「とうちゃーくっ!」
2月13日、日曜日。
火村 加夜は、商店街の入口にいた。
この季節にしては暖かく、雲間から落ちてくる陽光も眩しいくらい。
「わぁ!」
左右に軒を連ねる商店は、赤やピンクのハートで飾られていた。
「街がバレンタイン一色ですね」
商店街には勿論、直接の商品を販売していない商店もある。
すべての商店が一丸となって、全体で明日の日を盛り上げるようだ。
それに。
「うーん、いい匂いです」
チョコレートの甘い匂いに包まれると、それだけで幸せになれた。
「っと、いけません。
手づくりチョコを渡すって決めたんですから、頑張って作らなくちゃ。
そのためにも、お買い物も頑張りましょう!」
決意も新たに、加夜は歩き始める。
まずは、チョコレートのお店でウインドーショッピングだ。
「何を作ろうかな。
チョコチップクッキーもいいですね。
トリュフもいいし。
どれも美味しそう……」
なにをつくるか決まらないと、材料も決まらない。
けれども、ひとつに絞るための判断材料もない。
「こんなに素敵なチョコを作れたら良いけど、難しそうです。
味見してみましょう」
店の扉を開いた加夜を、店員は元気に招き入れる。
気になる商品を受けとって、お会計を済ませた。
「ありがとうございました」
店を出ると、商店街を更に奥へと進んでいく。
「でもやっぱり、想いを伝えるにはハート型が良いですね……あっ!」
ショーケースのなかに、ハートのかたちをしたチョコレートを見つけた加夜。
「ハートのマカロンも可愛いですし、ハートのチョコタルトも食べやすそう」
扉のベルが揺れると一層、チョコレートの香りが押し寄せてきた。
包装資材の品揃えも豊富で、選ぶのが楽しくなる。
同じくいまこの空間にいる人達はなにを選ぶのしらと、ちらりと観察。
「ラッピングはシンプルにしようかな」
箱も幾つか手にとって、手触りや開け閉めのしやすさを確かめてみた。
チョコレートに負けず劣らず色もかたちもいろいろで、どれも可愛いと思う。
「チョコがハートだから、箱は白が良いかな。
赤いリボンは欲しいですし……」
箱とリボンも、気になるものを幾つかみつくろった。
チョコレートをつくり終えたら、そのときに改めて選ぶことにしたのである。
「ありがとうございました!」
そして加夜は、また別の店へと歩き始めた。
「受け取ってもらえるかな?
家に帰ったら試しに色々作ってみましょう」
参考になりそうなチョコレートと、チョコレートの材料を求めて。
相手の笑顔を想いうかべて、加夜も笑った。