■喫茶店での夜
雲行き怪しい夜、エデン、十字街(クロスロードシティ)。
「エデンに来るのは初めてだが……」
散策していた
ロデス・ロ-デスは、近くの喫茶店に入店した。
迎えたのは、
「いらっしゃい! 喫茶店『イビィ』にようこそー!」
10歳の人懐こそうな女の子。
「コーヒーを一杯飲んだらすぐ帰るから注文いいか?」
ロデスは閉店も近いと考え、小さな店員に確認を入れた。
「いいよ!」
少女の元気な返事を受けて、
「ならば、ホットブラックを一つ」
ロデスは、人差し指を立てて注文してから適当な席に腰を下ろした。
「…………(この世界にしては随分前時代的だな)」
ただ一人の客として、内装や調度品を見ながらまったりとコーヒーを待つ。
程なくして、店内に香ばしい匂いが充ち、
「いい匂いだ」
ロデスの心をほぐす。
丁度その時
「お待たせ、コーヒーだよ!」
コーヒーが運ばれて来た。
「…………悪くない」
ロデスが、コーヒーを味わい始めると、
「……酷いな」
雨粒が激しく窓を叩く。
「雨が落ち着くまでゆっくりしていって」
25歳の溌溂とした女性が声を掛けて来た。
「コーヒーを飲んだらすぐ帰る予定だったが……」
ロデスは手にあるカップをソーサーに置き、
「こんな美人の店長がいたら帰れないな」
女好きを発揮させる。
「ありがとう! 私は店長のユン・クレダ。今日最後のお客さんが口のお上手な方だなんて」
女性は笑みながら名乗った。
「あたしは姪のヤヤ・クレダだよ」
ついでにヤヤも名乗った。
「それは褒め言葉として貰おう」
ロデスは不敵な笑みで返してから、
「……内装が随分前時代的だと思ったんだが」
何気なく話題を振った。
「旅の人がお代替わりに作ってくれた料理を食べて、手間を掛けるのは素敵だと思って今のように店内を模様替えしたのよ……お客さん、時間は大丈夫?」
ユンは生き生きと語っていたが、ロダンを引き留める形になった事を思い出した。
「いい休暇さ。毎日仕事が忙しくて休む暇がなかったからな」
ロデスは一つ息を吐き出した。
「それは大変ね。差支えがなければ職業は?」
ユンが向ける好奇心に、
「職業? 泥棒さ」
ロデスはさらり。
「泥棒って、何を盗むの?」
ユンはロデスの発言に半信半疑だが、楽しんでいるのは明らか。
「もっとも俺が盗むのは物や金じゃない。キミみたいな美しい女性のハートさ」
ロデスは、気障な台詞で臆面もなく口説く。
「とびきりの腕前ね!」
ユンは、唯々嬉しそうに笑った。