■恐怖の夏
快晴の昼、空京。
「あっつ、さすが夏だなぁ……日陰は」
照りつける夏の日差しに目を細めた
十文字 宵一は、きょろきょろと日陰を探す。
「リーダー、夏の暑さより大事な事があるでふ。覚えてまふか?」
傍らの
リイム・クローバーも同じく暑さを感じているはずだが、何やら暑さにも勝る危惧する案件があるのか、至極真剣な表情だ。
「そんな顔をしなくとも覚えているさ。おばさんから届いた矢文だろ? これをいい加減清めないとマズイとかなんとか書いてた」
宵一は日陰探しを中断し、矢文の指示通り持参した神狩りの外套を見せつけ、目的を失念していない事を主張した。
途端、
「そうでふ。放置すると本当に危険でふ! クリーニングで汚れは落ちても……」
リイムの語気が強くなった。宵一とは違い、神狩りの外套に向ける目には闇雲ではなく正体を知った上での心底の恐れがあった。
「とにかく、言われた通りにするでふよ! 今から僕がお祓いをしてくれる神社を探して来まふから、リーダーはあそこの日陰で待っていて下さい」
リイムは恐れからかしつこく念を押してから、近くの日陰を示してから、サポート役としての仕事に取り掛かろうとする。
「あぁ、分かった。出来れば、有名な神社を頼む」
宵一は頷いた後、リクエストを出した。危険への認知度はリイムに比べて呑気なものだ。
「任せるでふ。交通が便利な空京周辺の神社を探して来るでふ(あの方から警告が来た以上、きちんとお祓いをしないと本当に危険でふよ)」
リイムは返事をしてから、抱える危惧と共に神社探しに取り掛かった。おばさんの正体に関して知っているにも関わらず、宵一に伝える様子は無かった。
リイムを見送った後。
「日陰でゆっくりさせて貰うとするか」
宵一は、指定された日陰にあるベンチに腰を下ろした。
「……放置すると原初の時代の戦禍の怨念が暴走するから、たまに聖水に漬けないといけないとか……すっかり忘れていたな」
宵一は神狩りの外套を見てぽつり。リイムに聞かれたらまた何かを言われそうな事を。
「まあ、何にしてもおばさんに貰ったが、凄い外套だよな。何だかよく分かんないが」
神狩りの外套をくれたおばさんは宵一が幼い頃からの知り合いであるにも関わらず、本名すら知らない。ちなみに血縁関係は無い。
おばさんとの思い出を振り返りまったりとしている所に、
「リーダー、待たせたでふ!」
『メイドさんネットワーク』を活かして情報収集をし終えたリイムが戻って来た。
「リイム、戻って来たか」
宵一はリイムを労い、
「日陰で少し涼んだらどうだ?」
一息入れる事を勧めた。
「そんな暇はないでふよ。今すぐ行きまふよ」
リイムは即断り大いに急かし、
「……あぁ」
宵一は、もそもそとベンチから立ち上がった。事の大きさに対して二人の温度差が凄い。
そうして、リイムの案内で訪れた神社はというと、
「リイム、ここは本当に有名な神社なのか?」
宵一が念を入れて聞きたくなる程の有様。何せ、地面のあちこちは穴だらけ、塀は崩れかけとなり有名とはとても見えない。
「そうでふよ。地面の穴や崩れた壁は供養やお祓いで出来たものでふ」
リイムは、手に入れた情報を伝えつつも先を行く。一刻も早く神狩りの外套のお祓いをしたい事が見える。
「……お祓いでか。凄いな」
宵一はただ感心するばかりであった。
「予約をしていた者でふ」
「この神狩りの外套のお祓いをお願いしたい」
リイムと宵一は、神社に神狩りの外套を引き渡した。
神狩りの外套を受け取った神主は、何やら恐怖を感じ取ったのかひきつっていた。
そして、
「いよいよだな」
「そうでふね」
宵一とリイムが好奇心と緊張にはらんだ目で見守る中、神狩りの外套のお祓いが始まった。
途端、
「なっ、あれほど夏らしい日本晴れだったのに急に雨が降り出すとは……不吉だな」
「雷も鳴ってまふ(……これは大丈夫でふかね)」
先程の快晴が嘘のように雷鳴が聞こえる雲行きになり、宵一とリイムに不吉と不安を抱かせる。
それでもお祓いは滞りなく続けられ無事に完了し、
「これで一安心でふね」
リイムは、ほっと一安心した。
「おっ、天気が元に戻っている……たまにはこんな夏もいいかもな」
隣の宵一は、呑気に喜んでいた。
その様子を見てリイムは少し呆れを見せながら、
「……(僕がいなかったら、どうなっていたことか。これからもきちんと僕がリーダーを支えてあげなければいけないでふね)」
胸中で覚悟を決めるのだった。