ヴェイスⅡ辺境の密林を、デバステイターが突き進む。密林の樹々をへし折り、なぎ倒し、猛獣たちを踏み潰して爆進していた。
彼の通り過ぎた跡には、へし折れた樹々、溶かされ穴の空いた地面、無残な死骸が残るばかり。
放っておけば、辺境の密林に甚大な影響をもたらすことは間違いなく。討伐が試みられるのは、当然の流れだった。
密林を舞台に、異形の怪物――否、怪獣とクレギオンたちの戦いが始まる!
◆
そんなきっと血湧き肉躍る勇士たちの姿を、その目に焼き付けて資料とするため、
レジスター・ホーラダミアは辺境の密林を訪れていた。
要するに、取材である。
そんなレジスターの視界が捉えたのは、奇妙な光景だった。
「……樽? ……樽、ですね」
樽だった。
正確には、樽を抱えたパワードスーツ。
巨大な樽を抱え、デバステイターのもとへと向かうリトルドールの姿が、そこにはあった。
「そこの人、樽なんか持っていって一体どうするおつもりで?」
思わず声をかけてしまったレジスターに、ややあってからリトルドールのパイロット――
アウロラ・白蘭が答える。
「昔どこかで、似たような怪物を退治した話を耳にした覚えがあるのよ」
首が幾つもある怪物に、酒を呑ませて弱らせたんだったか、眠らせたんだったか。とにかく、そういう話だ。
「……大昔の地球の神話に、そんなお話があったような気がしますね」
球の神話に憧れているだけあってか、レジスターの理解は速い。
「そのやり方を真似てみたら、少しは役に立つかもって思ったのよ」
「つまり――アレに酒を呑ませようと?」
アレ、とはもちろんデバステイターのことだ。酒を嗜むようには見えないが。
「呑まないなら呑ませるし、無視なら無視で考えはあるの」
まさか神話のとおりにトドメになるとは、アウロラだって思わない。
頭一つでも正常な襲撃をできなくなれば最良、飲んで隙を作ることができれば万々歳。
そもそも効くか、飲むかどうかも定かではないのだ。最悪でもデバステイターと戦う仲間が、一撃を叩き込む「何か」になれば充分だろう。
「ん~、なるほど。神話の再演、是非とも取材をさせて頂きましょう」
「取材?」
戦う気はないのかという視線に、「私は戦闘員じゃないので」とレジスター。
「……パスしちゃダメですかね?」
「――ここまで来といて、取材だけで済ますのは難しいと思うぜ?」
別のパワードスーツが、密林の向こうから姿を現した。
肩にビーム砲、腰にガトリング、背部と脚部には追加ブースターを備えたその機体は、FPS98M-シャノワール。
ミューレリア・ラングウェイの搭乗機だ。
「それであんたを攻撃しなくなってくれるわけじゃないだろ?」
ミューレリアの言葉に、軽く頭をかくレジスター。
「……わかりました。乗りかかった船というやつですね。あ、でも前には出ませんよ?」
まあ、観察と分析くらいはできるだろう。