■夫の辛さ
快晴の朝、アーク、ポルギス湖に佇むトレッツ村。
「今回は釣りに挑戦してみましょうかね。釣りたてはさぞ美味しいに違いないはず」
川上 一夫は、今回はお茶を振る舞うのではなく釣りに挑むようだ。手には釣り道具一式があった。
そこに、
「あんた、また来たのか! 今日は釣りか? 良かったら、いい釣り場を案内するぜ? こえぇかーちゃんを持つ者同士だしな」
前回の訪問で一夫が茶を振る舞った中年男性が、親し気に声を掛けて来た。
「それはありがたいです。出来れば、釣ったその場で食べたいのですが」
一夫は、ありがたく申し出を受けると同時に頼み事も。
「おう、屋台料理人のギビィアに声を掛けておこう。俺はオウランだ。よろしくな!」
オウランは一切を引き受けた。
程なくして、一夫はオウランの舟に乗り、ギビィアの舟も伴ってポルギス湖へと繰り出した。
オウランお勧めの釣り場に案内された所で、
「早速……(魚の判断力を鈍らせ、釣り針り掛かり易く出来れば)」
一夫は、少しでも多く長く魚達の動きを止めるため『歌姫の呼吸法』も活かし、
「♪♪」
よく通る声で眠りを誘う歌声『微睡【星素】1』を口ずさみ、て鈍った魚を次々と釣り上げ
「……これだけあれば十分でしょう」
バケツいっぱいとなった所で、釣りの手を止め
「調理をお願いします。この魚と……」
食べる分の魚を選んでからギビィアに調理をお願いする。
「残りは保存がきくように加工をして貰って、家族の土産にします。そうすれば、無駄になりませんし、家庭内の私の立場も多少は良くなるかもしれませんから」
残った魚は愛する家族への土産だ。
「大変だなー……にしても、あんた、いい喉をしているな」
オウランは、同情したり感嘆したり忙しい。
「……いやぁ、娘を差し置いて歌姫になってしまって大変ですよ」
一夫は少々鈍い調子で返した。
「あぁ、それでヒノモト産の派手なのを着てるのか」
オウランが納得とばかりに、一夫が纏う桜の着流し【サクラ・ヒメバオリ】を指摘した。
「あぁ、これですか、元は女性用の大振袖だったんですが、家内に着流しに縫い直して貰いまして……」
一夫はこれまた困った調子で返す。
丁度、
「出来たよ。刺身に揚げ物に……色々あるよ」
ギビィアの調理が終わり、
「これは美味しそうですね」
一夫は、様々調理方法で美味しくなった魚を頬張った。
魚料理を満喫した後、一夫はオウランに食堂『フィッシャ』に案内して貰い、家族の土産のための加工をして貰った。