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くちなわの縁~たそがれ夜祭り4~

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くちなわの縁~たそがれ夜祭り4~
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 太陽が地に沈みかけ、空が夕焼けに染まる頃。山の頂き付近から祭り囃子が聞こえてくることがある。
 その太鼓や笙の音色に導かれるように山を登ると、はてさて、祭りが開かれている場へとたどり着く。
 しかし近づく前に、ようく目を凝らして見てみよう。人ではない、摩訶不思議な者たちばかりではないか。
 それは妖たちの夜祭り。


 吹き荒れる暴風は、まるで大気が悲鳴を上げているようだった。
 こんなこと、一度もなかった。それだけここの神様の通力がおかしくなっている証拠なのだろう。
「大丈夫ですか、ノーンさま」
 心配げな舞花に応えるように、ノーン・スカイフラワーはいつの間にか縮んでいた背筋をしゃきっと伸ばして笑顔を見せる。
「うん! こんなの、へーきだよっ。
 それより、早く行かなくちゃ。こんなふうになってるなんて、神様が心配」
 自分のことより神社の神を優先して気遣う心優しいノーンに、舞花は「そうですね」と応えると、ノーンに当たる風を少しでも和らげようと、彼女の盾となって歩く。
 びゅうと一際強い風が吹いて、ひらりと飛んできた葉か何かが目元に当たって、榦宙 結は突然視界をふさがれた。きゃ、と思わず声を上げた彼女の左足の下で土がずるりと滑る。あわや山の斜面を転がり落ちるかと思われた結を、すぐ後ろにいたメナト・アジズが支えた。
「あっ、ありがとうございます」
 礼を言う結に首を振るメナト。
 2人のやりとりに気付いて、前を歩いていた数多彩 茉由良が振り返った。
「だいじょうぶですかぁ?」
「はい、もう平気です。ご心配をおかけしました」
「こんかいのおやまは、みちがきびしいようですから、きをつけてのぼりましょうねぇ」
 彼らは今、人1人が歩く幅しかない山道を、上に向かって進んでいた。すぐ左は斜面で、木々の天蓋に光を遮られ、黒々とした闇が広がっている。
 こんな危険な場所を夜、しかも悪天候の中登るのは、道の先に何があるか確信し、目的を持つ者だけだ。
 強い向かい風に茉由良は面を上げ、耳を澄ます。
 風のうなりの中に、祭り囃子の笙の音色をはっきりと聞き取る。
「かなり近づいています。あとすこしですよぅ」
 がんばりましょう。茉由良の励ましに湧いてくる力を感じて、結は笑顔で「はい」と頷いた。


 長く細い山道を上りきった先。開けた場に発光する赤い鳥居が見えた。そこには案内人が立っていて、特異者たちはほっとする思いで駆け寄った。
「いらっしゃい。こんな天候の中、よく来てくれたね」
 いつものようににこやかな笑顔で出迎えてくれた案内人の表情が、少し曇る。
「でも、残念だけど、今回夜祭りは開かれていないんだよ。せっかくだけれど――」
「分かってます!」
 食い気味に言ったのは結だった。
「私たち気になって……。あの後、神様はご無事だったのでしょうか?」
 心配そうな彼女の表情。見渡すと、皆似た表情を浮かべていることに、彼らはこの事態となった経緯を知っているのだと案内人は理解する。
 そんな彼らに、今のこのありようはさぞ不安に映ているだろう。
 安心させるように、結の肩をたたいた。
「大丈夫。安心して。神様はここへはご自身を癒やされるために来たそうだから」
「では俺たちに、何かお手伝いすることはできませんか」
「あのとき。あの場に。俺たちは……いました。
 知らずとはいえ。責任は……、俺たちにも、あります」
 水城 頼斗遠近 千羽矢の申し出に、案内人は少し驚き。目を伏せた。
 今回のことにきみたちに責任はないと言いたいが、それを口にしたところで彼らの思いをはねつけるだけで、何の慰みにもならないだろう。
 とはいえ。
 自分にそんな権限はあるのだろうか。自分はただの祭りの案内人、それだけだ。
 逡巡の後、案内人は問いかけるように提灯売りを振り返ったが、提灯売りは何か言ってくれる素振りも見せない。
 もう一度特異者たちを見渡して、決めた。
「……いいよ。妖たちはいないけれど、今は夜祭りの時間だからね。囃子の音に招かれたきみたちは、この夜祭りの客人だ。夜祭りの間、好きに歩き回る権利がある」
「ありがとうございます!」
 案内人から許可をもらえて特異者たちは喜んだ。
 前を譲ろうとした案内人に、邑垣 舞花が申し出る。
「提灯を、いただけませんか」
「そんな物は――」
 いらないよ、と言いかけた案内人の視界に、提灯売りが店を開き始める姿が入った。
「……そう、だね。今は夜祭りだったね。決まりは守らないと」
 思い出させてくれてありがとう、と舞花に感謝の目を向けると、案内人は特異者たちに告げた。
「ここは妖の夜祭り。人が中を歩くには提灯が必要だよ。さあ、あれを受け取って」
 
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