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■手紙とは


 快晴の昼、東オデッサ。

 悪戯屋の説明を聞き終えた後。
「えーと、西トリス出張中に分断に巻き込まれて帰れなくなったと……名前はフョードル、当時24歳……届け先は妻のユリア、当時21歳」
 アウスラーダ・セルンが貰った資料を確認する横で、
「それで、届ける物は離婚届と結婚指輪と手紙ね……って、離・婚・届! どうしよう、これ、修羅場になる予感しかしないよ、ラーダ」
 届け物を確認するサーエルン・セルンは、離婚届の存在に目が点となり驚いたと思ったら、弱った声を上げる。
「うぅ、なんでこんなの選んじゃったんだろう……」
 人と話すのがちょっと苦手な事もあってか尚更である。
「任務なんだから駄々こねないの、エルン。ほら、行くよ」
 アウスラーダに急かされ、
「……うん」
 サーエルンは複雑な顔のまま荷物を大事に抱えて、喫茶店『ホーゲン』を出た。

「貰った資料に記載されているのは、前に住んでいた住所だね」
 サーエルンが住所を確認しながら歩く。
「分断されて随分経っていて、引っ越している可能性もあるから確認のために役所の記録を見に行こう」
 アウスラーダの言葉を受け役所へ行き、住所の確認を行う。
 結果は、
「貰った資料と同じ住所だよ、エルン」
 住所に変わり無し。
「じゃぁ、奥さん、旦那さんを待ってるのかもしれないねぇ。二人の物だった家にずっと一人で、寂しいだろうねぇ……そんな所に離婚届渡しに行くのかぁ……」
 サーエルンは、深い溜息と共に手にある離婚届に目を落とす。待っているだろう宛先人の気持ちを想像し、ますます気分が重くなってしまう。
「多分もういいお歳なんだし、無関係の子供を夫婦の事情に巻き込まない分別はあるでしょ。分別のない人だったら逃げればいいだけだよ」
 励ますつもりで言葉を掛けるアウスラーダは、
「ん、ちょっと待って、エルン。子供が二人いるよ。二人とも生まれたのが壁ができた翌年……双子?」
 ふと戸籍に目がとまった。
「それって……」
 手にある離婚届と記録を見比べサーエルンが驚いた顔で何か言う前に、
「多分、これ旦那さん、子供ができたの知らないまま離ればなれになったパターンだ。どっちかというと、可哀想なの旦那さんのほうだねぇ」
 アウスラーダが先回りし、旦那さんの事を思い、悲し気な顔に。
「……」
 アウスラーダと同じ気持ちであるサーエルンは、こみ上げる思いと共に荷物を見つめた。
 ふと、
「ねぇエルン、届けるついでに、私達から申し出てみようか、いつになるかは分からないけど、ご主人にあなたとお子さん達の写真を届けましょうかって」
 アウスラーダは優しい提案を思いつき、ぽんと肩を置いた。資料には旦那の願いにより現在の住所の記載がされていなかったのだ。
「……ラーダ」
 置かれた手に触れ、サーエルンは賛成と言うように頷いた。
「離婚届持ってきてその台詞はないような気もするけど、一方通行なだけの手紙なんて、ただの宣言と同じで誰の心も救わないから」
 アウスラーダは軽く肩を竦め、口元を歪めた。
「うん、手紙はお互いやりとりして初めて手紙になるんだもんね」
 力強く頷きサーエルンは、手紙を一瞥した。プライバシーの事もあり中身は確認してはいないが、離婚届を見るからに中身はだいたい想像出来る。喜べるものではないだろうと。
 こうして役所で確認し終えた二人は、目的の住所を訪れ、家のドアをノックした。
 現れた妻と思われる女性に離婚届と結婚指輪と手紙を手渡した。
 妻は離婚届と結婚指輪に驚き、手紙を読むやいなや目に涙を滲ませた。
『一生会えない可能性を考えると、これ以上君を独りぼっちで待たせ続ける事はできないと考えた。もっと早く決断できなくて済まない。壁が消えたら、あるいは同じ世界にまた生まれることができたら、また出会って結婚しよう』
 愛情あふれる筆致で妻への思いが綴られていた。
「……」
 サーエルンとアウスラーダは女性が落ち着くまで待った。手紙を通してだが夫婦のやり取りの邪魔はしたくないから。
 落ち着いた女性は手紙の内容を自分だけの胸の奥にとどめ置き、
「もし、よかったら……」
 アウスラーダが例の提案を申し出た。
 女性は急いで一枚の写真を二人に託した。

 配達を終えた後。
「……赤ちゃん、可愛いねぇ」
「……夫婦で考えてた名前を双子に付けたとか言ってたねぇ」
 サーエルンとアウスラーダは女性に託された写真を見ながら歩いていた。生まれたばかりの双子と女性が写っている。写真の裏には女性に聞いた通り双子の名前が書かれてある。
「本当なら旦那さんもこの写真に写っていたかもしれないんだよねぇ」
「双子の誕生を喜んで、一緒に成長も見守ったりして」
 サーエルンとアウスラーダは、写真を通して一組の夫婦が失った幸せの時間を容易く想像し、胸に思いを詰まらせた。

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