■友達と
快晴の朝、ガイア、メトロポリスの第2層。
「俺と違って幸せになれるからと思って決別して2年か……(と言っても、ゲーム上じゃまだ付き合いあるし、はっきりしねーな俺)」
待ち合わせ場所に一番乗りした
イクリマ・オーは、決別の日、それから積み重ねた日々が脳裏に浮かび、重い溜息。
その時、
「来たのか……」
背後から聞き覚えのある声。心なしか重く含みのある言葉尻。
「……古城」
振り向いたイクリマは、物言いたげな顔で見上げて来る
古城 偲に向かって、
「皆まで言うな~。あん時は心配かけて悪かったしー」
溜息と共に弁解を言った。偲が訴える内容は分かっているから。
「……それは……」
偲が、ずっと一緒に冒険しようと誓いながら消えたイクリマに対する罪悪感を口にしようとする。
だが、言葉にはならなかった。
「……見事に統一感の無い集まりねぇ」
二人を誘った
ナイナ・シャシュカが現れ、呆れ混じりで割って入ってきたのだ。
途端に、二人の間に流れる張り詰めた空気が和らぐ。
「そ、そうかな。これでもガイアらしいのを選んだんだけどな」
偲は自身の姿を見下ろす。紺のベストとスラックス、ドレスシャツにリボンタイというお洒落さんだ。
「俺はいつでもこんな格好よーん」
イクリマは何とも軽い調子で返した。通気性のよいオリエンタル柄の布を使った民族調スタイルだ。
「それじゃ、出発進行♪」
ナイナは日傘をくるくる回し、オレンジ色のワンピースの裾を翻しながら軽やかな足取りで歩き出した。
「出発って、どこに?」
「行く当てでもあるのかー?」
偲とイクリマはただ呼び出されただけで何も聞かされてなかったのか、離れていく背中に行先を訊ねた。
「今日は新作の秋服を見て、カフェでお茶をしまぁす」
ナイナは立ち止まり、くるりと二人に振り返り、にこっと愛らしい企みの笑顔。
「♪♪」
二人に伝え終えたナイナは、鼻歌を口ずさみながら歩き出した。
「ナイナ、今日は付き合うよ」
「しゃーないなー」
偲とイクリマは、続いた。
「わぁ、このワンピース、色が素敵♪」
ナイナは、あちこちの店を覗いては好みの服を物色する。
「このドレス、リボンが沢山で私好みかも」
リボンが大好きなためか、目をとめる服はどれもこれも可愛らしい物ばかり。
「ナイナ、楽しそうだね」
ナイナの楽しそうな様子に偲は、イクリマと話していた時とは違い口元が優しい。
「だって、ガイア風の衣装はまだ持ってないから。色々見るけど、結局ワンピースとかドレスが気になっちゃう。古城ちゃんはどう思う?」
ナイナは肩を竦めながら返した。今も手に取っているのは、愛らしいワンピースだ。
「うーん、ナイナに似合いそうな服かぁ」
ナイナに聞かれた偲は、何とか応じようと物色を始めた。
だが、偲が気になる服は、
「カッコイイ方に目移りしちゃうから、かわいい物を選ぶのは難しいな」
ナイナが目をとめる物とは真逆の物ばかり。
「こういうのはどうかな」
偲がやっと良さげなドレスを選んだ所に、
「いやいや、もっと原色入れようぜー。柄物に柄物足さね?」
ファッションが分からないイクリマが、バリバリの原色の衣装や柄物と柄物を持ってきて、話に加わって来た。
「趣味じゃないから却下」
ナイナは、容赦なくイクリマのアドバイスをばっさり。
「古城ちゃんの選んでくれたドレス、素敵ねぇ。どう?」
ナイナは偲が選んだドレスを受け取り、まじまじと見てから自分の体に重ねて感想を求める。
「うん、似合ってるよ」
偲は手を叩いて感想を伝えてから、
「このワンピースはどうかな?」
近くにあったワンピースに目をとめて渡した。
「わぁ、それも可愛い♪」
受け取ったナイナは、これまたきゃぁきゃぁと喜んだ。
「古城が選んだそれがいいって言うなら、これもアリじゃね?」
イクリマが新たに選んだ服を候補に出すも、
「いやいや、ナイナの趣味じゃないよ」
偲が思わずダメ出しをする。
そんな二人のやり取りを見たナイナは、
「喧嘩してた訳じゃないのねぇ? よかったぁ」
安堵したような声を上げた。
途端、
「……喧嘩」
「俺達が?」
偲はどきっとして、イクリマは苦々しい顔になった。
どうやら図星をつかれたらしい偲とイクリマは思わず黙し、
「……(最近メールでやりとりしてばかりだったし。イクリマは……避けられた訳が掴めなくて、ゲームではうまく連携できるのに会うのを遠慮していたし)」
「……(俺が勝手に古城と共に戦うのをやめただけで……)」
ちらりと互いを盗み見しながら、これまでの事が頭によぎる。
「……(二人とも、申し訳なさそうにしてるから、一押しすれば買ってもらえそうねぇ……)」
ナイナは二人の顔色から何を思ったのか、
「去年は二人一緒に会えなくて寂しかったなぁ……」
ちらりと寂しそうな顔で訴え始めた。思惑はあれど、寂しいという気持ちは本当だ。
「あぁ、寂しい思いをさせてごめん。気に入ったワンピースをプレゼントするよ」
「はー、ナイナはさー、普段俺をおちょくったり家具動かす時だけ呼ぶくせに、そう言うのずるくねー? 妹の事思い出すわー」
ナイナの一押しにやられた偲とイクリマはころりといった。
「本当に、いいの?」
ナイナは感激とばかりにぱぁ、といい顔だ。
「ボーナス出たし、大丈夫!」
偲はすでにワンピースを買う気満々だ。
「本当に」
嬉しそうなナイナ。
「あー、これ以上はかなわねぇから、アクセや靴なら買ってやってもいーぜー!」
堪らないとイクリマも何やら買う気満々。
すでに目を付けていたのか、
「じゃぁ、この靴がいいかも」
ナイナは手際よく愛らしい靴を手に取った。
その靴についた値札を見たイクリマは、
「は? 靴が服くらいの値段なんだが??」
とんでもない値段にびっくりし、声が跳ね上がった。
「何を言ってるの? 当然の値段じゃない。質がいいんだから」
ナイナは、至極当然とばかりの調子で返した。
「はぁあ、当然ねー、RWOしかしてねーと感覚わかんなくなるなー」
イクリマは、唯々溜息を吐くばかり。言ったからには買うしかない。
「ありがとう♪」
ナイナは嬉しそうな笑顔で二人に言った。
この後、ワンピースと靴の勘定を終えてから店を出た。
店を出てすぐ。
「それじゃぁ、次は話題のお店のアフタヌーンティーを楽しみましょう? 次は私が出すわぁ」
ナイナは、笑顔で次の目的であるカフェに誘った後、
「ねぇ、古城ちゃん、イクリマ」
急に笑顔を引っ込めて二人の顔を見上げ、何やら言いたげな雰囲気。
「ん?」
「どした?」
察した偲とイクリマが聞き返すと
「私の人生の転機はあなた達がもたらしたけど、結局それぞれ自分の好きな事しかしないのよねぇ。私はそれでいいと思うわよぉ」
ナイナは出会った当時の事を脳裏に浮かべ、日傘をくるくるしながら歩き出した。
「ああ、家族が増えても、道が分かれても、友達だよね」
「というか、腐れ縁って奴なのかも知れねーよなー……何度も人間関係捨ててきたけどさ」
偲とイクリマが伝える誤魔化しの無い気持ちを聞いたナイナは、
「私、二人とも大好きよ」
立ち止まり、心底の思いを言葉にしたと思ったら、
「だから、たまには私をかまいなさぁーい。一年に一回は私と遊ぶことよぉ」
人差し指を立てて、お茶目たっぷりにおねだりをした。