■幽夜の練り歩き
快晴の夕方、華乱葦原、桜稜郭の株町。
「種族間の親交を深める開催趣旨の助力に(葦原で多くの経験と想いでを頂いた身、何より妹分的にも……)」
風華・S・エルデノヴァは、感謝と慕う陰陽師への思いから朝から始まった人間、半妖、妖怪の良好な関係を築くために催された練り歩きに加わった。
「初めまして(堅苦し過ぎない程度に、親交の機会は逃さず、積極的にお話を……)」
【スタイル】陰陽師の風華は、『令嬢の嗜み』を活かして列の雰囲気の上品側寄りを意識しつつ名乗った。
「初めましてー、白児(しらちご)の月丸だよ。陰陽師のお姉ちゃん、素敵な狩衣だね!」
隣を歩く着物を着た6歳の白い仔犬の妖怪が元気に応じた。風華が纏っているのは、貴重な技術と陰陽の気が込められた狩衣の双頭化蛇という凄い物だ。
「あら、この香りは……」
風華は、彼から優しい匂いが漂って来る事に気付いた。
「桜の香り! 匠町にある匂い袋とか作っている匂い屋『香々(こうこう)』のお手伝いをしてるんだよ。鼻がいいから!」
月丸はドヤ顔で、懐に入れていた匂い袋を出して見せた。
「ふふふ、素敵ですね!」
風華は褒めた後、
「では……」
閉じていた合歓の憑代番傘をばっと開き、
「貴方に悪意が降るなら、遮ってみせましょう。貴方が涙するなら、せめて覆い隠しましょう」
口上と一緒にくるくると回し、
「何か楽しい気分になるな」
「陰陽師もいるぞ」
どこからともなく現れる神霊が、観客達に楽しい気持ちを喚起させる。
「♪♪(半妖のみが就くといわれた陰陽師の姿に舞踊の神事、双方の折衷を意識した立ち居地で……厳かに)」
続いて、『錯奏術』を用いて神楽笛を吹く仕草を披露し
「ただの真似なのに笛が見えるぞ」
「この舞芸者すげぇ」
「笛の音色が聞こえる」
観客に幻視と幻聴を起こさせる。
「すごい! すごい!」
隣を歩く月丸もすっかり虜だ。
賑やかな練り歩きを見下ろす空が、黄昏から宵闇に変わる。
「灯りの一つに」
風華は『未明の幽蛍』を使い、 全身を半透明に変え、幽霊のように淡く発光させ、歩く度に幽かな残像がゆらりと残り、神秘的な美しさを演出する。
「うわぁあ、綺麗」
「夜になると一層神秘的ね」
観客達の吐息が洩れる中、
「泰平への思いを新たに」
風華は懐より夜刀の鱗証【花形舞芸者の証】を使い周辺に桜吹雪を起こし、
「眠るまでがひと祭り。お休みの際にはねむねむの加護を……」
美しい『顔面国宝』の微笑みで、観客と参加者に向けて世界を問わぬ安眠祈願をねむねむお姉さんとして添えた。