■昼の芸能界
快晴の昼、芸能界、シアターチャンネル。
「こんにちはー! アタシ、安野 桃子(あんの・ももこ)! 気安く“モコ”って呼んでねっ! 今、アイドル大図鑑第3回目の生配信として、『ヒロイックソングス!』の世界を紹介しているんだよ!」
桃子が声を掛けた相手はかしましい四人組だ。
「こんにちは、初めまして、まずは自己紹介でございますわね」
カラビンカ・ギーターが一番に反応し、桃子に挨拶を返した。
そして、
「わたくし達四人組……ですけれど、わたくし、カラビンカ・ギーターと、まゆらと、アシュトリィの三名はワールド・ホライゾンから」
カラビンカが代表として自己紹介を始めた。
「初めまして数多彩茉由良です」
「アシュトリィ・エィラスシードですわ」
数多彩 茉由良と
アシュトリィ・エィラスシードが笑顔で挨拶をした。
「其処のベネディクティオはTRIALから、アイドル育成学校のフェイトスターアカデミーに通っているアイドル候補生でございますわ。どこかで、ちゃんとデビューして……候補生の文字が、外れれば良いのですけれど……中々、良いタイミングが最近ありませんわね。つい最近まで、特にアイドルらしい活動はせず、ほぼこの世界の物見遊山をする時の、仮初の立場……みたいにしていたから、自業自得な所もありますけれど」
カラビンカは続けて
ベネディクティオ・アートマを紹介する。
「ベネディクティオ・アートマだよ! というか、自業自得って」
ベネディクティオはアイドルらしくびしっと決めポーズをしてから、カラビンカの紹介に軽く口を尖らせた。
何とかお互いの自己紹介が終わった所で、
「よろしくっ! えーとシアター・チャンネルには何か用があって? もし良かったら、画面向こうの皆にこの世界を紹介してくれない?」
桃子は、改めて生配信への協力とこの世界の訪問理由を訊ねた。
「まゆらに誘われて遊びに来たのですわ」
アシュトリィが訪問理由を答えた。
「誘われて……」
桃子は茉由良の方を見た。何か生配信のためにお願いと訴える目で。
「えぇ、そうですね。自己紹介も終わりましたし、この世界を紹介しますね……配信は大変ですからね」
茉由良は改めて生配信への協力を伝えた。生配信が大変だという事は体験済みだ。
「もしかして、配信とかした事あるの?」
察した桃子が思わず言葉を挟んだ。
「したよ! 歌ったり視聴者からの疑問に答えたり、大忙しだったよ!」
ベネディクティオが当時の事を思い出したのか、答える声は弾んでいた。
「へぇぇ、見たかったなぁ」
同じく生配信する者として桃子は大層興味を持った。
だが、今大事なのはこの世界の紹介である。
「では改めて紹介を、此処には、更に細かく……幾つものチャンネルと、呼ばれるモノが在って……それぞれ毎に、色々と在るみたい……なんですけれど、紹介するなら……まず芸能界は一部のトップアイドルが到達出来る天上の世界です。そして、此処、シアター・チャンネルは……」
茉由良が話を元に戻し、改めて紹介を始めた。
「古今東西のあらゆる映像作品が特殊な媒体によって保管され、新たな流行から不朽の名作までを観測出来ますわ」
アシュトリィがすかさず補足を入れる。
「名所はあそこに建つメモリー・シアターとかでしょうか? 気軽に利用出来れば尚良いんですけれど」
茉由良が示した建物を桃子は、ばっちり紹介と一緒に撮影する。
「メモリー・シアターというのは、記録にあるものなら過去の出来事を空間ごと再現できる特殊な劇場でございますわ」
カラビンカは知らない人向けにと笑顔で解説をつける。
「色々な作品を識れる所……という意味では、シアター・チャンネルは良い所ですよね……別チャンネルですけれど、ビブリオ・チャンネルとかもでしょうか? 彼処の名所だと、言語に関する学問を司る芸能神が住み、世界中の言語や言葉を観測や管理してる塔、バベルの塔とか……でしょうか?」
茉由良の言葉に対して、
「色んなアイドルの姿が見る事が出来て最高だよねっ!!」
桃子は前のめりに激しく同意を示した。
「好奇心を満たすって意味では、まゆらの挙げた二カ所は、どちらも良い所よね! ただ……ビブリオ・チャンネルは、ちょっと小難しい感じがするから、私は此処の方が好きかな。島全体が巨大図書館だなんて、まゆらにとっては最高かもしれないけど」
ベネディクティオは、不思議な話を見聞きする事が好きな茉由良をちらり。これまで訪れた世界でも片鱗を見掛けているので実感大だ。
「ふふふ、ですね」
茉由良は穏やかに笑った。
「とにかく、まだまだ見た事も無いチャンネルが沢山あるから……色々と廻って、観光してみたい所よね!」
ベネディクティオは笑顔で、一通りの紹介を終わりとした。
ここで、
「そう言えば、お昼時でしたわね……ここの代表的な食べ物って、何なのかしら? もし、ご存知でしたら……何か、おすすめをして欲しい所ですわね」
アシュトリィは時間と共に空腹を思い出し、桃子に訊ねた。
「ここだと、色んな味のポップコーンとかフライドポテトとか、食べ歩きが出来るような物があるよ! ちなみにビブリオ・チャンネルなら具材豊かなビブリオサンドだよ! 中身やパンくずはこぼれないし、読書しながらでも食べられるよ! 芸能界で流通しているブランドみかんのげいのうみかんもすごく美味しいよ。何たってみかん界のスーパースター!」
桃子は近くの屋台を示しながら、口早に言った。故郷である『ヒロイックソングス!』が舞台という事もあるのだろう。
「良かったら、食べるところとか感想とか生配信で流してもいいかな?」
桃子は、食を通して視聴者に芸能界をもっと知ってくれたらという思いから話を持ち掛けた。
「構いませんよ」
茉由良は穏やかな笑みを浮かべながら、断る理由も無いため引き受けた。
という事で屋台に来き、メニューを見た瞬間、
「チョコ、キャラメル、シナモン、塩……どの味のポップコーンを選ぶか迷いますね」
「げいのうみかんを使ったフルーツサンドや野菜たっぷりのパイも美味しそうですわ」
「飲み物も迷いますわね。げいのうみかんを使った紅茶やジュースも美味しそうでございますよ。紅茶には果肉入りでございますね」
「色々買って、みんなで分けて食べようよ」
茉由良、アシュトリィ、カラビンカ、ベネディクティオは、豊富なメニューに大いに惑う。
「どれもこれも美味しそうだよねっ!」
匂いだけでも十分美味しさを想像出来、桃子は撮影をしながら大いに賛同した。
茉由良達は、数種類のポップコーンやげいのうみかんを使ったフルーツサンド、げいのうみかんティーやジュースなどを注文した。
そして
「キャラメルの香ばしい香りがたまらないですね……味も美味しいです」
茉由良は、キャラメル味のポップコーンを味わった。
「げいのうみかんをふんだんに使っていて贅沢ですね」
アシュトリィは、げいのうみかんのフルーツサンドを頬張った。
「いい香りですわ……ほのかな酸味が絶妙でございますね」
カラビンカは、げいのうみかんの紅茶の香りに鼻をくすぐらせ、甘さと酸味を楽しんだ。
「野菜のパイも美味しい! なかなかボリュームがあるよ!」
ベネディクティオは野菜パイにかぶりつき、いい顔だ。
「芸能界の食べ物を美味しく食べる姿をばっちり撮れたよ! 協力してくれてありがとう!」
桃子は笑顔で協力してくれた四人に礼を言ってから、他の世界を紹介するべく行った。
彼女を見送った後。
「さて、次はどこにいきましょうか」
茉由良達は、芸能界の観光を続けたという。