■目指すものは
快晴の夜、神州扶桑国の六明館学苑、中庭。
賑やかな夜会を前に、
「……(前回は桜餅を食べてましたけど、今回は大丈夫かな……少し心配かも)」
晴海 志桜里が心配を抱いた矢先、
「いたぁぁぁ」
近くから聞き覚えのある少女の声。
「あの……」
声のする方へ行こうとする志桜里に、
「気を付けてな。何かあったら呼べよ」
隣の
火屋守 壱星は、気遣いの言葉を忘れずに添えた。
志桜里を見送った後。
「二人共、久しぶり!」
壱星も再会を楽しんだ。
その相手は、
「おう、久しぶりだな!」
「元気そうですね!」
顔見知りの男女二人組の血刀士、龍岡 和巳(たつおか・かずみ)と歌見 路子(うたみ・みちこ)だ。
壱星は手近の料理を食べながら、
「そういえば、初めて会った時も確か一緒にいたが、二人は幼馴染だったりするのか?」
これまでも二人一緒だった事を思い出した。
「突然だなぁ」
想定外の顔の和巳。
「いや、普通気になるだろ。俺は志桜里の保護者みたいな立場だけどな」
壱星は、話を振られる前にさらりと答えておく。
「俺達の両親が親友で、家族ぐるみの付き合いをしてて、気楽な相手だな」
「小さい頃から一緒でしたので、家族みたいな感じですね」
和巳と路子は互いを一瞥しながら、答えた。
「そうか。二人は『目標にしてる人』いるか?」
壱星の次の話題に、
「一応、師匠かな、地味な事ばっかりだけど」
「師匠ですね。穏やかな人で、勝敗よりも生きている事が大事だと」
和巳と路子は、口を揃えて三井流を皆伝した師匠を挙げる。
「で、あんたはいるのか?」
和巳が知りたそうに訊ねた。
「あぁ、師範じゃないが、いる。仁科流で実力のある符術士だから二人も知ってるとは思うが……(これだけでは先輩とは分からないだろう)」
壱星は、六大師範からの信頼厚い美しい女性符術士を脳裏に答えはするが、特定出来ないように曖昧だ。
「それだけだと、特定出来ませんね」
「名前とか教えてくれよ」
案の定、路子と和巳は特定出来ず余計に知りたくなった模様。
ここで出るのは、
「だったら、前にした約束、怪我しない程度に軽く手合わせでもするか? 俺に一太刀浴びせられたら目標の人の名前教えてもいいぜ」
春の時に結んだ約束。
「本当か? やってやる!」
和巳は、即座に刀身が青く輝く蒼碌を両手で構えた。
「よし、来い!」
壱星は『双天の構え』で、地噛を利き手で赤蜻蛉を逆手に握り迎え撃つ。
和巳は、性格通りの真っ直ぐな太刀筋を繰り出す。
対して、
「よっ!」
壱星は『霊醒』による先読みや『雷動』の瞬発力で悉く回避したり、炎守の護符で召喚した炎を纏った半透明の狼に身代わりになって貰ったりと鉄壁の防御。
さらに、
「甘い」
纏う紫陽花の衣で霊力を乱し、蒼碌の触れた物を凍り付かせる効果を弱め、
「ちょっ!?」
和巳が対処に遅れている隙を突き、
「俺の勝ちだ」
地噛で寸止めの一太刀。
「負けたぁぁ」
和巳は悔しそうに負けを宣言した。
そこに、
「怪我はありませんか」
心配する志桜里が現れた。
「大丈夫?」
駆け付けた志桜里を待っていたのは、
「ひ、久しぶり」
こめかみに手を当てる六国 那阿(ろっこく・なあ)だ。
「もしかして、かき氷?」
志桜里は、那阿の手元にあるかき氷に気付き、
「うん……少しずつ食べてたんだけど……ありがとう」
那阿に手を触れ、『癒掌』を使ってかき氷による頭痛を癒した。
「私も注文しちゃおう」
志桜里もかき氷を頼み、
「ふわぁ、このかき氷、すっごく美味しい……!」
口の中でふわりと溶ける様を味わいながら、
「……壱星がね、些細な事でもいいから夢や目標を持てって言うんだー」
顔見知りと交流する壱星を指さした。
「那阿ちゃんは……あ、名前で呼んでもいい、かな?」
と志桜里が言うと、
「いいよ! 呼んで、呼んで」
那阿は嬉しそうに返した。
「じゃぁ、私のことも名前でいいよ、友達だもん」
志桜里が言うなり、
「志桜里ちゃん! 友達になれて嬉しいな!!」
那阿は早速、志桜里の事を名前で呼んだ。
「私も嬉しい!」
志桜里も嬉しそうに言ってから、
「那阿ちゃんの将来の夢は横笛の先生とかかな……?」
話を本題に戻した。
「分かった?」
図星だと那阿が目を真ん丸にすると、
「何となくね……食べてる時と横笛の話をしてる時は楽しそうだな~って」
志桜里はくすりと笑った。
「みんなに先生の横笛の音色を知って好きになって貰いたいから……先生は符術も伝え続けて欲しいって言うんだけど」
那阿は、自身の夢を改めて語った。
「いつか天詔琴を一緒に奏でられたら嬉しいなぁ」
志桜里の言葉を聞いた瞬間、
「あたしも!! 一人より二人、音楽もお菓子も!」
那阿は声をとびっきり弾ませた。
「志桜里ちゃんは?」
好奇心から訊ねられると志桜里は、
「私は……いつかは故郷の山に帰らないといけないから……だから、思い出をたくさん作って大事にしたいなって思うんだ!」
これまでの日々を胸に蘇らせた。
「そっか。いつかお別れが来るのは寂しいなぁ」
那阿は別れを想像し、顔をくしゃり。
この後、揃って夜会を満喫してから志桜里は手合わせ後の治療に行き、那阿は踊りが始まるのを見て横笛を吹きに行った。