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ハーンデルの祭日

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ハーンデルの祭日
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 交易都市、ハーンデル。タシガン空峡に面したこの街では、特産品であるヴァイツェンの木の果実の収穫を祝う祭りが開催されていた。
 この街で貿易商を営んでいるシェスティンは、以前の事件の折に知り合った契約者たちに声を掛け、ヴァイツェンジュースの屋台を出していたのだが。
「まったく、売り上げ泥棒なんて、前代未聞です……」
 シェスティンは一つ大きくため息を吐く。つい先ほど店先から盗まれてしまった売上金は、鈴木 円真高沢 直流ら数人が追いかけていったところだ。
「しかし、落ち込んでばかりも居られないでしょう。万一売り上げが戻ってこなかった時のことも考えて、これまで以上に稼いで置かなくては」
 円真のパートナーであるミケーレが、優しい口調で、割とデリカシーのないことを言う。しかしシェスティンは、流石商売人というところか、そうですわね、とミケーレの言葉に頷くと、自分の両頬を叩いて気合いを入れ直して見せた。
「それじゃあ皆さん、取られた分以上に売り上げて、戻って来た鈴木さんたちを驚かせてあげましょう」
 シェスティンがぱんぱんと手を叩く。屋台を手伝っていた面々は、円真たちが飛び出して行った時にひっくり返ってしまった備品やコップを片付け、のぼりを立て直し、また商売ができるような状態に屋台の内外を整え始めた。
 泥棒騒ぎで一時はざわついていた周囲も、数分もすれば人の流れは元に戻りはじめる。
「また別の破落戸に絡まれでもしたら厄介じゃからの……」
 瀟洒なメイド服を身に纏った高橋 凛音が、従えている三羽の鴉式神を辺りに放つ。パーフェクトテイムのスキルを使うことでより精密な制御が可能となった機晶生物に、周囲を監視させる作戦だ。
 もちろん、凛音以外の契約者たちも、それぞれに周囲への警戒を強めている。
「頼まれてた追加のヴァイツェン、持ってきたわよ」
 ヴァイツェンの入った木箱を二つ重ねて持って現れたのはアマニ・エクルベージュと、そのパートナー、フェイミィ・オルトリンデだ。彼女達は、「シャーウッド運送」を名乗り、今回は物資の運搬を買って出ていた。
 屋台のテントの裏手にある路地の向こうには、アマニの乗ってきた軽トラが見える。その車体には、荷物を運んでいる黒い犬のロゴマークがペイントされている。ついでにその上には、フェイミィの愛馬、カナンペガサス・アインの姿もある。ペガサスは祭りの喧噪の中に連れてくるのには不向きなので、そこで待機させられているのだろう。
「はいはい、じゃあ、どんどんジュース作りますねぇ」
 それを受け取ったのはアマニのもうひとりのパートナーであるミュート・ノイジィバーディだ。「さすがにワタシにシャバは無理ですよねぇ」と言って、屋台の裏手の目立たないところで、ミキサーに張り付いてせっせとジュースを作っている。
「そろそろ、営業再開しても大丈夫そうだよ」
 ミュートの作業の進度を確認したクリストファー・モーガンが、パートナーのクリスティー・モーガンをはじめ、店先で接客を担当していた仲間達に伝える。
「わかった、それならそろそろ呼び込みも再開かな」
「あい解ったのじゃ。小龍、外は頼んだぞ」
 クリスティーと凛音が頷く。その声に、凛音のパートナーの仁 小龍もまた、店先での呼び込みを再開した。
「ハーンデル名物のヴァイツェンジュースはいかがかのぅー、この祭りでしか味わえぬぞー」
 凛音は、事前にメイドさんネットワークにより仕入れた、ヴァイツェンジュースの主な購買層に該当する人物――即ち、若い、女性の、観光客――に向けて積極的に声を掛ける。
「新鮮なヴァイツェンの丸絞りだよ。爽やかな酸味と豊かな甘みのバランスが実にちょうど良くて、美容にも良いらしいね」
 凛音の呼びかけに反応して寄ってきた女性客に、クリスティーがジュースのセールスポイントをアピールする。
 店番に入る前、クリストファーと一杯ずつ試しに飲んでみて、ジュースを気に入った方が店番、そうでなかった方が裏方に回るという担当の決め方をしたので、セールスにもわざとらしさがない。
「ヴァイツェンジュース、二つじゃの。あちらの方で待つが良いのじゃ」
 凛音は手にしたハンドヘルド・コンピューターを使って会計を行い、二人組の女性客を屋台から少し離れた場所へ誘導する。そうすれば、次のお客さんをスムーズに呼び込めるという算段だ。
 クリスティーが新たなお客さんの相手をしている間に、凛音がクリストファーに注文を告げる。するとクリストファーが、ミュートがジュースを作ったそばからカップへ移す。そして、凛音のパートナーの小龍に渡す。
「あっちの姉ちゃん達だな、了解だぜ」
 クリストファーからジュースを受け取った小龍は、トライアルブーツをローラースケート形態にして、人混みを軽やかに駆け抜け、女性客の元へと向かう。強化鎖状服の上からタキシードを着て、奴隷のトレイ――時には武器にもなる、やけに重量のある荷運び用のトレイだ――にジュースを乗せて現れる小龍の給仕は、女性客に好評なようだ。
 そうして、屋台チームは絶妙なコンビネーションで、着々と販売数を伸ばしていっていた。

 真っ先に異変に気付いたのは、ディテクトエビルで警戒していたアマニだった。
「――何か、嫌な感じがするわね」
 その言葉に、屋台の中の契約者達は一斉に警戒を強める。
「あいつらかの――」
 三羽の機晶生物、鴉式神に辺りを探らせていた凛音が、怪しい男達の姿を捉えた。明らかに、お祭りを楽しもうという風体ではない。派手な色のシャツをだらしなく着て、これ見よがしな金のネックレスにサングラス。不機嫌そうな顔で、あちこちをジロジロと睨め回しながら、人混みを蹴散らすような足取りでずかずかと歩いてくる。確認できる限り、三人組のようだ。オウオウ何だ文句あるのか、と、目が合う人間全員を怒鳴りつけ睨み付け、四方八方に喧嘩を売り歩いている。大きな騒ぎになっていないのは、今のところ周囲の人々が賢明に無視しているからに過ぎない。
 ――が、そのうちに、男達の一人が道行く女性の一人に何やら因縁を付け始めた。すぐに三人がかりで女性を取り囲み、何やら怒鳴り始める。
「小龍」
 凛音はロイヤルガードのスキルを発動させ、さりげなくシェスティンを背中に隠すようにしながら、小龍へ合図する。
 クリストファーとクリスティーも視線を交わして、護国の聖域を発動させる。美しい翼が現れ、シェスティンを包んだ。
「オッケー凛姉」
 小龍は小さく頷くと、トライアルブーツを滑らせて、男達へとそっと近づく。そして、女性と男達の間に割って入る様にぱっと躍り出ると、愛想良く営業スマイルを浮かべて見せた。
「お兄さん達、ハーンデル名物、ヴァイツェンジュースはどうだい?」
 呼び込み、あるいは御用聞きのような調子で男達に声を掛ける。すると男達のうち、最初に女性に声を掛けたスキンヘッドの男が、邪魔するんじゃねぇ、と怒声をあげて小龍の身体を突き飛ばす。
 だがしかし小龍は、金剛力のスキルを使い、その一撃を正面から受け止める。
「ッ……何ィ?!」
 小さな少年にアッサリ一撃を受け止められたスキンヘッドは、驚きながらも、今度は全力で殴りかかろうとしてくる。しかし、小龍が動く方が早かった。手にした奴隷のトレイを、スキンヘッドに向かってぶん投げる。
 ブレイキングスローの投擲術を使い、不規則な軌道で飛んだトレイは、男の死角から後頭部を直撃した。スキンヘッドはひとたまりもなくその場に蹲る。辛うじて意識はあるようだ。
「何だこのガキ……」
 残った男達がいきり立つ。と、そこへいつの間に屋台から飛び出てきたのか、フェイミィが小龍の後に立って、にんまりと笑みを浮かべている。
 「よう、楽しそうじゃねーか? オレも混ぜやがれ!」
 片手の拳でもう片方の手のひらを殴るようにしてみせながらフェイミィが啖呵を切る。その好戦的な態度と、先に見せられた小龍の一撃から、二対二では分が悪いと思ったか、男達はじりじりと後ずさり、反対方向へ逃げようとする。
 が、退路の先には既に、凛音が仁王立ちして立ちふさがっていた。
 凛音は静かに、手にしたユグドラシルの聖杖を振りかざし、エンドレス・ナイトメアを放つ。練り上げられた魔力の闇黒が解き放たれ、男達の肉体と精神とを蝕む。悪夢に囚われた男達は、心身の急激な変調に襲われているのだろう、顔を蒼白にしている。
「お客様、如何されました? 顔色が悪い様ですがの?」
 震えだした男達を前に、凛音はにっこりと微笑む。が、それすらも男達には恐怖の対象に見えて居ることだろう。
 わあ、と情けない悲鳴を上げて、三人それぞれにその場から逃げ出す。
「待てっ!」
「行くわよ、二人とも!」
 そのうち、あちらへ逃げた一人を小龍が、そちらへと逃げた一人をアマニとフェイミィ、そしてミュートが追う。
 ――ちなみに、先ほど小龍に一撃を食らわされた男は、逃げ遅れた所を凛音に捕縛された。

「みんな、離れてっ!」
 小龍が声を上げると、通行人がわっと割れ、ごろつきの姿が見通せる。小龍はすかさずアルティマ・トゥーレの一撃を地面に向けて放つ。ぴきぴきと地面が凍り付き、あっという間に男の足を止めた。
 そこへ小龍がドラゴンアーツの力を使った一撃を叩き込めば、男はあっという間に沈黙する。

「チッ、流石にこの人混みじゃ、タービュランスは無理か」
 フェイミィが舌打ちを一つ。相手が空中に逃げてくれればタービュランスで一気に落とそうと思っていたのだが、あいにく、出くわしたのは地面を這うしか能が無いタイプのごろつきだった。
「地道に追うしかないわね」
 アマニはそう言うと、スルークラウドのスキルを発動する。貴族令嬢のたしなみとされる、「混雑した人混みでも、誰にもぶつからないよう華麗に移動する」術である。まさに今この場面にはうってつけだ。アマニはするすると人混みを抜けて、ごろつき男の後を追う。邪魔だ、どけ、と通行人を突き飛ばしながらもたもたと逃げていく男に追いつくまで、さしたる時間は掛からなかった。

「さぁて、どうして楽しい祭りに水を差してくれたのか、ご説明頂こうじゃねぇか」
 三人のごろつきを縛り上げて、シェスティンの屋台の前に座らせたところで、フェイミィが男達に問いかける。
「すみませぇぇん……」
「調子に乗ってましたぁ……」
「お許し下さいぃい……」
 男達は三様に情けない声を上げて許しを請う。
「調子に乗ってたァ? 調子に乗って弱い者虐めか?」
 フェイミィが凄むと、男達はひぃいと身を縮こめる。
「だって――祭りの日は、憲兵隊の取り締まりが緩くなるから」
「――それは聞き捨てならないな、どういうことだ。むしろ、祭りだからと見回りは強化されていると思うんだが?」
 話を聞いていたクリストファーが口を挟む。
「祭りじゃ、どいつもこいつもはしゃぐじゃねーですか。ちょっとしたケンカやイザコザなんてあっちでもこっちでも起きっから……」
「一々全部キッチリ捕まえてたら、あんなちっちぇー留置場、足りなくなっちまうってんで……」
「いつもなら何日か臭いメシ食う羽目になるようなことしても、よっぽどガチの悪さじゃなきゃ、ちょいと怒られて釈放なんスよ……この街のワルの間じゃ有名な話で」
「なんとも、頭の痛い話だね」
 クリストファーはため息をひとつ。
「まぁ、とりあえず彼らには、憲兵隊にこっぴどく絞られておいて貰いましょう。ただ、次に悪さしているのを私達が見つけたら――解っていますね?」
 そこへ、ミケーレがすっと出て来て、ごろつきたちににっこり微笑みかける。既に契約者たちに散々詰め寄られて這々の体となっているごろつき達は、解っていますぅう、と情けない声を上げた。

 そのうちやってきた憲兵隊によって、ごろつき達は連行されていった。
 ミュートが、ごろつき達が女性を脅している場面をいつの間にかインスタントカメラで証拠として撮影していたのと、フェイミィの証言が合わせて提出されたお陰で、彼らは「ちょっと絞られる」程度では済まなくなりそうだ。
 「この情報は、共有して置いた方がいいだろうね」というクリスティーの提案もあり、今回彼らに協力してくれている契約者や、もちろん円真にも、ごろつき達が騒ぎを起こしたこと、そして、祭りの日は憲兵隊の取り締まりが緩むこと、この街の「ワル」達の間ではそれが知れ渡っているらしいことが伝えられた。

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