■昼の華乱葦原
快晴の昼、華乱葦原の桜稜郭の出入口。
「久しぶりー、未来飴の時はありがと~!」
桃子が再会の挨拶をした相手は、
「あぁ、久しぶりだな」
行坂 貫だ。
桃子が生配信の話をすると
「引き受けよう」
貫は快諾した。
「俺が紹介するのは、匠の町にある『狐屋』という硝子細工の店だ。不思議な硝子細工を取り扱っている(配信で伝わり易そうなのを中心に……雁屋の人柄も紹介できたら交流好きな雁屋の店にお客増えたらいいが)」
脳裏に浮かぶのは、幻呼び風鈴という硝子細工の試運転に参加した時の事。
貫の案内で硝子細工工房『狐屋』に行き、生配信の許可を無事に得た。
「初めまして、この店の主の雁屋(かりや)だよ! 見た目は15歳に見えるけど本当は長生きさんだからね!」
硝子細工工房『狐屋』の店長雁屋は配信向けの自己紹介後、
「久しぶりだねっ!」
貫に再会の挨拶をした。
「あぁ、元気そうだな」
貫も再会の挨拶を返した。
そして、
「じゃぁ、最初は硝子の麻雀牌! 麻雀に勝てる麻雀牌の作製依頼で作ったんだよっ! 前に案を貰って、温めたり冷やしたり温度で自由に模様を変えられるようにしたよ!」
雁屋は、自信満々に麻雀牌や頭を撫でると囀る小鳥など色々と紹介した。
貫と桃子は、触ったり聞いたりと硝子細工の不思議を体験した。
無事に生配信を終えた。
生配信終了後。
「ところで、以前聞いた友人は無事に簪を返せたのか?」
貫は、雁屋に近況を訊ねた。
「昼に人間の少女が落とした簪を拾ったくらやみ目の友達の事だねっ! 幻呼び風鈴で沢山練習したんだけど、引っ込み思案のせいで固まったりして……」
雁屋は、友人である両膝に目がある妖怪について溜息混じりに言った。
「それで、どうなったんだ?」
貫が先を促した。
「昼間は何かにぶつかったり転んだりと不器用だから、簪を布に包んで夜の内に少女の家の前に置いたみたいで……」
雁屋は溜息のまま事の顛末を語った。
「返す事が出来たのは良かった……自分は幻呼び風鈴は使ったのか? 硝子細工の師匠に会うとか言っていたが」
貫はもう一つの気になる事を訊ねた。
「会ったよ。開店の準備で死に目に会えなかった事を謝ったりとか、色々話して……心の中でしか会えない優しい笑顔をこの目で見られてよかったよ! でも幻が消えたら現実をひしひしと感じて……」
雁屋は、体が弱い故に病で亡くなった師匠である人間の女性と過ごしたひとときに嬉しさと寂しさ混じりだ。
「……そうか」
雁屋の胸中を思い、貫は静かに頷いた。