていたその夜に、彼らの上空で2つの小無人石龍島が空中衝突を起こして砕け散ったのだ。
 石龍島は高純度の星霊石の塊なのだから、必然、彼らの上に無数の星霊石が降りそそぐ。掘削のための道具もなく、暖を取ることすらできなかった彼らの手元に、強固な石龍島表面を削った内側にしか存在しないはずの火の星霊石が無数に落ちてくる。
 彼らは文字通り降って湧いたこの宝物に感謝して、その夜は久しぶりに暖を取って寝た。そして翌朝、島に落ちてきた星霊石を手に入るだけ拾いあつめると更に南下した。知事が、決して追っ手を出せぬ場所に。永遠の新天地を得られる場所に……。



 老婆の話は歴史の中でそれなりの脚色が加えられてはいたのだろうが、一族が2つの星霊玉を手に入れて、遥か南方の隣りあう2つの石龍島に仲良く国を興したことばかりは真実らしかった。ウマルがイファト、サブルがアダル――その後かの知事は失脚し、両国も再びワハート・ジャディーダ国の傘下に入るのではあるが、兄弟が永遠の両国の友好の証として大切にした砕けた石龍島の心臓部、『アダルの王』『イファトの女王』という星霊玉の行方を巡り、2つの島は長らく激しい紛争状態にあるという。
 人の哀しい業にルージュが溜息を吐こうとしたその時……不意に、優が姿を消した。次の瞬間聞こえてくるのはルージュも聞きおぼえのあった声。
「ひゃあ! 優さん……優さんではありませんか!」

 新龍担当だったはずなのに、その双子島まわりで駆り出されて多忙を強いられた、不運なマルヤム。
 ようやく得られた久々の休暇はどうやら……帝政が復権しても相変わらずごちゃごちゃしている新龍の現状と、そちらの整理だけでも忙しいのに余計な仕事を増やしてくれた上役とへの愚痴を、優とルージュに零すことばかりで潰されそうだ。
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