クリエイティブRPG

指先に触れそうな月。

リアクション公開中!

指先に触れそうな月。
リアクション
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last
 

 【玉かぎる夕さり来れば】


 ワールドホライゾンから、ゲートを抜けて。
 京の町の外に降り立ったイシュタム・カウィルは、町の中に入る前に郊外を振り返った。

 ――あれから、一年。

 遠くに見えるあの小高い山に登り、ふたりで月を眺めてから。
 そう。
 イシュタムは、今こうして隣にいる“恋人”の天草 在迦から、あの夜、告白の返事を受け取ったのだ。
 感慨深く足を止めて遠くを見やるイシュタムの手を、在迦はそっと取ると促すように軽く引いた。
 振り向いたイシュタムの目と在迦の目が合う。

「行こう」

 自然と微笑み合い、互いに頷くと街中へと足を踏み入れた。
 日が落ちてなお人出が途切れないのは、今宵が望月だからということもあるだろうか。
 素見しがてら流し見る大路の店先に、十五夜の供え物を設え始めているのを見るに、今宵が特別な夜であることを知る。
 未だ残る日の光は、いつしか闇に溶け始め。
 大路に篝火が、店には灯りが点された。
 ぼんやりとしたその暖かな火は、何故か心を落ち着かせる。
 昇り始めた月を見て去年の告白を思い出し、在迦は少し気恥ずかしさを覚えたのだが、それも和らいだ。
 季節を巡り、恋人として傍らに居続けてくれる幸福。

 ――手と、手を、重ねて。

 町を歩く。
 去年とは違う景色の町を、ふたりで。

 今宵は、満月。

 街中の宿へと着くころにはすっかりと月は昇り、窓越しに見上げることができた。
「ルティアさん、ここからよく見えるよ」
 窓辺に腰を下ろし、在迦はイシュタムを手招いた。
「本当、綺麗だ……」
 イシュタムは在迦の傍らに座り、彼と同じように月を見上げ、息を吐いた。
 ゆっくりと時間が過ぎゆく。
 ただ静かに、ふたり並んで月を眺める。
 在迦が、小さくクスリと笑った。
「?」
「思えばお出かけして窓ごしに二人で見上げるのは初めてだなって」
 不思議そうに在迦を見るイシュタムに、彼はそう答える。
「確かに、こうやってお出かけの泊まり先で月見をするのは初めてだ」
 イシュタムも在迦に同意する。
「あのお月見から、冬、春、夏と仲良く一緒に過ごせて…
大和では素敵な桜のお花見と、いただいて帰った桜の花弁
お土産を約束してた、ルティアさんの妹さんへのお供えもできて」
 思い出を、指折り数える。

「とても曖昧な関係から「こいびと」になっての一年
あの時見届けてくれたお月様に感謝というか報告というか
一周年の節目のご挨拶みたいかも?」

 そう言いながら、静かに月の光を纏い居る。
(あ、私の亡くなった妹へのお供えの事…季節を越えても、ちゃんと覚えていてくれたんだな)
 あの春の日のことは、在迦が優しい人だと、もっと感じた瞬間だったなと、イシュタムは思い返す。

「至らないこともあったと思うけれど、ありがとう」

 ――それから、どうかこれからも。

 イシュタムに目を合わせて、在迦はそう言って笑った。
「…勿論こちらこそよろしくな!」
 満面の笑みで返しつつ、イシュタムは思う。

(一年前、私の告白の想いを…受け止めてくれて
「恋人」として認めてくれて…本当に嬉しかったなって
あの時もこうして見守ってくれてた月に、在迦と一緒に感謝を…)

 在迦は、そんなイシュタムを眩しそうに目を眇めて見た。
 窓の外からはお月見泥棒の子どもたちの声が聞こえてくる。
 開け放たれた窓から流れる空気は、秋らしくひんやりとしている。
 イシュタムが小さくくしゃみをした。
「寒そうだけど大丈夫?」
 心配そうに在迦が問うと、
「少し肌寒いな……」
 と、イシュタムはいらえた。
「なぁ、一緒に寝ないか?」
 夜風で冷えた体と、この気持ちをもっと温めたいから。
「一緒に眠りに?」
 在迦は小首を傾げて少しばかり考えると、傍らにあった衣を広げ、ふわりとふたり一緒に包み込むように被った。
「うん、ふたりだと温かいね」
 クスクスと互いに笑い合う。
「手を繋ごう」
「うん、繋ごう」
「おやすみなさい」
 きゅっと、指と指を絡めて。温もりを、傍に感じて。
「おやすみなさい」
 温かな、そして、しあわせな気持ちとともに、眠りに落ちる。

 ――どうか、良い夢を。

 
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last