■遊園地デート
「今年の夏祭りも了とデートしたいけど、どこに……そうだ、ここにしよう!!」
燈音 春奈は貰ったチラシに目を走らせ、夫とのデートプランを考えていたが、何やら閃いたのか可愛らしい乙女の顔に。
となれば早速、行動だ。
「了、今年のデートはここに行こうよ! ロディニアの『ピアリィ・ランド』!!」
春奈は貰ったチラシを見せながら、
燈音 了をデートに誘った。行先はデートとしては定番のスポットだ。
「遊園地、ですか」
チラシを見る了に向かって、
「そうそう、私は前にあそこでいろんな異邦人の人達と交流した事があって、良い所だよ! 行ってみようよ」
春奈は更なるアピール。行先の良さは知っているので、尚更だ。
「行ってみましょう。春奈がそこまで言う場所、気になります」
妻の前のめりなプレゼンに了は興味を抱き、誘いに乗った。何より、春奈の楽しそうな顔をもっと見たいから。
という事で、二人は支度を整えてからロディニアへ向かった。
快晴の夜、ロディニアの閉園中の遊園地『ピアリィ・ランド』。
「了、格好いいよ」
現地到着して春奈が真っ先にしたのは、夫の浴衣姿を褒める事。了は紺色の浴衣に胸元には妻からの贈り物虎星のペンダントが煌めいていた。
「…………春奈も素敵ですよ」
了は妻の浴衣姿に見惚れていたあまりに褒め言葉への反応が送れた。春奈は赤い浴衣を見事に着こなしていた。
互いの浴衣を褒め終えた所で、
「じゃぁ、了、行こう! 出店を見て回ろう!」
「異邦人がいたら、交流したいですね」
春奈と了は恋人繋ぎで、屋台巡りに繰り出した。二人の手には結婚指輪が煌めいていた。
屋台巡りを始めてすぐ。
「春奈、綿あめがありますよ」
了は妻の好みを思い、綿飴の屋台を見つけて指さした。
「食べる食べる」
甘い物好きの春奈の反応は予想通りであった。
屋台に行き、注文をしようとした所で、
「この綿あめってどうやって……おっ、久しぶりだな。前はお月見の料理を教えてくれてありがとうな」
屋台の店主にレシピを聞いていた17歳の青年ミュータントのミギリが春奈の顔を見た瞬間驚いたが、顔見知りに再会を喜んだ。
「どういたしまして、元気そうね」
春奈も笑顔で再会を喜んだ。
「おう、隣は……あぁ、邪魔をして悪かったな。今夜、花火が上がるそうだ」
ミギリは春奈と了の恋人繋ぎに気付き、お邪魔をせぬようにお暇した。
「甘くて美味しいね。次はホットドッグにポップコーンとかかき氷に……」
「ロディニアらしいものは制覇したいですね」
綿飴を頬張りながら春奈と了は、次の屋台を物色する。
「お腹持つかなぁ」
屋台巡りを始めたばかりだというのに空腹度合いを気にする春奈。
「食べ切れないなら持ち帰りましょう」
了はころころ笑いながら、万が一の対策も忘れない。
その時、
「ん、これは太鼓の音? 歌も聞こえる」
春奈の耳に太鼓の音や歌声が入って来た。
「広場の方からですね。行ってみますか?」
傍らの了も同じように音が耳に入り、聞こえた方向を指さして誘った。
「うん、行ってみよう!!」
春奈の答えは決まっている。祭りを楽しむ一択だ。
向かった先に広がっていたのは、
「うわぁあ、盆踊りだよ。種族の垣根を越えた交流って良いね! それに遊園地での夏祭りも他とは少し違う雰囲気で心地良いね」
盆踊り。春奈は様々な種族入り乱れる光景に驚き、わくわくと懐かしさで心が満たされる。
「ですね。これはこれで」
了も同じ気持ちなのか、優しい表情で盆踊りを見ていた。
盆踊りを眺めつつ、
「今は休園中だけど、もし再開したらその時も一緒に行ってみない? 了と一緒なら、きっともっと楽しいはずだからさ」
「もちろんです。春奈と一緒なら僕も俺もどこだろうと楽しいに決まっていますから」
春奈と了が仲睦まじい夫婦ぶりを見せつけていると、
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、見てないで踊ろうよ!!」
「ほらほら、ロディニア音頭、最高だよ」
「折角の夏祭りなんだから」
気付いた種族様々の子供達がやって来て、盆踊りに誘って来る。
子供達の押しに負けた春奈と了は、
「えと、踊ろうか」
「夏祭り、ですからね」
夏祭りを楽しむつもりもあったため、盆踊りに加わった。
「♪♪」
ゲルハルト・ライガーが打つ軽快な太鼓と
エルミリア・ライガーの堂々とした音頭の歌が響く中。
「♪♪」
燈音夫妻は、周囲の参加者の動きに合わせて盆踊りを踊っていた。
「……春奈」
踊りもだが、隣を踊る妻の楽しそうな横顔に了の心が幸せに満たされる。
しばらくして、一休みのため盆踊りの輪から離れ、見学を。
「ねぇ、一休みが終わったら、あっちの屋台に行ってみない?」
盆踊りを見学していた春奈は、少し離れた場所にある屋台を指さした。
「あっち?」
了が示された先に顔を向けた瞬間頬にキスをし、
「隙あり……なんてね」
不意打ちに驚いて硬直する了に向かって、お茶目な表情を浮かべた。
硬直から復活した了は口元を悪戯に歪め、
「もう、ならお返しに僕からは」
お返しとばかりに春奈の額にキスをした。驚きはしたが嬉しかったのだ。
その時、丁度、爆ぜる音が響き夜空に大輪の花がいくつも花開き、燈音夫妻を微笑まし気に照らした。