■遠い世界に思いを馳せ
快晴の夜を演出されたワールドホライゾン。
「アリス、今日は誘ってくれてありがとう……皆楽しそうだな」
「どういたしまして……そろそろ花火が上がるよ」
青井 竜一と
アリス・カニンガムは、夏祭りの花火が良く見える場所にいた。
アリスの言葉が終わってすぐに、
「わぁあ、綺麗ね」
「あぁ、綺麗だな」
花火が次々と打ち上がり夜空を輝かせ、アリスと竜一を楽しませる。
「…………」
二人が両の瞳に花火を映し心に思うは、遠い世界の事。
「……平行世界……アレイダでも、俺たちは一緒だったな」
竜一は、感慨深く当時活躍した専門家[スペシャリスト]のアバター姿である自身の姿を見下ろした。
「えぇ、あなたは腹黒政治家。あたしはあなたの個人的な護衛だった」
同じく当時活動した機甲士[サイバネティクス]の姿であるアリスは、クスリと思い出し笑い。
「戦う力欲しさに、身体の多くを機械化しちゃった女の子で……だけど、香水の使い方だって覚えて……」
本日のアリスは、魔法少女の蒼裳と魔女の花飾りとラグジュアリーチョーカーと香水で大人のお洒落をしている。
「……」
竜一とアリスは、胸に迫る過去に引き寄せられ、自然と寄り添う。
「……異端者として地球圏から辺境に送られて怒りや無念を抱く人間同士の、傷を舐めあうような関係だった。どこか苦みのある絆だったけどな」
竜一は、口元に思いと苦みを浮かべながら言った。
「うん。でも、最初の切っ掛けはどうあれ、絆は絆だったわ。あっちの世界のあたしにとっては、それは救いだったわよ」
アリスはそっと胸に手を当てながら、あっちの世界の自分の思いを少しでも正しく伝えようとする。
「……救い、か」
竜一が向けられた言葉と思いを反芻すると、
「そうよ。何より、竜一は移民の代表の政治家の一人として、一国の国務長官にまでなったんだしね。結果オーライよ」
アリスは、にまっと可愛らしい笑顔で声を弾ませた。
「で、あっちの世界で戦う力欲しさに自分を違法な機械化までした女の子を、あそこまで受け入れてくれたのはどうして?」
アリスは上目遣いに知りたい気持ち満々と訊ねた。
「あっちの世界の俺は、側に居てくれた機甲士としてのアリスの姿を……奇麗な宝石箱のようだって思っていたからさ。支えだったんだな。腹黒やらバカだと言われはしたが」
竜一はアリスの今の姿に視線を向け、ストレートな言葉を自然に口に出す。最後は親しみのこもった意地悪も添えた。
「もう、バカっ!」
アリスは頬を膨らませ、憎まれ口と一緒に竜一を小突いた。
「あぁ、ほら、花火が綺麗だ」
竜一は大袈裟に防御しながら、頭上で輝く花火を指さした。
そんな竜一の横顔にアリスは、
「ねぇ、こっちの世界でのあたし達の関係が、何か影響あったのかな?」
切なさを含む真剣みを帯びた顔で訊ねた。
「それは……」
気付いた竜一は振り返り、優しい面持ちで応じた。