~ ただいま ~
久々にニュートラファルガー空港に降り立ったその時から、
バルター・アイゼンベルトの眼差しは常にひとつの場所へと向けられていた。
空港に停泊したばかりの飛空船を手早く台車に乗せて、あれよという間に持ってゆく手際。慌ただしい怒号があちこちで響き、手早く飛空船を分解整備する。
その中で一際厳しい声を上げていたドワーフじみた小柄な髭親父が――ふと、こちらに視線を遣った。そしてその瞳を大きく見開いて、驚いたように、懐かしむようにこちらに手を振っている。
「どうした! ……見た目はさほど変わらんが、随分と立派になった様子だな」
ギブスン親方が熱くなった目頭を拭うと、顔に黒ずんだ油汚れが付着した。だが、親方は構わない。彼が広げる両腕の中に入って、自らも同じ汚れを塗りつけられることを、バルターのほうも構わない。
思えば長い旅をすることになった。
ワハート・ジャディーダではジンの魔道具技師の真似事をして。その結果、紆余曲折あって伝説の存在のジンの王イフリートと出会い。
あの時失くした手帳には、もっとたくさんのことが書かれていたはずだ。だが、そんなものがなくたって、バルターの心にはその全てが刻みこまれている……そしてそれらの原点が、今、彼の前にいる親方だ。
「どうです、ワハート・ジャディーダ産のナツメヤシ酒でも。ああ――あの国は菓子も盛んなようだった。親方さえよければそちらのほうも」
「ははぁ、そいつはちょうどいい。ちょうどウチのやんちゃ坊主が、こさえたガキと一緒に戻ってきたとこだ……地上教団の技術に、揚力飛行機に。あの野郎、すっかり新しい技術を俺に教える立場になったつもりでいやがる!
ま、つもる話はこいつを整備し終わってからだな。手伝いな、元・若造! 今のお前の腕を俺に見せてみろ――」
世界はこれから変わってゆくし、変わらざるを得ないものだってある。
それでも決して変わらないことは――この雲の上の世界にも、人生を謳歌する者たちがいるということである。