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ハーンデルの空賊団

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ハーンデルの空賊団
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 その日、タシガン空峡はどこか張り詰めた空気に包まれていた。
 穏やかな雲間を、一隻の大型飛空挺が進んでいく――周囲に、数機のイコンを伴って。

「何事もないと良いのですが」
 今回の荷主であり、直接の依頼人でもあるシェスティン・ユーハンソンが、大型飛空挺のラウンジルームから外を見つめながら呟いた。
 ……ラウンジ、と洒落た名前は付いているが、輸送船なので実体は「船員休憩室」程度のもの。簡単な机と椅子がいくつか並んでいて、シェスティンの他にも、休憩中の船員や、それからもちろん、鈴木円真たち、飛空挺の護衛に名乗りを上げた契約者の姿もちらほらとあった。長距離の航行には不向きな飛行手段を用意してきた人々は、こうして飛空挺に同乗してその時を待っている。出航前に打ち合わせを行い、空賊出現時には、一部は飛行船の護衛につき、残りのメンバーはガレオン船への潜入、奇襲に当たることとなっていた。
「何事かあった場合の相談で恐縮じゃが」
 と、円真とシェスティンの会話の横から、ルシェイメア・フローズンが声を掛けてきた。シェスティンが、なんでしょう、と答える。
「万一何か起こった場合、この船に装備されている武装をお借りすることは出来るじゃろうか」
 ルシェイメアの言葉に、シェスティンはううん、と眉を寄せた。
「お貸し出来ないこともないとは思いますが、あまり強力な武装は載せていないのです。なにせ飛行船型ですから、荷物を極力多く載せるために、あまり重い武装は載せられなくて……この航路は、今までは空賊なんてほとんど出なくて、安全でしたから……」
「ふむ、そういうことなら、籠城戦よりも、わし達も外に出て、相手を近づけさせぬようにする方がよさそうじゃの」
 申し訳なさそうにシェスティンが告げた言葉に、ルシェイメアは何度か頷くと、では準備を怠らぬようにしよう、とシェスティンに軽く一礼して去って行った。
「もし何かあっても、俺達が守りますから!」
 ルシェイメアを見送ってから、円真がどんと胸を叩く。それから、シェスティンには聞こえないよう小声で、「――てか、何かあってくれないと、空賊とっ捕まえられないし」と呟いた。
 円真の呟きには気付かず、シェスティンが、そうですわね、と微笑んだ、その時だった。

「空賊だ!」

 窓の外を監視していた数人が、ほぼ同時に声を上げる。
 円真をはじめとする契約者たちは、素早く立ち上がると、それぞれの目的の為に、飛行船を飛び出していく。



「お出ましのようじゃの……」
 大型飛空挺の内部が騒がしくなる少し前。いち早く空賊の影に気付いていたのは、イコン「マフターブ」に搭乗している、高橋 凛音だった。ディテクトエビルを使うことで怪しい方向を探知し、そちらに向けて飛ばした三匹のマシンレイヴンにより偵察を行っていた。
 パーフェクトテイムのスキルを使うことでより精密な動作が可能となったマシンレイヴン達は、雲海の向こう、まだ豆粒ほどにしか見えない空賊の小型飛空挺と、そのさらに向こうからやってくる、巨大なガレオン船の姿を発見したのだった。
「空賊の姿を捉えたのじゃ。皆、備えよ!」
 凛音は周囲への通信を開くと、警戒を指示する。――本来ならばさらに、使用人の統率の技術を使うことで詳細に陣形を指示して、より効率的な迎撃の態勢を取りたいところだったが、何分肉声が届かないのでその力を発揮することは叶わなかった。
 しかしそれでも、警戒を呼びかけられた契約者達は、それぞれにイコンを駆り、凛音が伝えた情報を元に、空賊の気配のある方角へと移動を始める。また、大型飛空挺に積載されていた小型飛空挺や、空飛ぶ乗り物達も飛び出してきて、陣の隙間を埋める。
「小龍、今回は守り主体じゃ。賊を無力化最優先じゃぞい?」
 凛音は共にマフターブに搭乗している仁 小龍に声を掛けると、自らの機体を大型飛空挺の側で待機させる。

 ほどなく――空峡を包む雲海の向こうに見えて居た小さな豆粒が、実体を持つ。いかにも柄の悪い様子の厳つい男達が乗った飛空挺が数十機。そして、雲を切り裂くようにその舳先を表した、巨大なガレオン船。
「積み荷は頂くぜェ!」
 実に単純明快でわかりやすい悪人台詞が空に響き渡る。どれかの船が、スピーカーでも積んでいるのだろう。
「フン、頭数だけは揃えてきたみてぇだな! だが!」
「……ァ、お頭ァ、あの、ありゃ、イコンって奴じゃねーですかい?」
「ん? 何だそりゃ、聞いてねぇぞ……」
 威勢の良い濁声が続いたかと思ったら、暫くスピーカーの向こうが静かになる。スピーカーを切ったらしい。
 短い沈黙。
「……とォにかく! イコンだかコインだか知らねェが、積み荷は渡して貰うぜェ! やれ、野郎ども!」
 何かしらの結論が出たらしい。男の号令と共に、空賊たちの飛空挺が一斉に加速する。
 だが、契約者達はとっくに迎撃態勢を整えている。
 先陣を切るように飛び出して行ったのは、小型飛空挺ピックに乗った、ジェノ・サリスだ。ふつうの飛空挺のおよそ二倍の速度が出せるピックは、防御力では劣るものの、相手を攪乱するにはうってつけだ。
「まずは分断だな――」
 ジェノはピックの機動力を最大限に生かし、さらに空戦の心得を持って空中を縦横に駆ける。そうして狙いを定めさせないようにし、一気に敵の懐へと飛び込んだ。
 すれ違いざま、数機の小型飛空挺に向けてエアリアルレイヴによるヒットアンドアウェイを仕掛ける。一撃で仕留めるまでは行かずとも、複数の機体がバランスを崩し、逆上してジェノの飛空挺を追い始める。
 だが、飛空挺の性能差の為にその距離は縮まらないどころか開いていく。
 そこへ、ジェノがドラゴンスレイヤーを抜き放ち一閃、空賊の奥義、タービュランスを放つ。辺りを烈風が吹き荒れ、空賊達の乗る小型飛空挺は木の葉のように舞い、あっけなく操縦不能に陥り、雲海の中へと消えていった。
「……なかなかやるじゃねぇか」
 だが、その嵐の中に残った飛空挺が一機。ギリギリのところで回避したらしい。
 ジェノは機上で、ドラゴンスレイヤーを構え直す。タービュランスで簡単に片付く相手ではなさそうだ。
 一瞬の睨み合いの後、空賊はマシンガンのような銃器を取り出し、一気に放ってくる。
 こちらの得物の間合いに入る前に、遠距離でかたをつけようというつもりか。頭は回るようだ。
 しかしジェノは慌てずに、鋭く呼気を吐き出し、手にした剣に力を籠める。すると、その刀身に長大な光が纏い付く。ジェノはすかさずそれを振るった。
 女王の剣の一撃が、相手までの距離などものともせずに、空賊の飛空挺を切り裂く。ひええと情けない悲鳴と共に、男が落ちていく――しかし、その時。突如背後から銃撃音が響き、振り向くと同時に小型飛空挺ピックがバランスを崩した。背後に回り込んでいた一機に気付かなかった、ということが解ったのは、落ちていく飛空挺を、空賊が得意げに眺めているのが見えてからだった――
「とでも、思ってるんだろうが」
 ジェノはニヤリと口角を上げると、潔く小型飛空挺ピックを蹴飛ばすように、宙へと身を躍らせる!
 空賊は既にジェノを撃墜したものと思ったか、こちらに背を向け、旋回しようとしている。今が好機、とばかりにジェノは、履いている空賊王のブーツで中空を蹴った。
 空中を自在に駆け回れるこのブーツ、小型飛空挺と同等の速度を出すことが出来る。
 空賊の進路を塞ぐように回り込んだジェノが放ったエアリアルレイヴの一撃は、油断しきっていた空賊を完全に沈黙させた。



 ジェノが空賊に向けて斬り込んで行ったのとほぼ同じくして、イーグリッド・オウカに搭乗する剣堂 愛菜剣持 心愛の二人も、空賊たちに向かって機体を前進させた。
「愛菜、ブリザードでやっちゃいましょ。移動はこちらに任せて」
 心愛が愛菜に向けて声を掛ける。愛菜はコクリと頷いた。イコンに乗っていない味方にブリザードが当たるのを避けるため、戦線の最前に躍り出る。
 ジェノの攪乱により翻弄され、分断された空賊たちのひとかたまりに向けて、愛菜は手にした火龍の杖をくるくると回して気合いを入れると、強烈なブリザードを放つ。
 氷の嵐が巻き起こり、強烈な寒波が辺りを包む。
 それをまともに受けた空賊は身体を凍り付かせ、飛空挺の操縦を失う。数機が巻き込まれ、バランスを崩して雲間に消えていった。
「さすが愛菜ね。その調子でやっつけちゃいましょ」
 数機の小型飛空挺を一気に無力化した愛菜の手腕に、心愛は感心したように言うと、イコンを加速させ、次の目標へと狙いを定める。
 しかし、空賊たちだって黙ってはいない。ブリザードを間一髪逃れた飛空挺が、銃器の先をこちらへ向ける。心愛がすかさず回避を行い、愛菜が再びブリザードを放った。
 息の合った連携で、空賊の飛空挺はどんどん操縦不能に陥っていく。
 しかし。
 愛菜が前方の異変に気づき、心愛に向けて合図を出す。愛菜が示す方角には、空賊のガレオン船があった。その船隊の側面に取り付けられた砲台の先が、こちらの大型飛空挺を向いている。
 咄嗟に、二人はイーグリッド・オウカをその射線上に滑り込ませた。光条防衛圏を展開しながら、その身を挺して盾となる。
 幸い、飛んできたのは昔ながらの砲弾だったため、数発では致命的なダメージになることはなかった。しかし、飛行船型の飛空挺の脆い部分に直撃すれば、大ダメージとなることは容易に予想される。だからといって、このまま己を盾にしてずっと耐え続けることは現実的ではないだろう。
「何とか、あたし達が耐えないと――!」
 愛菜はその小さな小さな声で、自分を鼓舞するように囁く。

「大砲とは、また古風だな」
 ガレオン船から放たれた砲撃を、イコン・シパーヒーに展開させたフィルムシールドで受け止めながら、クリストファー・モーガンが呟いた。
 接近戦に向くシパーヒーには、遠距離での戦闘は不向き。かといって闇雲に突っ込んで行っては囲まれて的になるだけ――と、斬り込むタイミングを計っていたところに、ガレオン船からの砲撃だ。
 放っておいては飛空挺が甚大な被害を受けてしまうだろうが、いつまでも盾になっているわけにもいかない。
「古風だけど、これは地味に厄介だよ」
 シパーヒーに同乗している、クリストファーのパートナー、クリスティー・モーガンがイコンの操縦桿を握りながら呻る。脅威と言うほどではないが、しかし地味に一撃が重く、またこちらの大型飛空挺に当てさせる訳にはいかない。
「何とか無力化したいけど、ボクたちだけだと難しそうだ」
 クリスティーはそう言うと、周囲を確認する。そこに、クリスティー達と同じように、砲弾から飛行船を守る為に盾となっている、愛菜たちのイーグリッドの姿があった。

「ボクたちが囮になる。砲台の無力化を頼みたい!」
 クリスティーの呼びかけに、愛菜たちの乗るイーグリッド・オウカが手を上げて答えた。
「よし、行こう」
 クリストファーが合図とともに、タービュランスを放つ。烈風が吹きすさび、ただの鉄の塊である砲弾を吹き散らす。その一瞬に、クリスティーがシパーヒーを走らせる。
 砲撃を無力化したイコンに、ガレオン船側も気がついたのだろう。砲台のいくつかが、シパーヒーの方へと向く。どん、どん、と低い音とともに砲弾が放たれる。
 フィルムシールドを展開して受け止めるが、流石に複数の砲台に狙われては受けきれない。直撃して体勢が揺らぐが、ブレッシングステイトの加護を受けて落下を避ける。
 砲撃の合間に、何機かの小型飛空挺が突っ込んでくる。が、クリスティーは慌てずに、イコン用の日本刀、ライジング・サンを抜き放って応戦する。

 クリスティー達が、ガレオン船からの砲撃を集めてくれている隙を突いて、体勢を立て直した愛菜達はガレオン船へ向けてブリザードを放った。
 砲手たちを凍り付かせることに成功したのだろう、砲撃が止む。

「よし、これで暫く安心だね」
 砲撃が止まったのを確認したクリスティーと愛菜たちは、まだ残っている小型飛空挺の対処に向かう。

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