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枯井戸の子猫とミイラ取り

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枯井戸の子猫とミイラ取り
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「ののさんが子猫追いかけて井戸に落ちたって本当?!」
 パトリックが事の次第を友人達に向けて連絡してから程なくして、真っ先に現場に駆けつけて来たのは七種 薺だった。
「あ、いや、落ちたわけじゃなくて勝手に降りていって上がれなくなっただけで……」
「待っててののさんっ!」
 パトリックの言葉を最後まで――いや、最初から、か――聞きもせず、薺はその身を井戸の中へと躍らせた。
「あー……えーっと……おねがいしまーす」
 パトリックが薺の飛び込んでいった井戸を呆然と覗いていると、その後ろからのっしのっしと体長2メートルほどのアライグマ、の、着ぐるみを着たゆる族である、ドン・フレイムバックが現れた。肩には頑丈そうなロープを担いで、何やら荷物を持っている。
「……あ、えっと、どうも」
 無言のまま、薺の消えていった井戸を覗いているドンに、パトリックは軽く頭を下る。以前薺と共に、屋敷の片付けをしてくれた友人ではあるのが――なにせ体長2メートルのリアル志向着ぐるみのアライグマ、しかも喋らないので、パトリックから見たドンは今のところ、「いつも薺の後ろにいる着ぐるみのひと」である。
 しかし、ドンはそんなパトリックの様子を気にすることもなく、井戸の中をのぞき込み、周囲を確認し、薺の姿がないことを認識したのだろう、大きく肩を落とすと、荷物の中から大きなスケッチブックを取り出した。そして、そこに何やら暫く書き付けて、こちらに向ける。
 そこには、「勢い任せな相方だと苦労するな」と、おおらかな字で書き付けてあった。
「……ああ……お互い、苦労しますね……」
 ドンの言わんとすることを察したパトリックが苦笑する。
 するとドンは再びスケッチブックに「だがそういうやつが何かを動かすもんだ」と書き付けてパトリックへと見せる。それから手にしたロープをパトリックに向けて差し出した。頑丈なロープのようで、現在井戸に垂れている古びたロープよりは随分マシだろう。付け替えておきますとドンへ伝えると、ドンはぐっ、とサムズアップを見せて、薺の後を追うようにその巨体を井戸の中へと押し込めるように入っていった。
「……出て、来れるのかな……」
 そんなことをちょっぴり心配しながら、パトリックが井戸の中をのぞき込んでいると、背後から別の足音が、それも結構な速度で迫ってくるのが聞こえ、振り向く。
「ののがスライムに襲われただとぅ!?」
 血相を変えてすっ飛んできたのは、アキラ・セイルーンだ。ただ、顔を青くさせているのではなくて、どちらかというと紅潮させて。
「それはアレか! 服を溶かされてぬちょぬちょのむちょむちょか! どうなんだパト! 答えるんだパトぉー!!」
 アキラはまっしぐらにパトリックの元へと駆け寄ると、その胸ぐらをわっしと掴んでがっくんがっくん揺さぶる。パトリックが何も答えないのは、答えろと言っている当人に揺さぶられているせいなのだが。
 結局アキラはひとしきり一人で騒ぎきってから、「こうしてはおれん、直接見に行かねば!」と、快哉の声ひとつ残して井戸の中へと消えていった。
 やっと解放されたパトリックは、げほげほと咳き込んで息を整えてから、またしても井戸の中をのぞき込んで騒ぎの元凶を見送る。
「……スライムって、服溶かすような習性、あったっけ……?」
 アキラの残した言葉に首を傾げていると、再び後ろからため息が聞こえた。
 振り向くと、アキラのパートナーであるルシェイメア・フローズンが、一連の騒ぎを見ていたのだろう、「呆れ」という感情を極大まで表現した顔で立っていた。
「……ここにも苦労人がいたか……」
「何のことやら解らんが、なんとなく解るのが切ないところじゃのぅ……というわけで、わしはアキラのお目付に行ってくるから、そのロープに何かとっかかりになるものでも結んで、垂らして置いてくれんか」
 ルシェイメアはパトリックにそう言いつけると、アキラの後を追って井戸へと飛び込んでいく。
 今回はパトリックも、落ち着いて「解りました、気をつけて」と見送った。

 それから程なくして到着したのは、二頭のペガサスを駆って来たアマニ・エクルベージュフェイミィ・オルトリンデの二人だった。
「大変みたいね。……私達は、子猫の方を探そうと思うわ。ののが、猫を放って戻ってくるって言うとは思えないし、ね」
 アマニはパトリックにそう伝えると、水路の地図や、子猫が普段使っているケージなどはないかと確認をした。しかし、パトリックは困ったように後ろ頭を掻いてみせる。
「すみません、うちの猫ってわけじゃなくて、迷い猫なんです。だからケージとかもなくて……あと、水路の地図も、何しろ水路の存在自体今日気付いたもんで……」
 そして少し考えて、皆さんと地図の共有をできるよう言づてするくらいなら、と申し出た。
「そうね、そういうことならそれで十分よ、ありがとう。……行きましょ、フェイミィ」
「はいよ。猫探しなあ。まぁ、ネコと遊ぶのは好きだぜ、捕まえるのも」
 アマニに促されて歩き出すフェイミィが、軽口めいた口調でアマニに向けて告げる。
 それを聞いたパトリックがなにやら片眉を上げ、何か言いたそうにしていたのだが――いざ井戸へ身を躍らせようとしている二人が、それに気付くことはなかった。

 そして彼らに遅れること少し、他の友人達も、ののと子猫の危機を聞きつけて次々やってきてくれた。行き会った人達はその場で軽く打ち合わせをしたり、パトリックを交えた情報共有の約束をしたりしながら、それぞれ井戸の中へと入っていく。
 どっとやってきた人々を見送った後、パトリックは井戸の中へ入っていった人々からの連絡を待つため、井戸の側で座り込み、通信端末とにらめっこしていた。
 と、そこへ。
「いや、出遅れましたか」
 キッチリとした服装に身を包んだ――つまり、蒼空学園をはじめ、シャンバラ国内で契約者達が属する学校の生徒には一見見えない――一人の男が、沢山の荷物を抱えてやってきた。
 パトリックは少し不思議そうな表情を浮かべながらも、その口ぶりと、ヘルメットやらロープやらが見えている荷物の内容に、どうやらののの一件を聞きつけてやってきてくれた人ではありそうだと、立ち上がり、どうも、と軽く会釈する。すると男――川上 一夫は、パトリックが出した救援要請を聞きつけて、必要と思われる諸々の物資を購入してから駆けつけてくれたのだと話した。
「私にも桜坂様と同じ年頃の娘がおりまして、他人事とは思えなかったものですから……では、私も捜索に加わって参ります」
 一夫は丁寧な口調と仕草でパトリックに頭を下げると、荷物から取り出したヘルメットを被り、カンテラを手に、井戸に垂れているロープを頼りに降下していった。

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