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<スカイドレイク外伝>元・大カーンの多忙な外遊録

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<スカイドレイク外伝>元・大カーンの多忙な外遊録
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~ ノイエスアイゼンの落日 ~

 世界は、確かに良くなってゆくことだろう。であれば大規模な変化が生んだ軋轢も、自ずと収まるところに収まってゆくはずだ……。

 ……にもかかわらず、“収まる”からこそ生まれる不満というものだってあるのだと砂原 秋良は知った。
「確か、この辺りが彼らの母島だということでしたね」
 久々の観光がてらに訪れたスカイドレイクで、彼女の知る島はノイエスアイゼンくらいだ。
 が、その島が空賊に襲われている。かつてはノイエスアイゼン島には強固なマナバリアが張られてたというが……彼女が初めてこの世界に訪れた時点で、すでにこの島からは失われて久しくなっている。

 市街地を空賊の砲撃から死守するため満足な戦闘行動を行なえぬ駆逐艦を助けるために、ふわりと舞いおりて空賊船の砲台を一刀両断して無力化した乱入者、秋良へと、駆逐艦の乗員たちは皆で甲板に整列すると、一斉に敬礼して感謝の意を表した。謝礼代わりに彼らが提示したものは……島までの送迎と島内の案内だ。あまり付きまとわれるのも困りものだが、見知らぬ島で案内役がいるに越したことはない。
「もっとも、軍事施設と豚とジャガイモとビールばかりの我が島は、フラウには退屈なものかもしれませんがね」
 案内役の、いかにもノイエスアイゼン軍人らしい金髪碧眼の無愛想な青年将校は、どうやらそれを冗句として言ったようだった。まあ……実際に見た限りでも観光地と呼べる観光地もほとんどなく、文化らしい文化はクナイペでビールを一杯引っかける瞬間に凝縮されていると言えそうだったのは確かではあるのだが。

 例外は、皇帝フリードリヒⅢ世の居城にして行政府たるノイエスアイゼン城の片隅に佇む慰霊碑であった。
 軍務の最中に殉職した軍人らを鎮魂するこの闇の星霊石で作られた石碑の前には、ちらほらと遺族らの姿も見える。思わず青年の口をついて出る言葉。
「オルド・ハン国との会戦は蓋を開ければ大勝利ではあったが、それでも誰もが故郷に凱旋できたわけではなかった。かの『光翼の守護天使』がいなければ、我が国自慢の空中戦艦ビスマルクからも多くの犠牲が出ていたかもしれない……おっと、案内中に失礼。小官の一番上の兄がその船に搭乗しておりましたもので」
 自分こそがその『守護天使』だとは、秋良は敢えて名乗らなかった。アバターが違えば当事者が見ても判らなかっただろうし、何より流れでそうなっただけの戦果を誇示しても意味はない。
 彼女の瞳は、兄が助かったというのにどこか寂しそうだった青年の姿をただ映している。彼が誇る祖国の空中戦艦も、戦後の平和とオルド人傭兵の増加による空賊や野生生物への対策拠点としての価値の低下で、次第に役割を終えつつあった……それに対して秋良ができることと言えば、この旅の最後、空を飛んで去る時に、瞬間転移で忽然と消えたかのように見せかけて、この国の行く末がどうであれ、何か大いなる力の持ち主が見まもってくれているかのように演出するくらいだ。



 島の全域を守るマナバリアを手放して、大艦巨砲主義も時代遅れになりつつあることが露呈したノイエスアイゼン軍は、代わりに島際的地位の向上と島民負担軽減という得がたいものを得ていたにもかかわらず、閉塞感に包まれていた。
 そのことを軍部も手をこまねいて見ていたわけでなく、あの手この手で軍の価値を維持しようと躍起になっている。軍事国家における軍の価値低下とは、自ずと政情不安、ひいては流血を意味するからだ。

 人々の生活は確かに豊かになった。掛け値なく“豚とジャガイモとビールばかり”だった国の食卓は変わり、他島産の野菜やスカイフィッシュなどのジビエ料理も並ぶようになった。
 にもかかわらず恩恵とは裏腹に、人々の『憧れ』が失われつつある。否、真実は、“失われた”ではなく“分散した”が正しいのかもしれない……けれどもノイエスアイゼン軍と政府には――そして他ならぬ人々自身も――その変化に戸惑い、島内の誰もが共有できる『憧れ』を求めている最中だ。
 大新龍帝国への軍事協力も、いわばその『憧れ』を創生するための試みであった。我が国は遥か極東の大国にさえ求められる偉大な国なのだ、我が国から失われたように見える『憧れ』は、実際には今も世界が渇望するほど健在であるのだぞ、と。
 その事実は確かに国民を熱狂させ、軟着陸のための猶予を伸ばしてはいた。だが、二度と使うことのできないカンフル剤だ。身近な何かが必要だ。力を持てあました者たちが力を揮い、そうでない者たちもそのことを応援できる出来事が……。
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