~ 宝石の輝き ~
シテの目抜き通りの一角に、向かいあう美女の看板は提げられていた。
決して大きな店構えではないものの、濃厚な夜闇色に統一された部屋のショーケースに並ぶのは大粒に輝くジュエル。遠く
ワハート・ジャディーダの大宝石商が厳選し太鼓判を押した、身につけてもよし、魔術に用いてもよしの一級の品々だ。
ドアベルが鳴る。夜色のドレスの女性は芳醇な香を漂わせ、出迎えた店員に会釈した。いい店ね。義理だ何だを脇に置いても、思わず見惚れて目移りしてしまう。
「『ライラ・ジャミーラ』。素敵な店にしてくれたのね──」
女性はうっとりと目を細め。それからとびきりの一品を選ぶと、会計の際に店のオーナーに宛てて、時間ができたら教えて頂戴との言伝てを残し――。
「――乾杯」
合わさるグラスの音。
宵街 美夜から見た
ジェシーと
ナーディヤは、見ないうちに垢抜けた淑女になっていた。
「そうなのよお姉様!
マスウードったらナーディヤばかりか私にまで礼儀作法とシテ語の家庭教師をつけて……」
「美夜にまた逢えたのが余程嬉しいのねジェシー。昔の口調に戻っているわ? ああ、また旦那に家庭教師の手配をお願いしないと!」
遊覧飛空船の窓を過ぎさる夜景。今も仲のよいふたりを眺めて思う――きっと私は幸せ者なのね。だから、今気にかかるのは……。
「ジェシー、貴女も今、幸せなのかしら?」
「あら美夜。この子、この前どこぞの実業家のお坊ちゃんから熱烈な恋文を貰っていたのよ」
ナーディヤがアシストするとジェシーは思わず耳の先を真っ赤に変えて、誤魔化すにしては下手な話題替えを試みた。
「そ、そんなことよりも! お姉様が聞きたがっていたここ最近の世界情勢の話を――……」