■全力で推すのは……
朝を演出されたワールドホライゾン、広場。
「アタシは安野 桃子(あんの・ももこ)、気安く“モコ”って呼んでね! 初めての異世界に胸高鳴らせながら“アイドル大図鑑”生配信第2回目の配信中なんだ! よかったら次の生配信の舞台におすすめの世界を教えてっ!」
桃子が声を掛けた相手は
「おっ、生配信か。俺は火屋守壱星だ」
「晴海志桜里です」
揃って近くを歩いていた
火屋守 壱星と
晴海 志桜里と
「な、生配信……う~、き、緊張します~」
さらに側のベンチに腰かけていた
ルルティーナ・アウスレーゼだ。緊張気味に前髪や服装を弄る。
「……い、今、配信中って、という事はもうカメラ回ってるんです……? どうしましょう、まだ心の準備が!」
状況から気付いたルルティーナは、顔色を変えておろおろ。
桃子が落ち着かせようとカンペを出すよりも先に
「よろしくなー」
壱星が視聴者の注意を逸らそうと画面に向かって手を振り
「落ち着いて下さい」
志桜里がこそっと声を掛けた。
「は、はい」
ルルティーナは頷き、何とか立て直し
「ルルティーナです! よろしくお願いします」
自己紹介をした。
という事で
「俺は神州扶桑国を推すぜ」
「私も神州扶桑国をお勧めします。訪れた事が無い人にも是非一度足を運んで頂きたいですから」
壱星と志桜里は、ルルティーナが座るベンチに腰を下ろしながら答えた。
「わたしもおすすめします! 神州扶桑国は故郷ですから」
ルルティーナは可愛らしく狐の尻尾をふりふり、狐耳をぴこぴこと話す気満々だ。
「どんな世界なの? 三人がおすすめするなんて、すごく知りたいっ!!」
三人同時に勧めるとあってか、桃子は好奇心に目を爛々とさせた。
「桜がとても綺麗な世界です」
ルルティーナが言うと
「大和の“裏”と呼ばれる世界で、雰囲気もすごく近いんですよ。大和は……」
志桜里も続いた。
大和の説明がいるのではと思い至るが
「華乱葦原とそっくりの世界だねっ!」
察した桃子が言葉を挟んだ。
「あぁ、その通りだ。ただ、華乱葦原と大和とも決定的に違うのは悪霊とか祟り神とか言われている人類の天敵、禍神の存在と異能で禍神を祓える神通者で構成され、霊力の乱れを清浄化する修祓隊の存在だな。別名六明館学苑とも言って、人々の平穏を護っていてそのことを誇りに思ってる奴も多い」
壱星の説明に
「なるほどー」
桃子は感心し、頭の中で整理する。
「二人を見ればわかるが異種族もいるんだぜ?」
壱星は隣に座る女の子二人に顎をしゃくった。
「そこは華乱葦原と一緒なんだねっ! えーと……」
桃子が、親近感の眼差しで志桜里とルルティーナに訊ねるよりも先に
「見ての通り妖狐です! どうです? 狐耳としっぽ、可愛くないです?」
察したルルティーナが、狐耳をぴこぴこさせながら笑顔で言った。
「うん、可愛いっ!」
桃子は素直な感想を口走った後、次を促すように志桜里を見た。
「私は天狗。壱星とは扶桑市に降りてからの付き合いで、扶桑市だと事情があって、私が天狗だと気付けるのは普通の人にはない力を持つ神通者だけなんだけどね」
志桜里は、天狗らしさを画面向こうに見せつけた。
「それって、特異者とかアイドルって事だねっ!」
桃子は得心してから
「三人の衣装って、もしかして神州扶桑国の物?」
三人の衣装に目をつけた。
「おう、修祓隊制服だカッコいいだろ?」
「実はアレンジしてもいいから、個性も出せるんだよ」
術士隊服・燕の壱星と導霊隊服の志桜里がベンチから立ち上がり、画面に向かってくるりと前後を披露。
「マントとか、お洒落でかっこいいね」
桃子は、まじまじと二人の制服を目に焼き付けるが如く見てから
「次は……」
ルルティーナの衣装の説明を求めた。
「わたしのは、審神者の覚醒に合わせ強くなった霊力にも耐えられるように素材から見直し特殊な霊糸のみで編んで作った戦装束です」
桜桃戦衣を纏うルルティーナはベンチから立ち上がり、その場でふんわりと回った。
「着物の袖口とか後ろ帯の桜の花の刺繍とか、華やかで目が釘付けになっちゃうよ」
桃子は、ルルティーナの優美な衣装に見惚れた。
「ありがとうございます」
礼を言ってからルルティーナはベンチに座った。
「で、審神者って、アバターなんでしょ?」
桃子は湧いた疑問を口にした。
「はい、そうです。他にも色々ありますよ」
ルルティーナは、隣の二人に説明を任せた。
「私は血刀士……侍に近いかな?」
志桜里はすくりと立ち上がると
「見てて」
『空蹴』で宙を駆け、手の持つ小太刀の雷閃之振には、『纏火』による炎が生きてるが如く走り回り
「お次は霊力の調和っていうものを見て貰うよ?」
途中で『燿刃』で刃に光を纏わせ、清浄なる歌舞『八乙女舞』を披露した。
「ふわぁあ、心が洗われそう」
桃子はインタビューそっちのけで演舞に夢中に。
「凄いです」
ルルティーナも観客となり
「今のうちに」
壱星は何やら席を外した。
「……という感じかな。安野さんなら、場を支える巫僧か情報の扱いに長けた隠密が似合いそうかな?」
志桜里はにっこりとアバター説明を素敵に終わらせ、席に座った。
「……巫僧に隠密かぁ」
桃子が心にとどめてから
「食べ物はどんなのがあるの?」
訊ねた。
「和風の物が多いですね」
ルルティーナはにっこり。
そこに
「まずはこれだな」
お湯を調達して来た壱星が再登場し
「お湯を注げばすぐに食べられる。六明館かれいらいすの素を食べてみてくれ」
湯を注いだ六明館かれいらいすの素を、霊力を注いだ猫丸参式に桃子の元へ運ばせた。
「カレーを持ってきてくれるこの猫ちゃんのからくりは何?」
受け取った桃子はからくりに興味津々だ。
「猫型霊子からくり人形だ。神州扶桑国の技術担当が作った物だ。他にも修祓隊をまとめる六大師範っていう凄い人たちもいるぞ」
壱星の説明を聞きながら桃子は、六明館かれいらいすの素をパクリ。
「…………ん、これ、体には良さそうだね」
口内に広がる薬膳な味に渋い顔。
そこに
「次はわたしのオススメです!」
甘口のルルナ特製カレーライスの登場だ。
「……カレー」
少し渋い顔をするが、桃子は意を決しパクリ。
「さっきのカレーより食べやすくて具材とご飯もセットになってるのもいいね」
口内に広がる子供が好きそうな甘い味にいい笑顔に。
「ありがとうございます。わたしが独自にアレンジを加えたカレーなのです♪」
ルルティーナは、製作者として嬉しそうに声を弾ませた。
「あと、あんぱんも人気♪ 牛鍋ぱんもあるんだけど……好みが分かれるかな」
志桜里はあんぱんを差し出した。
「お菓子が甘くて美味しいのは、世界関係無いねっ♪」
受け取った桃子は頬張り、甘いは世界共通だとしみじみ。
「名所も聞いていいかな?」
桃子の質問に
「山奥にある絹河温泉郷かな? 修祓隊関係者しか行くことは出来ないが、自然豊かな避暑地としてすごく良い場所だったぜ」
壱星が回顧と『土地鑑(扶桑市)』を活かしつつ答えた。
「異世界の温泉っていうのも面白そう」
桃子は何やら想像しているのか、楽しそうな顔だ。
「だが……」
壱星はちらりと隣の二人を見やり、同じ気持ちだという頷きを貰う。
そして
「やっぱり六明館学苑でしょうか♪」
ルルティーナが声を弾ませて言った。
「興味がでたら六明館学苑の門を叩いてみてくれ。いつでも歓迎するぜ!」
「神州に来てくれたら、いつでも案内するからね?」
壱星と志桜里も笑顔で続いた。
「うん、ありがとー!!」
桃子は嬉しそうに返した。
■投票世界
神州扶桑国:3