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氷のお城へご招待

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氷のお城へご招待
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氷のお城からの眺め


 観光日和だった。
 薄い雲を刷いた青空と冬の澄み切った空気。
 <氷の祭典>本会場の氷像や雪像も溶けるでもなく、程よく光を輝かせている。厚手のコートさえあればたっぷり見て回れるだろう。
 賑わい始めた本会場ではあったが、ここから遠目に見える作品――出展作品の中でも一際大きい氷の城は、行くための道はあれど動線は用意されていなかった。
 気付いた人が会場から素敵ねと言葉を交わすくらいで終わってしまうように。
 まさか城の足元にパラ実生が押し寄せているだなどとは想像もできないように。

 その氷の城は三階建てで、シンプルな中に壮大さと優美さを兼ね備えた、貴族の別荘のような外観だ。
 最上階のバルコニーとその奥の部屋では、景色を楽しみながらお茶できるように氷や木製の家具がセッティングがされている最中だ。
 新旧の制服が入り交じった百合園生はテーブルクロスを整える者、花を飾る者、サービングカートにパンやお菓子を用意する者……とそれぞれがお客様をお迎えする準備に勤しんでいる。
 今日の客層と運動量を意識してか、用意されているお菓子は心なしかタンパク質多めだ。
「そろそろお時間ですわね」
 氷の優美な手すりに白い手を置いて、バルコニーから眼下を眺めていた長い髪の女生徒が振り返る。
「皆さん、挑戦者の方々全員分のおもてなしの準備はできてますわね?」
「はい」
 唱和する声が清く美しいことに女生徒は満足した。
「それでは、心穏やかにお待ちしましょう」


                              *


「氷のお城でお茶会ですって、美紗さん! わたしも、参加してみて良いですか?!」
 尖塔に誘われて郊外までやってきたルルティーナ・アウスレーゼの顔が目の前に迫り、美紗・フローレンベルクはその好奇心に輝く目に、パートナーの手にあるチラシを一瞥した。
「ええ、構いませんよ。お嬢様の御心のままに」
 メイドの許可を得たルルティーナは、ありがとう! と満面の笑みを浮かべる。
(お嬢様の事ですから、普通のお茶会だと思っているのでしょうね……)
 オブラートに包んではいるが、あれは実質果たし状だ。
 チラシを配った屋台の主・楢山 晴(ならやま はる)と目が合うと、苦笑された。
「『少し危険』だからここで店を出してるの」
 城の正面が広場のように空けてあるが、飾ってあった雪だるまが蹴散らされている。転がっている大岩は代わりの展示物としては場違いだ。
「お城に行くつもりなら、百合園の生徒には近道があるわ。お城の背後に回って、右から三番目と四番目の柱の隠し扉の白鳥の羽を――」
「まあ、それは凝っていますのね」
 ルルティーナが喜ぶ間に晴の説明を美紗がしっかり記憶に留め、
「お嬢様、危険ですので後ろをお歩き下さい」
 ルルティーナを流れ弾から守るように位置取りをして、“御者の心得”で安全な足場を探しながら雪の上を歩き始めた。

 二人が無事城に辿り着き教わった通りの方法で隠し扉を開けると、魔法の明かりが点された短い廊下の先に上り階段が待っていた。
 厚い氷の壁に阻まれているからか、向こうで繰り広げられているだろう騒動は全く窺えない。
「えっと、わたしたちはこちらから入って良かったんでしょうか? 他の方々は、正面の入り口に集まっておられたんですけど……」
 もしかしてズルをしてしまっているのではないか、とルルティーナが懸念を示すと、
「合っていますよ。あちらの方達は外からの方々でしょうから、厳しい審査があるのだと思いますわ」
 美しい曲線を描く階段や踊り場を通り過ぎ、快適に登りきって突き当たりの扉を――これも特別な仕掛けを解除して――開くと、そこはお茶会の会場だった。
 魔法の光が氷のシャンデリアに灯り、部屋全体が薄く発光しているように見える。居心地良さそうなテーブルと椅子の数からして、ざっと50人程度は着席できるだろう。
 その合間を百合園の制服を来た女生徒たちが忙しくしていたが、手を止めてこちらを見た。
 他に客らしき人影はない。
 そう、最初の客は、ルルティーナたちだったようだ。
 注目を集めたルルティーナは“インサイト”でさっと見渡してから雰囲気を判断して“令嬢の嗜み”で優雅に一礼する。
「皆さんごきげんよう。この度は、お茶会へのお招きありがとうございます。百合園女学院、ルルティーナです。従者の美紗さん共々、仲良くして頂けると嬉しいです♪」
 顔を上げてにっこり微笑めば、“顔面国宝”の小柄な年下の美少女の姿に、招待客だとすぐに伝わったようだ。
「ルルティーナお嬢様の専属メイド、美紗と申します。以後、お見知りおき下さいませ」
 続いて美紗も控えめに自己紹介する。
「ごきげんよう、ルルティーナさんに美紗さん。歓迎いたしますわ。暖かい席が宜しいかしら?」
 先輩たちは口々に歓迎の意を笑顔で表すと、二人を席に案内する。
「さ、美紗さん。皆さんに、お茶とお菓子をお出しして下さい♪」
「はい、お嬢様」
 美紗は座らずに“ティータイム”でガトーショコラやエリュシオン風のパイやケーキを並べた。“「用意は整っております」”で用意したお茶セットもある。
 “メイドさんネットワーク”から得た情報によれば、彼女たちは故郷の味を好むらしい。
「お気遣いに感謝いたしますわ。ですけれど、こちらからお招きしたのだからおもてなしをさせてくださらないと」
 美紗もまた座るよう促されて、お茶を一杯ごちそうになるのだった。


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