■海デート
快晴の昼、フェイトスター・アカデミー付近の海岸。
「……楽しそうだな」
水着姿の
迫水 晶はパラソルの下、荷物と一緒にレジャーシートの上に座り、海で泳ぐ人や砂遊びをする家族連れやカラフルな水着を着た男女の姿をのんびり見学。
「……日差しが強そうだが、大丈夫だろうか」
夏らしい照りつける日差しに晶は、自分ではなくまだ来ていない大切な人の事を心配する。本日は、一人ではなく連れがいるが
バルター・アイゼンベルトではない。
「それにしても、今日は互いの仕事が空いて良かったなぁ」
晶はやっととれた休暇に安堵をぽろり。
すると、
「だねぇ」
近くから聞き知った愛らしい声。
「ノ、ノーラ!?」
驚いた晶は、脊髄反射の如く勢いで振り返った。
いたのは、
「晶くん、お待たせ」
水着に着替え終えた恋人の
ノーラ・レツェルだ。ちなみに、がっちりパーカーのチャックを上まで締めて完璧に防御している。
「……晶くん、似合ってるよ」
ノーラは晶の水着を褒めてから、
「えっと……(水着は……ちょっとドキドキだから、このままパーカーで隠してたいけど、似合ってるって思って貰いたいし……色々考えて選んだ水着だし……もっと大胆な衣装を着てることもあるんだから水着ぐらい……でも水着ってなんか特別恥ずかしく感じるし)」
心の中で、恋人に水着を披露したいけど恥ずかしいという可愛らしいせめぎ合いを繰り広げる。
「……よし」
何とか覚悟を決めたノーラは、パーカーのチャックを勢いよく下に下ろし脱ぎ捨てた。
パーカーの下から現れたのは、
「…………どうかな?」
お洒落な水着姿。ちょっぴり恥ずかしいのか、ノーラの頬が赤く染まっていた。
当の晶はというと、
「…………」
恋人の水着姿のあまりの眩しさに言葉を失いまるで石像だ。
「晶くん? 大丈夫?」
一切の反応が無いため、気になったノーラが小首を傾げ怪訝な顔をした。
ノーラの声で我に返った晶は、
「あぁ、よく似合っているよ。ノーラ」
思わず見惚れてしまった事を素直に言葉にした。
「……あ、ありがとう」
ノーラは嬉しそうに頬をますます上気させた。
「あぁ」
ノーラの嬉しそうな様子に晶まで嬉しくなりながら、
「今日は何をしようか、ビーチバレーでも水泳でも何でも付き合うが」
今日の予定を訊ねた。
「どれも楽しそうだけど、日焼けはあんまり出来ないから、ビーチパラソルの下でできるものとかないかなぁ? 砂のお城作りとか……」
ノーラは、照りつける砂浜を横目に提案をした。
「砂の城か、面白そうだな」
晶は即賛成し、
「すぐに道具を借りて来るから待っててくれ」
すぐさま海の家へと道具を借りに行った。
「うん、ありがとう」
ノーラは元気に見送りパラソルの下で、待っている事にした。
程なくして、晶が道具を借りて戻って来た。
パラソルの下で仲良く砂遊びを始めた。
「砂遊びとか小学生以来だから、童心に返るねぇ」
ノーラは、にこにことスコップを使って砂山を夢中で作る。
「砂で遊んでいるノーラも絵になるな」
晶のスコップは動かず、ただ恋人を目で追うばかり。見ているだけで幸せで胸がいっぱになる。
「……晶くん」
視線に気付いたノーラは手を止めて、
「ねぇ、晶くんは城って言うと洋風と和風どっち派?」
何気なく訊ねた。
「好みの城か……和の城の美しさも、洋の城の美しさもどちらの良さもあって悩ましいな」
晶はしばし考え込むも答えは出ない。
「ぼくは和風派なんだよねぇ。いつかお城巡りとか一緒にしてみたいなぁ」
ノーラは作業を再開させ、楽しそうに語る。
「お城巡りか、それは楽しそうだ。ノーラのようなお姫様と一緒ならすべてが新鮮に映るだろうな」
聞いた晶は思っていた以上に楽しみにしているのか、思わず口走る。
「ふふふ、ぼくがお姫様なら、晶くんは王子様?」
ノーラはクスクスと笑みをこぼす。
「ふむ、王子様か」
かたい顔で考え込む晶に向かって、
「だねぇ。でもぼく今は普通の女の子だから、名前で呼んで?」
ノーラはにこぉと微笑み可愛らしいお願い事。今は、アイドルではなく愛する人と過ごす普通の女の子だから。
「あぁ、ノーラ。思った以上に私も楽しみにしているようだ」
晶の表情はすぐさま崩し、
「城を作り終わったら、かき氷でも食べに行こうか」
城作りの後にと次の予定をプロデュースする。
「大賛成。夏はかき氷だよねぇ」
ノーラはもちろん賛成だ。冷たくて美味しいかき氷も恋人と一緒に食べれば、もっと美味しくなるだろう。
二人は共に過ごす時間を愛しみながら砂の城作りを続けた。